後にしてくれ

春嵐

01

『そろそろ結婚しようね?』


「後にしてくれ。仕事があるんだ」


『あっそ』


 電話を机に叩きつけて切る、すさまじい音。


「耳がいてえ」


「おい。恋人との電話は終わったか?」


「課長」


「なるべくいちゃいちゃしとくんだな」


「結婚を申し込まれました。これから仕事なのに」


「あはは。そいつは傑作だな」


 機雷除去の一番難しいところ。爆破処理と回避を延々と続けながら、海中を泳ぎ回らないといけない。繊細な作業が必要なので、無人機やドローンは使えなかった。機雷自体が磁場も出している。


「こういうの、なんていうか知ってるか?」


「フラグって言うんでしょ。実際生きて帰れるか、分かんねえんだよなぁ」


「俺が替わろうか?」


「課長死んだら機雷掃海の指揮誰が引き継ぐんすか」


「おまえ引き継げよ」


「いやですよ。恋人と結婚するんで。これ以上忙しいのは勘弁です」


「あっそ。じゃ、生きて戻ってきな」


「おす」


「死んだら恋人には俺が伝えようか?」


「あ、伝えないでください。これからも、恋人に仕事のことを話す気ないです」


「マインスイーパだぞ。世界に誇れる特殊技能なのに」


「そういうかっこいいやつは、隠してるからこそかっこいいんすよ」


「そっすか」


「そす」


「いや実際、お前が死ぬと世界中で爆発物で死ぬ人間増えるからな。生きて帰ってこい。フラグをへし折れ」


「おす」






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る