企画 叙唱されるもの 短編まとめ

アクア

グローハーツ

すれ違う思い

ロザリエの家には珍しく客が来ていた。

黒髪の左右で色が違う目、派手にアクセサリーを付けた男性。


「なぁ、ヴィノス」


紅茶を出されたヴィノスは一言礼を言うとそれをゆっくりと飲む。

ロザリエにはずっと引っ掛かっている事があった、そのために今日彼をここに招いたのだ。ヴィノスから感じる、自分への後ろめたさ。


「何だ」

「....私は君とどこかで会った事があるか?」

「どこかって....祭りで会っただろ」


‪ヴィノスは少し視線を逸らす。やはり‬それにロザリエは違和感を感じた。


「いや、それ以前からだ。どこかで....」

「ははっ、俺様にナンパでもしてるのか?」


茶化すヴィノスの向かいに座り、ロザリエはしっかりと彼の顔を見据える。


「誤魔化すな」

「........」


‪ロザリエから感じるのは怒りの感情だ。ヴィノスは黙り込む。やはり自分達は会うべきではなかったと。‬


「言いたくねぇ」

「大切な事なのだろう?」

「言わねぇ」

「私達はどういう関わりなんだ」

「チッ、しつけぇんだよ!」


ガタンと椅子が大きな音を立てる。二人同時に立ち上がり、ロザリエはヴィノスの首のギリギリに剣を向ける。

‪対してヴィノスは、ただロザリエを睨みつけるだけだ。‬


「君ならば瞬時にこの剣を跳ね返し私を殺す事だって出来だろう」

「....」

「君は殺しを躊躇する性格ではない、何故私を殺さない」


ロザリエは剣を収めると、再び座りヴィノスにも座るように促した。この場の空気は重い。

‪ヴィノスはため息をつき、紅茶を一気に胃に流し込む。‬


「エルシュ・ネルト、聞き覚えがある....ってレベルじゃねぇよな」

「....やはりか。私の相棒、そして親友だ」


ロザリエの住む山小屋の近くには1つの墓がある。十字架の代わりに使い込まれた剣の刺さった簡素なものだ。

エルシュ・ネルト。豪勢な屋敷を持つお嬢様でありながら、剣を振るい華麗に戦う戦士だった。


‪「あいつは俺の、血は繋がってねぇが妹みてぇな存在だった。あの日....エルシュが死んだって知った時はそりゃぁもう荒れに荒れたなぁ....」‬

「........」

「お前の存在はエルシュから聞いてた。大切な、自分よりも大切な存在だとよ」

「そう....か」


私も同じだ、とロザリエは彼女が死んだ日を思い出していた。自分の怯えのせいで、彼女は命を落とした。背にある大きな逃げ傷が痛む気がする。


「俺はあいつの意思を継ぎたいと思った。あいつが自分より大切だと考えたお前を、俺が代わりに守ろうと」

「──っ!余計なお世話だ!私は1人で生きていける!」

「はぁ....だから言いたくねぇっつったのによぉ....」


ヴィノスは椅子の背もたれに体を預けると、ロザリエの様子を伺う。こうなる事は分かっていた、だから言いたくなかったのだ。


「....悪党にいちゃもんをつけられ絡まれている時、相手が急に氷漬けになったのも」

「ああ、俺だ」

「任務中敵に囲まれ、苦戦していたらいつの間にか敵が死んでいたのも」

「勿論俺だ」

「バナナの皮で滑った時、奇跡のように転ばなかったのも」

「(....いや、それは知らねぇな)」


ロザリエは考え込む。自分が危機を救っていたのは全てをヴィノスだった。自分の半身のように思っていたエルシュが亡くなって、それでも生きていけると思っていたが自分は結局助けられていたのだ。


「ただの妹分の親友だぞ」

「ああ」

「ただの他人だ」

「そうだな」


それでもヴィノスの意思は変わらない。ロザリエに、エルシュが死んだ時一緒にいた彼女にエルシュの死の重みを背負わせてしまった。それがどうしても、自分の中で許せなかった。


「なら、私の為に命を張れるか?無理だろう?なら最初から助けるなどやめ──」

「張れる」


ヴィノスの目は本気だと物語っている。予想外の返事にエルシュが自分の為に死んだ瞬間がフラッシュバックする。魔物は爪が、必死な顔で自分を庇う彼女を引き裂き──


「やめてくれ!もう私のせいで誰かが死ぬのは嫌だ!」

「うるせぇな、俺様は俺様の好きなように生きる。指図すんじゃねぇ」

「──っき、君はおかしいぞ!私を救いたいのなら命を張るなどと言うな!」


ロザリエにとってはそれが1番辛いことだ。だが、ヴィノスは譲らない。自分を救いたいのか苦しめたいのか意味が分からないと、ロザリエは混乱する。


「俺はお前のためにやってるんじゃねぇ、エルシュのためにやってるんだ」

「やめてくれ....私はそんなこと望んでいない....」

「俺は変わらない、お前を守る。それだけだ」


話は終わりだとヴィノスは席から立ち出てゆく。それを見ながら放心状態になっていたロザリエはずるずると椅子にもたれ掛かる。


「何なんだ....あいつは....」


ロザリエは溢れてくれ涙を堪えようと強く胸を押さえるが、膝に雫が落ちた。それをきっかけに堰を切ったかのように声を出して泣くロザリエは、自分がこれからどうしたらいいのかが分からないかった。



ロザリエとヴィノス。2人の繋がりは、歪だった。

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