聖女を追放した王子は、追放した聖女の幸せを願う!

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第1話

クリスタル王国にて代々聖女を輩出している家柄である特別貴族、聖女伯爵家の聖女シオンは突然、王城へ呼び出された。


「聖女シオン、ただいま参上致しました」


王の謁見の間に入った瞬間、シオンはその場にいた多くの貴族達に驚いた。広い謁見の間に、各貴族の当主の殆どが勢ぞろいしているようで、左右に並んで整列していたのだ。

正面の玉座には王様と王妃様、そしてその脇には宰相と第一王子のジークレスト様が立っていた。


「よく来てくれた聖女シオンよ。そして今までご苦労だった」


シオンに声を掛けたのは国王ではなくジークレスト様だった。そしてその言葉に首を傾げた。


「それはどういう意味でしょうか?」


聖女シオンの言葉に答えたのは宰相だった。


「聖女シオン、貴女は国外追放する事に決まった!」

「なっ、何故でございますか!?」


「聖女シオンよ。貴女はやり過ぎたのだ。歴代最高の力を持つ貴女は、魔物を防ぐ結界を張る仕事以外に、田畑の発育を良くする術を見つけ、さらに聖女以外の他の者でも難病を救う事ができる医療の発展と薬の開発にと、多くの偉業を成し遂げた。その事に、王を初め多くの者が感謝している。それ故に、民は聖女シオンを讃えて、王族や貴族を敬わなくなったのだ!」


「そ、そんなことは!?」

「民が王族や貴族を軽んじるようになれば、領主の命令を聞かなくなり、統治できぬようになってしまう!これは由々しき事態なのだよ!」


必死に反論しようとしたが、すでに決定しているようで聞き入れてはくれない。

故にシオンは幼馴染であるジークレストに助けを求めた。


「ジーク様も賛成なのですか!?」


僅かな希望にすがる様にジークレストを見据えた。


「ああ、そうだ。聖女はもう我が国に必要ない!兵の増強に、薬の増産、配給などすでに整っている!我がクリスタル王国は聖女がいなくともやっていけるのだ!そうであろう?皆の者よ!」


謁見の間にいた多くの貴族に呼び掛ける。


「そうだ!聖女は必要ない!」

「我々だけで十分だ!」

「今こそ王権を示す時だ!」


王子の言葉に次々に聖女不要論を叫ぶ貴族達。そこには、先日子供の病を治した貴族もいた。


「カール伯爵まで………」

「聖女様、先日は息子がお世話になりましたな。しかし、聖女様が治して頂かなくとも時間を掛ければ薬で治せたのですよ」


そう言って、感謝の言葉もなく淡々と言われた。


「お、王様も王妃様も同じ考えなのでしょうか?」


最後の頼みとばかりに視線をやると、大きく頷いた。


「すでに沙汰は下した。貴女には世話になったが、これ以上は統治に差しつかえる。隣国には話は付けてある故、ゆっくり休むと良かろう」


幼い頃より、第二の父と慕っていた国王からも裏切られ項垂れるシオンだった。


「これより聖女シオンは国外追放とする!すぐに出て行け!聖女を逃がさぬよう監視の護衛を付ける!騎士団よ、聖女シオンを国境までお送りするのだ!」


!?


「なっ、今すぐですか!せめて家族に別れの挨拶を─」

「すでにお前の家族も追放している。国境で会うといい」


すでに家族も追放されていると聞いて、さらにがっくりと力が抜けた。


「どうしてですか!私が要らないなら私だけ追放すればいいでしょう!?」


「聖女の家族というだけで民が祭り上げる可能性があるからだ!さぁ、連れていけ!」


こうして有無を言わさずに王城から連れ出されて、騎士達と共に馬車に乗せられた。


「どうしてこんなことに……………」


馬車に乗ると、メイドとして仕えているニーナがすでに乗っていた。


「お嬢様、気になされずに早く行きましょう。国境で御両親がお待ちですよ」


私が追放された事に何も聞かないニーナに尋ねた。


「…………ニーナは知っていたの?」

「はい、今日お嬢様がお城へ呼ばれた理由は存じ上げておりました」


ニーナの言葉に目を開いた。


「何故黙っていたの!」

「御両親から口止めされておりましたので」


すでに荷物が積んである事から前々からすでに決まっていたと推測された。


「私、頑張ってたつもりだったんだけどなぁ………」


独り言のように呟くシオンにニーナは同意する。


「そうですね。お嬢様は頑張り過ぎたと思います。新薬の研究に寝食を忘れて没頭し、民を癒すのに魔力を空にするまで治療して、いつもお嬢様は自殺希望者じゃないかしら?と思っておりました」


!?


「そんなことある訳ないでしょう!」

「しかし、周囲から見たらそう捉えられても仕方ないと思います。周りがどれだけお嬢様の身体を心配したか知らないでしょう?このままではお嬢様が過労で死んでしまうのではと………なんど苦言しても聞いて貰えませんしね」


知らなかった。周りからそんな風に見られていたなんて。


「お嬢様は集中すると周りが見えなくなりますからね」


あぅ………何も言い返せないよ。


でも、少し気持ちが楽になりしばらく馬車に揺られながら国境へ向かった。

すると、途中から急にゆっくりと馬車のスピードが落ちた。


窓から外を見てみると、多くの民が荷物を担いているのが見えた。


「ねぇ、ニーナ?いつもこんなに往来が盛んなのかしら?」


ニーナは顔を下げたまま何も言わなかった。


「ニーナ………?」


ニーナの様子が変だと思い問いただした。


「ニーナ、言いなさい!何があったの!」


いつも怒らない私の声にビクリッと震えて、懐から手紙を差し出した。


「これは………?」

「本当なら国境に着いてから渡すように言われていた物です」


手紙を見ると、王家の蝋印が押してあった。


「これはジークから?」


急いで開封をして分厚い手紙の中身を読んだシオンは息を飲み涙を流した。


「そんな事って…………」



『拝啓 親愛なるシオンへ


この手紙を読んでいる頃には君を酷く傷つけいるだろうね。許してとは言わない。恨んでくれていい。ただ、どうしてこんな事をしたのか理由だけ伝えておく。


先日、南の大国から宣戦布告を受けた。

向こうの狙いは聖女シオンだった。君を差し出せば、宣戦布告を取り下げ、優位な貿易権を結ばせると言ってきたんだ。


無論、我々は全員の賛同の下、徹底交戦を選んだ。当然だ。今まで君に救われた者は多い。その恩を仇で返すことなど絶対にできない!


そして聖女の結界は人間には効かない。


南の大国の兵力は我が国の3倍はある。勝ち目が薄いだろう。カール伯爵なんて息子を救ってくれた聖女シオンに報いる為に1人でも多くの敵兵を道連れにすると高らかに叫んでいたよ。


故に、聖女シオンを理由を付けてこの国から逃がす事にした。


ただ逃がすだけだと隣国にも迷惑が掛かるので、見え透いた言い訳だが、正式に国外追放したという体裁で、聖女は国とは関係ないと正式に文面に残すことで、この国がどうなっても君に迷惑が掛からないようにした次第だ。


北の友好国は我が国と長年交流もあり、国境は渓谷に遮られているから、大軍での侵攻には向かない。きっと君を守ってくれる。

まぁ、多少は聖女の力を求められるだろうけど、南の大国より全然待遇は良いと思う。


私はこの国の王太子として、貴族達と共にこれから戦地へと向かう。勝てないまでも、敵の主力を削ってすぐに戦争が仕掛けれないほどの打撃を与えるつもりだ。


君を守るという意味でこちらの士気は高い!


それと戦えない者は避難させている。貴族の後継ぎなど残さないといけないからね。


最後に聖女シオン、私は君の事が好きだった。いや、愛している。君と過ごした日々は私にとってかけがえのない宝物だった。


どうか幸せになって欲しい!


君は集中すると周りが見えなくなるから、身体には気を付けて。

敬具


ジークレスト・クリスタルより』



手紙を読んだシオンは自分が周りを見えていなかった事を後悔した。隣国から戦争を仕掛けられたのなら街の騒ぎに気付くはずだったのだ。


「お嬢様、南の大国の狙いがお嬢様だったので、お嬢様に気付かれないよう、ここしばらくはお屋敷で結界のお祈りのみさせて、外に出ないようにさせていたので、知らなかったのは無理ないですよ」


そう言えば、ここ数日は少しおかしいな?とは感じていたんだよね。


でも、どうすれば良い?


戦場へ行って傷付いた兵士を癒す?いや、それこそ焼け石に水よね。

私の結界は人間には効かないし…………

あれ?何か引っ掛かる。本当にそうなの?


結界…………


あっ!そうだわ!?


シオンは馬車を止めて!と叫ぶと、馬車を降りて、街道の脇にある林に入った。無論、騎士達は慌てて追った。


「聖女様、馬車にお戻り下さい!」

「黙って!逃げないわよ。手紙を読んで現状の把握はできています!」


シオンは祈るポーズを取ると集中した。

聖女は自分の張った結界を感じる事ができるのだ。


「ねぇ?南の大国はもう攻めて来ているの?」


騎士達は少し戸惑ったが説明した。


「はい、すでに国境が落とされております」


なるほどね。なら、ちょうどいいわ!


シオンはとある細工を結界に施したのだった。

そして、馬車に戻り国境へと向かった。


国境へたどり着くと、検問所の待合室でシオンの両親が待っていた。


「シオン、この度は………」

「すみません、すでに馬車で手紙を読んで事態の状況は把握しております」

「そうか、ならば急ぎ隣国へ向かうぞ!」


父親の言葉にシオンは首を振った。


「いいえ、私はここで待ちます!」


シオンの言葉に両親は驚いた。


「しかしシオン....」

「大丈夫です!結界に細工をしたので上手く行けば南の大国は兵を退かせるはずです!」


シオンの言葉になんだと?と言う視線を投げ掛けた。


「お母様、聖女の張る結界の概要は覚えておいでですか?」

「無論です。私達、聖女の張る結界は魔の者を苦しめる空気の様なものを作るのです。ガラス様に魔物をまったく通さないのではなく、結界内に入ると苦しくなるので、魔物が外へ逃げるようになり、王国は魔物に襲われなくなるのです」


お母様の説明に満足に頷いた。


「その通りです。実はここに来る途中に、王国の結界を南の大国の方に拡大したのです」


シオンの言葉にお父様は理解できず尋ねた。


「それはどういう意味があるの?敵国の土地を守ってどうする?」

「お母様の言った通り、結界は王国全体に及んでいます。しかし、南の国境では王国と南の敵国の間に、魔境の森があるのをご存知でしょう?」


ここまで説明を受けてお父様とお母様があっ!とした顔になりました。


「ここいらでは魔物のレベルが高く、刺激しないように国境のギリギリまでしか結界を張ってませんでした。それを南の大国まで結界を拡大したのです。きっと今頃は南の方に多くの魔物が移動している頃ですわ」


ちなみに、王国側の結界の効力を上げて強力にしたので、効力の弱い南に行くはずだ。


「それが本当ならば自国を守る為に兵を退かせるだろうな。大軍がこちらに進軍している以上、他の防備は最低限しか置いてないだろうから」


そう言って、護衛の兵士に手紙を書いて早馬でシオンの行った事を伝えに行かせた。


私達はしばらく、国境で待機する事にした。お母様も昔は聖女として、あっちこっちに出掛けて夜営をしていたので、余り辛くないようだった。お父様も騎士をしていたので逆に、夜は見張りまでしてくれた。私は毎日、国境で聖女として周囲の人達を治療しながらジークの無事を祈った。


そして、一週間がたった頃だった。


「聖女様はいらっしゃいますか!」


伝令の騎士がやって来ました。


「私はここです!」


騎士は息を乱しながらも内容を伝えた。


「南の大国の侵攻軍は撤退しました!多くの強力な魔物達が南の国の王都や街を襲ったため対応に追われたようです!」

「王子は!ジークレスト様はご無事ですか!?」


流行る気持ちを抑えて尋ねた。


「ジーク王子は無事です!何度かぶつかり合いましたが、こちらの被害は軽微です!」


魔物が南の国の街を襲っていたが、王国内に侵攻していた軍に連絡が行くのに時間が掛かり、開戦は回避出来なかった。しかし、数で勝っていても王国軍の死にもの狂いの猛攻に大国の侵攻軍は終始、押されていたようだった。


そして、総攻撃の前に伝令が届き撤退して行ったのだ。


「1度戻ります!」


こうしてシオンは追放されて、一週間ちょっとで王城へと戻ってきたのだった。


「…………何か、私に言うことはありますか?ジークレスト様?」


私は怒っていた。そう、怒っていたのだ!


「え~と、聖女シオン?顔が怖いのだが………?」


ギンッ!


「ああぁん?何か?」


ビクッ!?


「い、いや何でもない…………その、この前はすまなかった!」


ジーク王子は深く頭を下げた。


「すまなかったですって!?私があの時、どんな気持ちだったか、わかっているんですか!」


シオンの余りの剣幕にカール伯爵がフォローした。


「聖女シオン殿、そのくらいで………我々が悪かったのです。貴女を守る為に、一芝居を打ったのですから」


「カール伯爵やその他の皆さんも同罪です!あの後、手紙を読んで自分の不甲斐なさを後悔しましたよ!……………本当に無事で良かった。ううぅぅ………」


シオンは最後まで言えずに泣き出した。


「シオン、本当にごめん。そして、助けてくれてありがとう」


ジーク王子はシオンを優しく抱き締めて、頭を撫でるのだった。



そして─


「あの後、南の大国は魔物の討伐に甚大な被害がでたそうだ。龍種も混じっていたらしく、軍の大半が瓦解して、王都は勿論、他の街もボロボロになり、少なくとも十年は戦争などできない状態だそうだ」


王城のテラスで、お茶会をしている時にジークが報告してきた。


「そう、市民に被害がでたのは私のせいね」

「いや、市民もクリスタル王国を侵略することに賛成していたそうだから同罪だ。君が悔やむ必要はないよ」


あの後、私とジークは婚約した。

まぁ、あんな情熱的な『恋文』を頂いたら断れる女は居ないと思う。


だって、私の幸せの為に死ぬ覚悟をしてくれる王子様なんて何処にもいないのだから。


「シオン、本当に私と結婚してくれるのか?」

「あら?私は嫌だ言っても結婚する気よ?」


二人はお互いの顔を見合せて、お互いに吹き出して笑うのだった。


「ジーク様、愛しています♪」

「ああ、私もだよシオン!」


二人はこの幸せな時間を噛みしめるのだった。



【FIN】

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