第74話

 イオイータ銀河ファイロー星系3番惑星宇宙港。


 サンゴウはリゾート惑星へ降下するためのシャトル発着用宇宙港へと入港していた。シンが回収してきた惑星上で使用されていたアンドロイドとロボット、破壊された残骸を引き渡すためである。


「サンゴウ。引き渡すのは良いけど、結局原因はわからなかったんだよな?」


「はい。確定出来てはいません。まず、先にお知らせしておきますが、各個体の記録装置は破壊されている物も含めて全てを調査しています。艦長の戦闘能力に係わる部分については契約通り消去が完了しています」


「ああ、そんな話もあったんだったな」


「はい。その目的と依頼内容に原因の調査が含まれていますので、調査の一環として行動の命令ログを調べてあります。ある時点から、いきなり行動原理というかAIの論理的思考パターンというかが激変するのですが、外部からのアクセス記録はありませんでした。つまり外部からのハッキングの可能性はないと言えます。現在正常に戻っている事からAIの書き換えの可能性もありません。書き換えがされていれば戻りませんから。結論としてはAIに直接強制命令を出していたという話になるのですが、物理的にそれが可能な機器を接続した記録もないのです。艦長の収納空間魔法は生物を入れられない仕様と承知しております。入れて出したら全ての異常な個体が正常に戻った事から、それで直る事が原因になっている事は確定です。ここからは推測になりますが、収納空間に入れた事で自動排除される何かが個体を蝕んでいたと考えるのが合理的でしょう」


 シンが回収した物の引き渡しは、宇宙港で滞りなく行われ、サンゴウが作った調査報告のデータは運営会社に概要を説明した上で報酬の協議がされた後に引き渡された。

 そして、運営会社は頭を抱える事になる。報告された推論を信用するのであれば、惑星上に降下すること自体が危険である。シャトルも機械の塊である以上、アンドロイドやロボットの様に乗っ取られる危険性があるからだ。持ち込む予定の調査用アンドロイドも調査用の機材も同様だ。

 「回収方法や、異常な個体を正常に戻したノウハウはこの銀河の技術では再現出来ないから情報開示はしない」と、サンゴウから言われてしまえば、依頼主としては何も言う事は出来ない。

 宇宙港に入港したサンゴウを目にすれば、この銀河の宇宙船とは異質な存在であるのは一目瞭然であるから、銀河系外から来た傭兵の持つ秘匿技術だと呑み込むしかないのである。


「艦長。報酬は上限の200億エンが支払われました。それと、この惑星の利用期間がまだだいぶ残っているのですが、利用再開出来る目途が立っていないので艦長達の希望を確認したいと問い合わせが来ています」


「うーん。俺としては返金を受けて撤収しても良いっちゃ良いんだが、ちょっと気になる事がある。サンゴウの持つ記録には今回の件が可能な生物はないんだよな? で、この銀河で過去に同様の事例がないのは、文明の発展度やこの運営会社の対応を加味して考えればわかる。要は、現時点ではこの惑星上に新種の特有のモノが存在していて、これが広がれば機械文明は吹き飛ぶ可能性が有る様に思うんだが」


「艦長の考えは正しいでしょうね。サンゴウとしては、対象が機械類に限定されているのかについての疑念がありますので惑星丸ごと消滅させたいです。権限がないので出来ませんけれども」


「そうか、生物も危険な可能性があるのか。って事は、今この惑星上に居る動植物全部汚染されてる可能性もあるのか? 俺達は大丈夫なんだろうか?」


 サンゴウの判断としては、船内にそれが入り込んでいないと考えている。おそらくは病原菌の類であり、毎回乗船時に行われる検疫上の滅菌処理で対処されていると考えられるからだ。


「直接影響が出なくても、保有して媒介する事も考えられます。但し、艦長達はサンゴウに乗船する時の滅菌処理と検査がありますから問題はないと考えています」


「なるほどな。ところで、この惑星って元々こういう環境だったんじゃないよな? 人工的に作り出したんだよな? 今存在してる動植物も持ち込んだものだよな?」


「少しお待ち下さい。資料を調べます」


 瞬時にデータを漁るサンゴウは優秀だ。勝手にリゾート惑星の運営会社の保有データも覗いていたりするが、バレなければ問題ないのである。そして、生体宇宙船はそれがバレる事がない技術をちゃんと保有しているのだった。


「元々は資源採掘惑星で、粗方有用な資源は取り尽くされた後に、この会社が安く買い取って改造したのが始まりですね。関係ないかもしれませんが、この惑星が使えなくなったら倒産一直線です」


 巨額の費用を投入して回収がまだ完了していない資産なのだから当然の話ではある。順当に運営出来れば、富裕層ご用達であるので利幅が大きい優良事業なのだけれど。


「ここに来なかったらメイアに出会えていないし、報酬として貰う事も出来なかった。そして、将来的な危険を排除するっていう俺的な大義名分はある。恩義があるとまでは言えない。寧ろ貸しがあると言える会社の資産ではあるけれど、ここは一肌脱ぐとしますかね。って事で、サンゴウの考えを聞きたい。今惑星上に蔓延っていると思われるヤバイ物の殲滅方法はあるか? 後で俺らの助力で戻せる部分については、環境にどんな被害が出ようと手段は選ばないで良い」


「はい。その条件であれば。まず、確認ですけれど、艦長ならこの惑星を包み込む大きさでシールド魔法は出せますよね?」


 サンゴウからはいきなりぶっ飛んだ内容の確認事項が飛び出す。そして、唐突に出て来たメイアという名はシンに所有権が移ったメイド型アンドロイドの名前である。


 ネーミングセンスは欠片もないけどね!


「ああ。試した事はないが、まぁ可能だろう」


「それが可能であれば、惑星を収納空間に入れる事も」


「待った。惑星上に生き物が居る以上それは無理だ」


 言いかけたサンゴウにシンは言葉を被せる。


「ええ。ですから生物は全部処分する事になります。惑星をシールド魔法で包んで原因と考えられる”病原菌?”の逃げ場を無くし、宇宙空間からの攻撃で生物全てを殺処分した後、植物は艦長の攻撃魔法で全て燃やします。どうせ汚染されている可能性があるのでこの部分は譲れません」


「うわー。一旦死の星にして収納しろってか? 出来るけどそれだと宇宙空間にばら撒かれ……。あっそうか。だからシールド魔法か。維持して中身の惑星だけを収納すればヤバイ物だけが自動排除でシールド内に残るのか」


「正解です。形状の変化も可能ですよね? ヤバイ物を出さない様にして極限まで小さくした後、それを影収納で確保して貰います。惑星はそれが済んだら収納空間から元の場所に戻せばよろしいでしょう。その後は惑星改造の作業と、ヤバイ物を内包したブツの処分方法となる訳ですが」


 そこでサンゴウは一旦話を切った。考え出した処分方法の候補は3つあったのだが、どれが総合的に考えて優位なのかが判定出来なかったせいである。不確定要素が多いため同列1位で扱わざるを得ないのだった。


「提示出来る処分方法は3つ。どれが良いとは言えません。1つ目。この星系の恒星の中心部に近い場所で放り出してシールド魔法を解く。2つ目。跳躍航行で使用する超空間に捨てて来る。3つ目。艦長の収納空間に入っている移動性ブラックホールの中心物質をゴミ箱代わりに使う。以上です」


「そうか。お手軽さは1と2が勝るだろうが、今回は3つ目を選ぶ。後でこの銀河に影響が出ない場所へ転移してちゃっちゃと済まそう」


 どれも、決してお手軽と表現するのが適当な方法ではないハズなのだが、シンやサンゴウの労力という観点で判断するとおかしな結論になるだけだ。

 そして方針が決定された以上は、行動に移す許可をサンゴウが交渉して捥ぎ取るだけの話となる。そんな感じで速やかに交渉は行われ、許可を出す側には許可して承諾する以外の選択肢がない計画がそのまま実行されるのであった。

 

 そんなこんなのなんやかんやで、2時間後にはリゾート惑星は死の星へと変化し、3日後には水と緑の惑星に戻っていた。後はリゾートに相応しい生き物を持ち込み、必要な施設を再度設置するだけとなる。

 そうした部分も可能な限りシンとサンゴウがお手伝いと称して手を出したため、リゾート惑星再生計画が実行されてから10日後には、惑星は使用可能な状態にまで回復していたのである。

 尚、一度収納空間に放り込まれた事で、惑星全体が無菌状態になってしまうという副産物がついた。運営会社はサンゴウからの提案で新たに島を2つ設置する事を了承。了承された事でシンはサクッと土魔法を行使して島を2つ作り上げてしまった。

 そんな経緯で設置された島の1つは、医療専用施設として新たな収益事業となって発展して行く事になるのである。

 ちなみに、もう1つは元々の5つの島や医療用の島とはかなりの距離を置いて作られている。言うなれば絶海の孤島であり、サンゴウの停泊設備を含むシンの専用島だったりするのだが。

 ちゃっかりと代金代わりに自己の利益を追求するサンゴウなのだった。


「アーニアさんとティーニアさん。今日から予約していた日数を消化すると当初の予定期間から12日延びます。そして、運営会社からのお詫びとして、無料で30日間延長出来る事になっています。延長分の期間は別の機会に行使する事も認められていますが、これらは要は示談の話となっていますので、『訴えて損害賠償請求とかはやめてね!』という条件を承諾するのとバーターになります。どうされますか?」


 サンゴウはシンやロウジュの分については、きっちりと色々捥ぎ取っており、こちらの話はそのついでである。彼女達からは旅客搬送兼護衛としてシンが仕事を請け負っている形のため、滞在期間の変更が関係してくるのだった。

 彼女達はそのまま期間延長で示談する事に納得し、往復の移動時間も込みで82日間という日程を消化する事になったのである。


「シンさん。聞いて下さい。あの一件があった日の情報は直ぐに夫に知らせが行っていたのです。ですのに、安否確認の連絡すらして来ないのですよ。娘も一緒だというのに!」


 もうプンプンなのですよ! と怒ったしぐさを見せるアーニアは可愛らしいとシンの目には映る。

 しかしながら、言っている事に関しては、”こうこうこういう事が有ったけど無事でした”という内容の連絡を妻の側からしてもいいんじゃね? っとシンは思った。が、それを口に出せばキケンな事はいくら残念鈍感勇者であっても理解は出来る。


「えっと。俺にそれを言われても困るんですが。夫婦間の事や親子間の事は当事者同士で解決するのが良いと思いますが。おーいロウジュ。私には関係ありませんって顔でスルーしないでくれないか?」


「アーニアさんからすれば貴方は治療方法が無いはずの病を完治させ、死んでいてもおかしくなかった戦乱の地から脱出を成功させたヒーローなんですよ。ティーニアさんから見ても似た様なモノです。そして、妻や娘には関心がなく仕事に注力する夫をぶん殴りたいって話に私が加わって何を話せと仰るの?」


 シンに廃棄処分がほぼ確定していたハズのところから救われて、サンゴウからの魔改造修理をされているメイアも、ロウジュの横でお茶の用意をしながらウンウンと頷いている。

 彼女はAI制御のアンドロイドから、機械知性生命体と表現して良い存在に進化した。自我を完全に獲得している事にサンゴウは気づいていたため”現状のまま”の引き渡しに拘ったのだった。

 デルタニア星系だと危険な存在として、発見次第消滅処分になったりするのだけれど。


「えっ? これって離婚の危機の話だったの?」


 うっかり口に出してしまったシン。そして、そこまでは覚悟を決めていなかったアーニアの背中を押してしまった残念勇者。

 ”ここでそれ言っちゃう?”とばかりに天を仰ぐロウジュを責められる人間は存在しないであろう。


「ちょっと色々と娘と話し合って考えを纏めてきます」


 そう宣言してアーニアとティーニアは宛がわれている客室へと戻る。ロウジュは冷めた視線を夫に向けたまま、尋ねるだけであった。


「これで離婚になった場合、貴方は責任を取るんでしょうね?」


「えっ? それって俺のせいなの? それに人妻はダメだって言ってたじゃないか」


「ティーニアさんの好意に気づいてなかったとは言わせませんよ? それと離婚が成立した時点で人妻ではなくなりますね」


 こうして、シンは首都星に母娘を送り届けて依頼された仕事は完了させた。そして、その依頼相手から10日間の首都星滞在と連絡先の確保の言質を取られたのは些細な事である。


 夫という本人は蚊帳の外で、ロウジュは仕方なくアーニアとティーニアと話し合う時間を持った。ついでにちゃっかりとメイアの立場も話し合われたのは言うまでもない。

 またしても嫁が増える勇者。「俺、フラグ立てたっけ?」と、独り言と共に首を捻るシンなのであった。


◇◇◇お知らせ◇◇◇


 こちらはここまででしばらくお休みします。


 もう1作の【魔力が0だったので超能力を】の方に手をつけますので、本作の75話はお待たせする事になります。

 投稿状況は近況に出していますので見ていただけると嬉しい。


 サンゴウ、いいぞ! もっとやれ!

 とか

 シン、どこまで嫁を増やすんだ!

 とか思って下さった読者様。フォローや★評価を宜しくお願い致します。


 5/20 追記 

 

 短編【エターナルから始まった関係】を書いてしまいました。そちらもよろしくお願いします。




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