第47話
ウミュー銀河、戦闘宙域。
サンゴウはレイゴウとハツゴウの攻撃を、今か今かと注意を払いつつ鉱物生命体を相手に戦闘機動を続けていた。しかし、その2隻はエネルギーの増幅をしていても、一向に砲撃を開始してこない。
訝しみ、不審が頂点に達しようとした時それは起こった。
レイゴウの自壊である。
続いてハツゴウは、自壊中のレイゴウに飛び込む様に移動しつつ、こちらも自壊していく。
その瞬間サンゴウは超高重力に囚われ、自由に航行する事が出来なくなった。
移動性ブラックホールが出現した瞬間であった。
周囲に居た鉱物生命体はサンゴウと同様に全て超高重力に捕まり、ブラックホール内へと吸い込まれて行く。サンゴウは限界速度まで加速し踏ん張っているものの、離脱は出来ていない。既に離脱限界点の内側に取り込まれているのだった。
「これが狙いでしたか。すみません。艦長。罠に嵌りました」
「これがブラックホールの超高重力ってやつか。恒星の比じゃないな。ゆっくりと落ちて行って、っておい。キチョウのシールド破れそうじゃないか」
「ごめんなさい。マスター。頑張ったけど無理ですー」
キチョウのシールド魔法が壊れる程の重圧が掛かっているという事は、シンのシールド魔法でもいずれは限界に達する可能性が有るという事でもある。シールドを魔力供給で維持しなければの話ではあるけれど。
「サンゴウには脱出方法がありません。そして、艦長のシールド魔法でしか内部で生き残る事は無理そうですね。サンゴウの防御フィールドでは耐えきれない事が判明しました。後、落ちれば落ちる程、外部からの圧力は増します」
「MAP魔法の座標が有効に作用するって事は異空間って訳じゃないんだな。サンゴウでも無理なら、後は俺が頑張るしかないか。脱出すれば良いってだけならなんとかなるかな? シールド魔法を広げてっと」
シンはサンゴウを守るためのシールド魔法を範囲拡大して余剰空間を作り出す。そして自身にも別途シールド魔法を掛けた上で光球と短距離転移を発動し、大きな影を作り出してサンゴウを放り込むのだった。
更に、シンは長距離転移を発動する。目的地は”ウミュー銀河への道中のこのくらい離れてればいいかな?”な場所だ。状況を確認する事なくギアルファ銀河へ帰る訳にはいかないのである。
そうして、シンは周囲の安全を確認した後、サンゴウを影から出して乗り込む事でブラックホールからの脱出には成功したのだった。
「なぁ。サンゴウ。あのブラックホールって、移動してないか?」
「はい。移動性ブラックホールですね。ブラックホールが重なり合った時に出来上がる超巨大ブラックホールで誕生時のエネルギーが移動する分にも振り向けられるのですよ。進路が任意とかではなく方向転換とかはしませんけどね。意思がある存在ではないので」
「このままだとどうなる?」
「計算上の確率では一番高いのがウミュー銀河中央のブラックホールとぶつかって重なり合い、更に大きくなって進行方向が変わりますね。その後の進路はギアルファ銀河へ向かって行く可能性が一番高いです」
「聞くのが怖いんだけど、その高い可能性ってどのくらい? この際、推測でも構わない」
「サンゴウの計算上は96パーセント少々。不確定要素の振れ幅で10パーセント程度は減る可能性はありますね」
つまり86から96パーセントで来るってお話。”いやそれ、確実に来るレベルじゃん。来ないと信じるのはあり得ないじゃん!”とシンは悟る。
「来るな。それ。もう俺の中では100パーセントだわ。で、いつ頃? 時間的猶予が知りたい。最短で最速で真直ぐ一直線な感じで最悪の予想で頼む」
「なんですかそれは。予想は、10年以内。早くなる事はあっても遅くなる事はないでしょう。最悪の予想だと5年と少々ってところでしょうか」
シンは自身の主人公体質を考慮した。結論は”それ5年で来るフラグしかねぇ!”である。そしてそれは正しい。多分、きっと、おそらく、めいびぃー!
「はぁ。溜め息しか出ねえよ。ちなみに、対策ってないの?」
「避難一択ですね。ブラックホールの破壊に成功した例はサンゴウの持つ記録にはありません。進路変更は試みた例があるようですが失敗したせいなのか、詳細な記録は残っていません」
ギアルファ銀河帝国の住人全てを移住させる。それも期限は5年。どう考えても無理ゲーである。
そもそも、すべて受け入れられるだけの許容量を持つ移住先があるのか? って話になってしまうのだった。
「ま、ともかくウミュー銀河はこれで終わりだろう。中心部のブラックホールが無くなれば星雲を維持出来ないだろうし、星雲を構成していた星系の大半はブラックホールに飲み込まれるだろうしな。後は帰ってから考えよう。てか、俺が背負わなきゃいけない問題じゃないよね?」
「そうですね。ギアルファ銀河帝国の問題ですね。艦長は家族を掻っ攫ってデリーの所にでも行けば解決ですしね」
話が纏まった所で、シンは自宅に帰る決定を下す。いつもの影収納と転移であっさりと帰宅だ。
こうして、第二次銀河間戦争は終わる。
ウミュー銀河は銀河自体が消滅に向かうという結果になり、少数の鉱物生命体が脱出し、4号機モドキ1隻と共に新天地を目指す当てのない旅路へ赴いたという結末となった。
銀河の覇権を握っていた鉱物生命体達が引き起こした悲惨な結末であるが、シンやサンゴウには、負うべき責任は全く以て微塵も一欠けらも無いのである。
尚、余談ではあるが、この第二次銀河間戦争は帝国軍には正規の記録が全くのゼロであり、後の世で公開された皇帝ノブナガの回顧録でその存在が明らかにされる。
そのため、後世の歴史家達の飯のタネになる研究や論文、小説のテーマの一つとして名高い物になるのであるが、今を生きる人々には全く関係が無いお話となる。
「あの。父上。出発の報告から戦争終結までの時間が短すぎると思うのですが。というか、攻め込んで銀河丸ごと壊滅させて来るとかやり過ぎなのでは?」
「いや、規模から言えば戦争だから表現として間違ってはいないが、あくまでこの戦闘自体は害獣の駆除だ。所要時間が短いのは、戦闘の映像記録をサンゴウから送って貰っているはずだから、それを見て納得してくれとしか言えない。そして、銀河が1つ壊滅したのは、害獣達が引き起こした結果であって、父さんがやった訳では無い。したがって、父さんに責任は無いのだよ。わかるかね? ノブナガ君」
どこかの少年探偵が尊敬する名探偵の様な言葉で〆るシンである。
「”サンゴウで攻め込んでなければ起こらなかった現象なのでは?”と思わなくも無いですが、大元は向こうからの攻撃が原因ですからね。帝国がある銀河の話じゃないですし、他所の銀河の消滅は見なかった事にしてしまいましょう。で、問題はコレですね? 移動性ブラックホールですか」
今回のシンの功績は、偶々、生体宇宙船を発見し、追って行って戦闘になった所で移動性ブラックホールの出現を偶然目撃し、予想進路とギアルファ銀河への到達時期の情報を持ち帰った事となった。
極めて重大な情報の提供により、褒賞として偵金勲章を皇帝決済で与える事になったのである。
「父上やサンゴウやキチョウの力を持ってしても解決出来ない災害ですね。思い付きでアレなんですが、もう一人のメカミーユさんならどうでしょう?」
「あー。アイツなら実力はともかく、何らかの解決策が出るかもしれん。ノブナガも忙しいだろうが、呼び出し命令で話し合いの場を設けるのが良いかもな。父さんも参加させて貰うから調整は任せる」
その様な密談が繰り広げられた後、メカミーユは皇帝命令の呼び出し連絡を受ける事になる。未だ左官であり、”将官でもない私に何で皇帝の呼び出しとかあるのよ! まさか、見初められちゃった?”となったのは彼女だけの秘密だ。
尚、周囲の軍人からは、”あ、また何かこの人やらかしたんだな!”としか思われず、呼び出された事を疑問にも思われなかった。それは、彼女が知らない方が幸せで平和な事実だったりするのだけれども。
「あの。えっと。不躾な質問をお許し下さい。私は何故、皇帝陛下の私室でお茶をいただく事になっているのでしょうか?」
「ああ。公の場ではないので、気楽に喋っていただいて構いませんよ。父さんが来てから話を開始したいので、少し待ってて下さい」
「あ。はい」
緊張でお茶の味もよくわからないメカミーユだった。
駄女神は意外と小心者なのである。
シンはメカミーユ到着の連絡を自宅で受けて転移した。面倒な手続きはすっ飛ばして皇帝の私室へ飛ぶ暴挙でもあるが。
「さて。面子が揃ったところで、お話し合いを始めますね。まず、メカミーユ少佐。呼び出した理由は、父が人外認定している貴方の見識が必要な事態が発生したからです。その事態については父から説明がありますので、疑問がある場合はその都度お願いします」
「えーと。まだそれ程力が無いのに人外認定されても困る! で、何が起こったのかしら?」
「簡潔に言う。移動性の超巨大ブラックホールが発生して、この銀河に向かってる。到達は5年後。以上!」
「へっ? いどうせいぶらっくほーる? それ、あかんやつですやん」
”メカミーユの言葉がおかしくなる程やっぱりヤバイのかぁ”としか思えなかったシンであった。
「逃げましょう。即逃げましょう。ジン。私を転移で連れてって!」
”そうかぁ。ヤバイのかぁ”と心の中でリフレイン。
そう言えば”「スキーに」ってのがあったっけなー”などと、現実逃避の思考に走るシンである。
「いえ。あの。最後の手段としては逃げる事も考えますが、逃げるにしても行く先の問題と”国民全員連れて行けるのか?”や、”時間的にそれが可能か?”という問題もあるのですよ。現時点では逃げる以外の方法を模索したいという事でして、それについての見識を披露いただきたいのですが」
「無理ムリむり。移動性ブラックホールってどんな物か知ってるの? 光を余裕で超える超スピード。通常のブラックホールの最低でも倍以上の超高重力。中心部の温度は超高温。人の手で何とか出来る物じゃないわよ」
「ええ。ですから人以外の手で何とかする方法をお聞きしています」
「仮にも神の一員だったんだし、何か知識はあるだろ? 魔力なら俺が供給するから神様パワーで何とかならんか?」
「仮じゃないもん! 正真正銘の女神様よ! 今は振るえる力が無いだけよ!」
ここは乗っかって煽てておくべきだろうと判断したシンはヨイショモードに入る。
「そうだよな。立派な女神様してた実績があるもんな。その実績を見込んで知恵と力を貸して欲しいんだよ。何か手はないか?」
かなり下手なヨイショであるが、相手はメカミーユなのでこんな感じでも通用してしまう。
「ふふん! わかればいいのよ。対策ねぇ。最上級神以上のクラスなら消滅させる力もあるでしょうけど。上級神以下の力では消滅させるのは無理だし。あ、ブラックホールを進路上に作って置いて、重なり合った時の移動方向が変わるのに賭けたやり方は例があるわ」
メカミーユが例を挙げたのは、ブラックホールが確実に巨大化する上に、必ずしも進路が有益な方向に変わるとは限らない方法だ。
仮に上手く行ったとして、進路を変えた事が原因で被害を受ける存在が出て来る可能性もある点が問題となる。
過去に実例がある物で言えば、それを行った管理者は、『管理領域を守ったのは良い。だが、他所に大迷惑だったね。トータルは減点』で、上位の存在から降格処分を受けている。
「今の無し。それやったら私は消滅処分一直線コースよ! 無しね。無し」
「うんまぁ。消滅処分とかメカミーユを物騒な目に遭わせたい訳じゃないから。他には何かないか?」
”そもそも、ブラックホールを作り出すとかどーやるんだよ?”と思ってはいたけれど”神様パワーで何とかするのかな?”程度に考えていたシンである。案が引っ込められたのでどうでもよくなってしまったけれど。
「うーん。あれ? ちょっと待って。消滅前提の島宇宙で修行っておかしい。全員連れて逃がすのに成功したって、この島宇宙が評価対象なんだからそれが消滅したら評価0じゃない!」
「いや待て。そんな事情は関係あるのか? ここへメカミーユを送り込んだ存在はこの事態を予見出来る様な存在なのか?」
「予見は無理かも? でも達成不可能案件を指示しているとなれば減点だから、注意は払っているはず。 あれ? なんでだろう? なんでこうなったの?」
それはきっと駄女神メカミーユであるからだろう。
少なくともシンはそう思っていた。
こうして、解決策が見つからないまま話し合いは継続する。何らかの結論を得るまでは止めになる事はないのだった。
女神の知識や知恵も案外役に立たない物なんだなぁと、神罰が下りそうな事を平然と考えてしまうシンなのであった。
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