第46話

 ギアルファ星系第4惑星。


 サンゴウは首都星の海上で待機していた。報告のデータは送信済みであり、艦長がアレコレして戻って来るのを待つだけの状況だったからである。


「父上。帝国軍をウミュー銀河まで派遣することは出来ません。そもそも大軍で押し寄せたらそこに居るかもしれない知的生命体と戦争になりかねません」


「そうだなぁ。そんな遠征出来ないよなぁ。ところで、今回3隻追い払って都合45隻撃沈して来てる結果についての処理はどうする? 前の戦果誤魔化した時と同じ処理にするか? 戦闘記録のデータだとサンゴウが撃沈した様には見えないはずだが」


「見ましたよ。攻撃受けて耐えてるだけなのに敵が次々に爆沈していく映像。あれ父上がやったんですよね? どうやったらあんな事が可能になるんです?」


 ノブナガは碌にサンゴウに乗せて貰った事すらない身であるから、シンの戦闘能力は伝聞でしか知らない。ロウジュから「お父さんは強いのよ」と聞かされて育っただけである。

 勿論、一緒に身体を動かす遊びをしていた経験から、父であるシンの身体能力が異常に優れている事は承知している。

 しかし、宇宙空間で身体能力がどうこうは基本的に関係がないはずだし、戦闘能力に直結するのは武装を扱う能力や状況判断の速度、敵に対する反応速度といった部分のはずなのである。

 そうした常識から解放されていないノブナガには当然の疑問であるのだった。


「父さんはな、勇者だから強いんだ! 色々な事が可能なんだ。転移とか見てればなんとなくわかるだろう? 見せようが、説明しようが、理解出来ない様な範疇の領域に居るんだよ。実際、その映像見せられても何をしてるかわからんだろう? というか説明されなければ父さんがやってると認識すら出来ないはずだ」


「なるほど? そういう物だとして受け入れる以外ないって事ですね」


「ま、そういう事だ。父さんとサンゴウ、キチョウの真似は誰にも、っと待った。もう一人メカミーユ。あれも特別枠に入れておかないとダメだな。で、それはそれとしてどうする? 少なくとも追い払った功績はあるとカウントして貰えると思うんだが」


「防金勲章って事で。後は金子を少々。軍籍に復帰していないから昇進は無理ですね。後、45隻撃沈も正式に報酬出すのは無理なので、ここは息子が父上に甘える所という事で」


 タダはイカン! と、言いたい所ではあるけれど、身内同士の話である。そして、シンには父親としてのプライドもある訳で、ここは勲章で済ませるのがお互いのためだろうという事になったのだった。


「さて、今後の話だ。とりあえず、ウミュー銀河の偵察。生体宇宙船に遭遇するようなら撃破。鉱物の宇宙獣も遭遇したら撃破。知的生命体と遭遇した場合は極力話し合いが出来る感じの友好路線って事でいいか? あ、成功報酬は何かの金勲章でいいぞ」


「勲章の年金額合計が既にすごい事になってるのにまだ欲しいんですか。でも、まぁどうせ正当な対価は出せやしないので、父上がそれでいいなら甘えておきますよ。あ、勿論、今後の話は先程の提案丸呑みです。特に付け足す事はありません」


 ローラとピアンガは、この話し合いの場に同席はしていた。だが、口を挿む事はなく聞いていただけだった。

 下手に口を出すと親子間の話ではなく、皇帝と侯爵の間の話にすり替わりかねないからである。

 正当な評価をして正当な報酬にするような、藪蛇になる事態は避けたという事であって、こういう経験もピアンガには必要とローラが判断した結果なのだった。

 ちなみに、彼女は以前シルクが作った教育プログラムをサンゴウに流し込んで貰っている。

 それは実践が伴っていない付け焼刃の知識ではあるが、無いよりは遥かにマシであり、ローラからの皇妃教育は周囲の予想よりも格段に順調に進んでいた。

 サンゴウの能力を知らされていない、教える立場の彼女は”娘のピアンガはこんなに出来る子だったのね。わたくしの見る目が無かったのかしら?”と落ち込んだのは些細な事である。

 そしてそれは、シンにもサンゴウにも微塵も責任がある事ではないのだった。


 そんなこんなで話し合いが終わったシンは自宅へ帰った。後はウミュー銀河へ向かう準備を整えるだけだ。しかし、特に用意する物がある訳では無い。主に人への対応である。帰宅スケジュールが不安定になる可能性が有る以上、嫁や愛人、子供達へのケアは必須なのであった。


 なんやかんやと6日間の時間を必要とし、身も心もリフレッシュしたシンは、サンゴウとちょっとした打ち合わせをした後、サンゴウとキチョウと共にウミュー銀河へと転移する事になる。そんな感じで舞台は移るのである。爆発しろ!


 時系列は少し遡る。


 4号機モドキと融合していた鉱物生命体は、ウミュー銀河に接近して来たサンゴウの存在を感知していた。

 そして、外縁部から内部へ入るかと考えられるタイミングの所でサンゴウの前進が止まってしまったのを不審に思った。停止した理由は何だ? と少しばかり考えていた間にサンゴウの反応が消滅する。ステルス機能でもあるのか? という厳重警戒態勢に入った彼らの陣営だったが、半日が過ぎても何事も起こらない。

 時間の経過から、撤退した可能性もあるのだろうという事になり警戒態勢を緩めた。そして、善後策を考える事になったのである。


 ギアルファ銀河の生命体から見た自分達は宇宙獣の扱いであり、共存共栄が検討される可能性は無い。そもそもコミュニケーションを取る方法すらないのだから選択肢としてそれだけはあり得ない。そして、宇宙獣だと認識されている以上は完全殲滅の駆除対象として見られているという事になってしまう。

 つまり、文字通り自陣営の生存数0になるまで戦うか逃げるかしかない。サンゴウに勝てる可能性が無い以上、相手を殲滅する事は不可能だという認識は共有されているため、玉砕か逃亡しか無いのであった。


 千差万別の考えがぶつかり合い認識が共有されていく中、折衷案が出された。

 種として殲滅される事が無いように、1隻の4号機モドキを地球の伝承であるノアの箱舟の様に扱う案がだ。

 そして、残りの4隻はサンゴウを道連れにする可能性に賭ける、自殺行為とも言える手段を取る事に決まる。

 それはデルタニア星系の生体宇宙船開発陣が、闇に葬りたかった開発記録を利用して4号機モドキを零号機と初号機に作り替える方法なのだった。


 零号機。生体宇宙船試作零号機の事であり、コードネームはレイゴウ。AIはフタゴウと同じく通常のコンピューター式。万能艦として開発陣の夢の全てが詰め込まれたこの実験機は、可変自己調整型という過去に例の無い艦であった。

 最大で1500m級、最小で300m級とサイズから外観まで変容する事が出来、使用用途に合わせた艦に武装や出力まで含めて自己調整が可能というトンデモ艦である。

 最終的には内部の重力調整機能の暴走により自壊する事にはなったものの、完成させてテストを行う所にまでは漕ぎつけていたのは開発陣の執念の賜物だろうか。

 自壊時にはあわやブラックホールが誕生しかけるという大事故を起こし、開発禁止が厳命されたいわく付きの艦となっている。


 初号機。生体宇宙船試作初号機の事であり、コードネームはハツゴウ。AIはフタゴウと同じく通常のコンピューター式。史上初の高火力を目指して作られたこの実験機は、史上初の初の部分からハツゴウのコードネームで呼ばれる事になった艦だ。過去に消滅させた例が無いブラックホールの消滅を可能にするかもしれない重力波攻撃を武器とするトンデモ艦の2隻目である。

 零号機の失敗から機能を火力のみに絞った特化型で制御を簡単にし、暴走の防止を期待して完成に漕ぎつけたのだが、高火力の実験に失敗。零号機と類似の事故を起こし同じく開発禁止となっている。


 2隻共に危険極まりない艦であるが、「暴走での自壊に巻き込めばサンゴウでも脱出は不可能になる可能性が有る」と言えるのだ。

 こうして、後が無い鉱物生命体陣営は、4隻を融合し、2隻の艦へと作り上げる作業と逃亡するメンバーの選別に取り掛かったのであった。


「艦長。お帰りなさい」


「ただいま。なんか意外と時間掛かってすまん。サンゴウは特に準備とかは必要ないよな? これから向かうとして転移場所は帰る寸前に居た場所でいいか?」


「はい。直ぐに出発出来ます。ただ、転移場所は、あの位置より手前で1時間程移動に時間が掛かる位置が良いと考えます。サンゴウが居なくなった場所は警戒されているでしょうし、罠が仕掛けられている可能性も有ります」


「なるほどな。ではそうしようか」


 シンは、ウミュー銀河の外縁部から少し離れた位置に転移で戻った。そしてサンゴウを影から出して乗り込む。

 サンゴウは特にシンからの指示が出ていなくても、前回の場所を迂回してウミュー銀河の外縁部へと近づいて行くのだった。有能だからね!


 そんなこんなで外縁部にだどり着く寸前、キチョウが急に起き上がって告げる。


「マスター。物凄い危険が迫っていますー」


「お? 珍しいな。ではシールドは3重にでもしておくか。何ならキチョウも1枚張るか? ほい魔力。サンゴウ。子機アーマーも装着するから出してくれ」


「はい。準備します。艦長。4号機っぽい反応は有りません。ですがこれは! レイゴウとハツゴウ? あり得るはずがない存在が各1隻居ます。向こうはまだこちらに気づいていない様ですね」


「じゃ、前進ストップ。気づかれる前に情報だけ流し込んでくれ。離れた位置から来たのは正解だったな。さすがサンゴウ」


 こうして、シンとキチョウはレイゴウとハツゴウの試作機としての性能とここに居るはずがないと思われる事情を知る事になるのだった。


「何このヤバイ性能。わざわざ出て来たって事は欠陥を克服して完全な状態で出して来てる事もあり得るよな?」


「判断材料が足りませんのでわかりません。可能性としては有るとしか」


「俺、ブラックホールって経験無いんだけど、やっぱ危険?」


「そうですね。少なくともサンゴウは重力圏に捕らえられて離脱限界点を超えてしまった場合、脱出は不可能と考えます。中で耐えられるかとか生き延びられるかはわかりません」


「ま、なんにせよレイゴウとハツゴウは敵だよな? なら潰すだけさ。問題はいつもの手は使えないって事だな。キチョウに防御を任せて出るのは不安がある」


「マスター。単独で飛び出したら危険度が跳ね上がると感じてますー」


 キチョウの勘は無視出来ない。慎重に行動するしかないであろう。久々に戦闘への緊張感が高まって来るシンである。そして、サンゴウへは前進指示を出すのだった。


「撃って来ませんね。もう探知はされているはずですが」


「ふむ。何かあるんだろうけど、こちらは遠距離であいつら沈める手段はないよな?」


「威力だけなら艦長の魔法ならあるいは。ですが、射程距離的に大丈夫ですか?」


「いや、この距離では当たらないと思う」


 珍しく聖剣も既に手にしているシンはそう言ったのである。


「鉱物の宇宙獣の反応多数。突っ込んで来ます。砲撃可能距離まで接近したら撃ちます。レイゴウとハツゴウは防御フィールドを出しているだけで、攻撃してくる予兆はありません」


「先に宇宙獣を減らすか。サンゴウ。光球発動後に、後退。10秒間発光発動させる。突っ込んで来るのがこの辺を通る様に進路調整してくれ。トラップをばら撒く。キチョウも手伝ってくれ。消滅時間は1時間で設定しておく」


 宇宙獣との交戦が始まり、サンゴウはレイゴウとハツゴウに最大限の警戒態勢を維持しながら戦場を飛び回る。

 シンとキチョウの魔法と魔法トラップの殲滅力はすさまじく、雲霞の如く集まって来ていた敵も戦闘開始から2時間が経過した今、総数は7割減位と推測された。

 レイゴウとハツゴウはゆっくりと近づいて来ており、おそらくだが、そろそろ攻撃してくるだろうと考えられる状況に突入しつつある。

 最終局面は目前と思われたが、敵の意図は依然として不明で、サンゴウ的には理解不能以外の何物でもない。


「なんでしょうね? こちらのエネルギー切れを待っているのでしょうか? 距離は詰められていますけれども。艦長が居る限りエネルギー切れなどあり得ませんのにね。フフフ」


「あの2隻が何をするつもりかはわからんが、シールドはいつもより3枚多く重ねてるんだ。不意打ちの1発や2発は耐えられると思うぞ」


「敵のエネルギー増幅を確認。宇宙獣も巻き込んで撃つ気なのでしょうか?」


 こうして、サンゴウは、レイゴウとハツゴウの攻撃を待ち受ける形になってしまった。


 味方のはずの宇宙獣を無視して攻撃態勢とか何考えてんだ? と呆れてしまうシンなのであった。

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