第19話
ベータシア星系第16惑星2。
シンとサンゴウにより作り出された新造惑星であり、食糧生産惑星である。
第16惑星2はベータシア星系の新惑星として届け出がされ、登録がされた。
新惑星という点がポイントで、作ったとはどこにも書いていない。
新造なら大騒ぎになるような大ニュースとして扱われておかしくないのだが、新なら、新たに登録しただけか。とニュース性が低いのである。
ベータシア星系という帝都から遠い星系で元々影が薄かったという点と、オレガのお陰で輪をかけて注目され辛いという点でも、目立つ事がなかった。
意外な所で意図しない貢献のオレガである。
1年以上前ならば、シンの近衛所属の件で一時的に注目を集めていたため、そうはならなかったかもしれない。だが、この頃にはもう忘れ去られていたのであった。
なにしろ、新惑星を登録しても注目されない位の影の薄さだ。但し、新造惑星は、その軌道が第16惑星と全く同じだったため、第16惑星2として届け出された事も注目されない理由の一つではある。
実際、受理した担当官はこんな星系あったか? デカイ衛星を惑星扱いにでも変えたんだろ? 位にしか考えて居なかった。
「小惑星帯が無くなった事でベータシア星系での宙賊活動が激減しておる。最外部にあった小惑星帯全てを撤去するなどと一体全体どんな手を使いやがった! 忌々しい!」
「親父、グレタの輸出入管理記録と入出港記録からは食料の輸出が急激に増えてやがる! こりゃぁおかしい。領民食わせず輸出してる勢いの量だぁ。それと、宙域図に無い惑星が何故かあるって話だぁ。未管理なら奪えるんじゃねぇかぁ?」
カイデロン星系第15惑星ママワガ男爵邸での当主と息子の会話である。
「その惑星については調査を出した所だ、30日以内には何かわかるだろうて。それよりもだ、ここ数年で打った手が全て上手く行っておらん。宙賊行為も封じられるとちと苦しくなってくるぞ」
ママワガ男爵領はカイデロン星系第15惑星と惑星付近の衛星8つを支配領域としている。
希少金属の産出が、ギアルファ銀河でトップクラスということになっているのだが、実は本来の産出量は精々二番手がいい所の量だったりする。それを宙賊行為で略奪して再循環する事で量の水増しを行っていたのであった。
産出量ベースでカイデロン伯爵に税を収める事になっているので、略奪して再循環という行為が止まるとじり貧になるのである。
「急に出てきた英雄アサダ家って子爵が邪魔だぁ。俺のモノになるハズだった女全部娶ったのも此奴なんだろう? ぶっ殺してぇなぁ」
「祖奴は帝国軍近衛の遊撃隊として、単独行動が許されてる特別な奴だと帝都社交界で噂になっておったな。ベータシア伯爵? さて、会った記憶がないという影の薄さにも笑えたがな。彼奴の部下の法衣貴族であるから、ベータシア家と誼を結ぶか、アサダ家と直接親交を持つかなどという話題も夜会では出ておったな。ただ、最近はそういう話も全く聞かぬ。一時の話題だっただけだな」
「ベータシア星系が手に入ればぁ。宙賊でやりたい放題出来るんだぁ。でもぅ。そのアサダ家の宇宙艦見たら逃げろぉってぇ、宙賊仲間の噂になってるんだぁ」
「あの宇宙獣の卵はもう手に入らん。ベータシア星系での試しで、危なくて近くで使えぬ事もわかったから、どの道、手に入れても暗殺に位しか使い道は無いかもしれんがな。同盟へのツテを使って大分金を使った。後方かく乱の潜入部隊というのが暴れまわるのもそろそろのハズだが」
ベータシア星系は自由民主同盟側から見ると最後方側の1つであるので、防備は手薄であり、卵が男爵の手に渡った当時は、手頃なかく乱対象として目を向けられた。
だが、2年前事件でかく乱の潜入部隊は一網打尽にされており、実行部隊はもう存在して居ない。その事をママワガ男爵は未だに知らない。僅かに生き残っている情報連絡員未満のチンピラに寄生され続けているが。
自由民主同盟で、1つの星系を壊滅させた新種の宇宙獣は、一時的に帝国との前線に送られるハズだった予備兵力の全て、帝国軍基準での6個軍相当が投入され、叩きつけられる事で殲滅された。
惑星破壊弾、恒星破壊弾という最終兵器まで投入し、同盟宙域図にぽっかり穴が開く様に宙域の全てを破壊し尽くす事で、やっとの思いで殲滅を成功させたのである。
そして、この事態の事後処理で、流れ着いたデブリから、件の卵が発見される。
実験により一定以上の大きさを持つ生物に食べさせると孵る事がわかり、更に重ねられた実験により、実験で孵った物を繁殖管理するのは不可能と結論付けられた。
そうした一連の実験で、この宇宙獣の危険度が理解されたのである。
同盟での利用方法は無かったが、諜報工作の部門がその実験の情報を得る。その結果、その卵を帝国で使ってやれ! という事になったのだった。
そうして残った卵は、全て諜報工作の部門に委ねられる事となった。
帝国軍基準での6個軍相当の投入により、予備兵力を損耗した同盟は、一時的に最前線へ投入する兵力に穴が開きそうになった。
そして、帝国の後方かく乱の手段として、公爵家部屋住みのスペアや、皇妃に諜報工作員を暗躍させ、工作を仕掛けて時間を稼ごうとしたのである。
そうした、同盟の諜報工作の一環としてママワガ男爵に卵が流れて来たのが、2年と少し前のあの頃なのだった。
「艦長。ローラ様より記録映像が届いております」
直接の通信回線は距離の問題で開けないので、この様な、日本人で言えばビデオメールの感覚のやり取りとなる。
「またか。シルクはもう俺のだって何度言えばわかるんだかな。なんかもう見る気がしないから、内容の要約だけ教えてくれるか?」
操船艦橋の通信士席に居たシルクはシンのその言を聞きクスクスと笑っている。
「はい。新惑星の視察をする。という名目でベータシア星系へ来たいから迎えに来い。後、もう返せって言わないからシルクに会わせろ。ですね。察するにシルクさんがサンゴウに乗っているとは思っていない様ですね。来ないと会えないという感触の話し方です。送迎は近衛遊撃の仕事として命を出して貰うようですよ」
「はー。わかったよ。シルク。どうする? 一緒に行くか? 連れに行って来るから家で待つか? 偶には家でゆっくり待つのも悪くはないと思うが」
「それでも良いですけれど、ローラ様はわたくしに一杯お話があると思うので、移動中にお話した方が無駄が無いと思いますわ。伯爵邸なり、家なりに滞在してから別途お話となると、視察日程の全体日数が膨らみますわよ? それと。えっと。その。一緒に行けば最短でも行きの航程の4日程度は貴方を独占出来ますよね? わたくしもそろそろ子が欲しいです」
サンゴウの全速航行に耐えられる実験も済んでおり、最短航程の時間が瞬時に脳内で算出出来るオペレーターに成長したシルクは、少しばかり頬を赤く染めながらモジモジとそう言ったのだった。
だが、全速航行中にそういう事は無理だと、シルクの頭からはすっぽり抜け落ちている。もちろんポンコツのシンも。残念!
サンゴウはそこに気づいているが、今は言わない方が良いと考え沈黙を保った。
「よし! わかった! 一緒に帝都だ! サンゴウ。とりあえず今から3時間程、俺とシルクは休息に入る」
シンよ! ご休息するな! とは言わないが、先に返事の通信映像を作れ! それと爆発しろ!
サンゴウは休息明けに返信映像を作る予定を立てつつ、了解を返すのだった。
皇帝の命が届き、サンゴウは帝都に向かった。そうして無事に何事もなく、何の問題もなく4日の全速航行で帝都に着いたのである。
そう、何事もなかったのである。ナニ事も。
出発前は、ヤル気に満ちていたシンと、期待に胸を膨らませていたシルクである。
二人が、全速航行の準備に入った時、航行中は会話くらいしか出来ないと気づいてガッカリしたとしても、するつもりだったアレコレが出来なかったとしても、全然全くオール丸っと丸ごと問題なかったのである。残念! 無念! また今度!
前例があるため、子機での後宮付近への乗り付けが行われた。但し、使われたのは20m級である。事前連絡で打ち合わせていたため、随伴員は最小限の人数に絞られている。その内訳はメイド2名と護衛女性騎士2名、視察記録員の女性1名。これに加えてローラ本人の総勢6名である。
シンは宮廷にて、皇帝との謁見があり、今回の視察とその全行程への柔軟な対処を命じられた。それとは別に密命があるのでそれは記録映像で渡す。との追加もあった。
謁見後直ぐに出発準備となり、荷物の搬入が行われる。それを見ていたシンはさすがに皇妃ともなると荷物多いなぁなどと割とどうでもいい事を考えながら眺めていた。
ちなみに、この時の帝都入りはシンのみであり、シルクは宇宙空間のサンゴウ内で待機していた。下手に一緒に帝都入りして、面倒な事になるのは避けたいよね! って事である。
まぁそもそも警戒して、シルクがサンゴウに乗って来ている事も伝わらない様、細心の注意を払っていたりするが。
荷物の搬入も終わり、ローラ以下5名の総勢6名の乗り込みも終わった。いざ出発である。
こうして、サンゴウ特製の20m級は音も立てずに宇宙へと、サンゴウへと向かった。
ギアルファ星系第4惑星周辺宙域に待機していたサンゴウは、20m級の格納を完了する。
その後、お約束の検疫関連とお荷物チェックタイムを経て、完全独立区画として作られた客室へと6人を子機で案内する。
尚、護衛に武器が一切無いのは問題だという事で、子機が剣に擬態したものを事前にサンゴウが作成しており、短剣と長剣を貸し出した。
勿論、持ち込まれた武器についてはお預かり保管である。
そして、女性騎士2名がこの装備を気に入ってしまい、「買い取らせてくれ!」としつこく食い下がったのは別のお話である。絶対に売る事は無いのだけれど!
操船艦橋に戻ったシンは、シルクにローラへの挨拶とついでにゆっくりお話しておいで。と、声を掛け、シルクを操船艦橋から送り出した。
そして、シンは皇帝からの密命を見る。内容は同盟との戦争状況のざっくりとした解説と、状況打開の何か作戦案を出して欲しいという物だった。そしてシンとサンゴウをいずれ戦力として投入したいと結ばれていたのである。
但し、投入については、今は命令ではなく考えておいてくれの段階となる。
ちなみに、シンへとこの話を持って行く様に提案したのはローラ。無茶振りである。
帝国軍の将官達は、シンへの特別待遇が面白くはない。故に、シンから出される作戦案でお手並み拝見という立場だ。
「なぁ。サンゴウ。この戦争状況どう見る?」
「はい。艦長が単身で特攻して、同盟の全星系を制圧して終わりだと考えます」
「おい待て。それおかしい! そういう冗談は求めていない!」
「冗談。ではないのですけどね。通常の戦争という観点で最終目的は同盟の降伏か消滅か制圧のどれか。それについて意見を述べるという事でよろしいですか?」
「ああ。冗談は置いといて、それで頼む」
そうして、サンゴウ視点での戦術、戦略が語られ、シンと密談が行われるのだった。
ローラはシルクが挨拶に現れ、驚いて一瞬固まってしまった。そして、「バカ息子がやらかしてごめんなさい」と謝罪をする事から会話を始めた。
長期に渡り皇太子妃教育という名目で関わっていたため、ローラにとっては実子である皇女よりも、感覚としてはシルクのほうが実娘という意識が強い。長く会うことも出来ず寂しさがあったのである。
謝罪を受けたシルクは、「結果的に今が幸せなので」とだけ返した。それしか言い様が無かったとも言う。そして、シルクもまた、感覚としてはローラは第二の母とも言える存在であるので、「挙式にも呼べず申し訳ない」と頭を下げたのだった。
そうして、二人はベータシア星系に着くまでの7日間で会えなかった期間の分を埋める様に色々な話に花を咲かせるのであった。
ベータシア星系に到着し、伯爵邸でローラの歓迎パーティが細やかな規模で行われた。
規模についてはローラの意向であるのだが、ローラがオレガの実態を知っているので無理はさせなかったというのが裏事情である。
そして、視察が滞りなく終わり、送り出すパーティも終わってローラはサンゴウで帰路に就く。
視察中にシンがうっかり、「サンゴウと俺で作りました」と漏らしてしまったのは、些細な事である。ローラが「惑星を作ったってどういう事?」とシンに詰め寄った事が有ったとしても些細な事だったのである。
こうして、ローラの視察という名目でのシルクとの交流は終わった。円満に終わったのであった。
帝都へと向かうサンゴウ。その航程の中、サンゴウとの打ち合わせで作り上げた作戦案があるシンは、コレ本当にいいのか? と考えていた。
今後、予想される戦争への参加に思いを馳せるシンなのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます