第11話

 ベータシア星系第3惑星周辺宙域。


 主星であるので、サンゴウの探知に艦船と思われる反応がいくつも引っ掛かっていた。

 サンゴウは艦船の所属を確認できるコードを持たないため、このまま主星に接近すると騒動になるのは必然である。

 

 シンは伯爵へと通信を繋げ、現在位置を知らせる。そして話し合った結果、問題が無いようサンゴウに同伴する艦を派遣して貰うことになった。

 ついでにベータワンもここで引き渡すこととなり、引き渡しを受けるための軍もこちらに向かっている。


 偶々近くに居た、軍のほうが先に到着し、事前連絡通りであったので、すんなりと引き渡し作業が行われ、完了した。


 破壊処分するのならサンゴウに捕食? してもらえば良いのに! と思ったりしたシンだったりする。


 サンゴウはサンゴウで、シンと同様にベータワンを捕食しても良いと気づいてはいたのである。

 しかしながら、もしも捕食させてくれと申し出た場合、”軍用武装を取り込んで隠匿した”と、後々難癖を付けられる可能性があることを想定しており、そういった危うきを避けるためにサンゴウが申し出ることはなかったのだった。


 仮に、伯爵がサンゴウの捕食という能力を理解していたとしても、捕食を映像記録で残し、破壊証明の代替手段として選択するには少しばかり問題がある。

 それは、捕食の映像記録を帝国の武装管理の管轄局に提出したとしても、破壊と同じことであると認められるかどうかは怪しいものとなってしまうからだ。

 サンゴウの能力を理解していなかったので、結果的に伯爵は危うい選択肢を選ぶことはなく、武装管理の管轄局と揉めることがなかったのであった。


 同伴艦と合流し、サンゴウは主星の衛星軌道上にある港に向かう。港に係留し、シャトルでの降下という手順を踏まねば、主星で伯爵と対面が叶わないからである。


 サンゴウの港への係留までの手続きにおいて、グレタで管制官が混乱したようなことは起こらなかった。

 ベータワンからチャッカリ抜き取った情報を元に、入出港時に普通の艦船と同じことが出来るシステムの構築が済んでいたからだ。

 但し、船籍コードや艦籍コードだけは無いため、その点は同伴艦からも管制官へと念押ししてもらっているサンゴウなのだった。


 サンゴウは、入港後に近くに駐機されていたシャトルを見て、”旧式過ぎる”と判断を下した。そして、シンに許可を取り、子機を代替として新造することにしたのである。


 更に、伯爵へと通信を入れたサンゴウは、シャトルの運航制御関連の情報をデータとして貰うか、子機をシャトルに送り込んでのデータ収集、の可能な方をと要請している。


 そうして、格納庫ではシャトルと同等サイズである、50m級子機の構築に着手していた。


 つまり、サンゴウはシャトルを見た時点で、艦長をあの様な旧式に見える機体に任せる気はさらさら無くなっていたのである。

 サンゴウは、データ入手で若干は揉めたものの、なんとか通信連絡方式や、港湾での入出港時の自動制御に、問題のないシステム構築することに成功する。そして、新造した50m級に組み込み、製造完了と相成った。


 そうした製造完了後、シンとそのご一行、総勢8名は50m級の子機で降下を開始していた。入港後、わずか90分後の出来事である。


 実を言えば、サンゴウには大気圏航行能力も当たり前のように備わっている。

 しかしながら、仮に降下したとして、500m級の宇宙船であるサンゴウを受け入れられる空港なり、海の港なりは、存在しないだろうことが予測できた。

 そして、無意味にサンゴウ本体の降下能力や大気圏離脱能力を見せつける必要はないとも判断を下していた。

 但し、50m級子機で能力を見せつける気は満々であったりはするけれど。


 この世界の宇宙船は、特殊な小型艦という例外はあるものの、大気圏内航行能力を持つ物は基本的にない。

 そして、一度地表へ着いてしまえば、先の特殊な小型艦ですら使い捨てのブースター装着状態でなければ、宇宙には戻れないのが常識となる。

 30世代は性能が違うというのは、こういう所にも当然差が出るのである。


 サンゴウは、50m級子機を新造するための原材料の一環として、シンに有機物をおねだりしていた。

 そのおねだりにより、サンゴウはシンの収納空間に入っていたドラゴン丸々一体をせしめていたりする。

 これには相応のサイズの魔石が含まれており、サンゴウの新しい玩具として解析が開始されたのは別のお話である。


 大気圏の降下方法、大気圏内の飛行方法、そして、この世界の技術では今だ到達していない重力操作を含む運航は、内部の人間には快適であり、外部から見ていた人間には理解不能の運航そのものとなる。しかも無人の自動運転である。

 シャトルや宇宙船、宇宙艦を作っているメーカーの人間が、リアルタイムで見ていたら発狂していた事であろう。


 そんなこんなで、シン、大地に立つ! である。そして、シャトル用空港にて検疫を済ませる。


「お迎えに上がりました。執事のスチャンと申します」


「シンです。よろしく」


 セバスに似ている容姿を持つ、執事がシン達の前に現れ、車へと案内した。シンはもうちょっとで、合わせてセバスチャンなのにスが多いわ! っと心の中で勝手に、アリやナシや会議が始まっていたりしたのである。


「シン様。お嬢様方の救出、誠にありがとうございました」


「ああ。うん」


 どう返事をしたものか。戸惑い、適当に返してしまうシンなのだった。


「あの、到着まで眠ってもいいだろうか? ちょっと疲れが出ていて」


「はい。到着前にお声かけします」


 上手く話題を振ったり、会話に混ざることを避けたい心境になってしまったシンの寝たふり作戦である。

 全員短距離転移の連続で運んだら怒られるのかなぁなどと考えながら目を閉じるシンであった。起きてるけれど。


 そうして1時間後、伯爵邸へと到着。遂に、伯爵と生身での対面を果たす。

 改めてお礼を言われ、シンも挨拶をしたのだが、綺麗なお姉さんだなぁとロウジュの母へとついつい視線が向いてしまうのだった。


 伯爵夫妻は、内輪の話をしたいということで、シンのみが別室に通され、軽食とお茶の用意をされる。

 入浴も可能だと聞かされるも、今の状況で風呂ってどうなんだ? と思えてしまい、今後なにをするべきかに考えを向けるだけに留めるのであった。


 ここでのシンは、”なぜ風呂?”だが、この世界の宇宙船にはお風呂なんてない。だから、宇宙船から戻ったのであればお風呂でゆっくりしませんか? は、おもてなしの一環となり得る。

 この世界の住人からすれば、艦内で地上と同じように生活できてしまう、サンゴウが異常なだけなのである。


 伯爵は夫人と娘3人以外は、部屋から全員退出させた。そして、ガチの内輪話の開始となる。


「まずは、報告を聞こう。ロウジュ」


「はい。事の経緯は、ベータワンへの賊の襲撃から始まり、被弾。早期に避難カプセルに押し込まれた私達3人のみが生存。襲撃時に救難通信の傍受範囲内に居た、艦長シンが所有している超高性能艦サンゴウが救援に駆け付け、賊を完全撃破。どうやったのかは不明ながらも、ベータワンを鹵獲し、私達3人のカプセルを搬出、サンゴウへと移乗させ、艦体そのものは隠匿。あの艦はシン一人しか乗っておりません。後は信じられないほど優秀なAIサンゴウが、シンのサポートをして運用されているようです」


 ここで、一旦言葉を止めたロウジュは、父に視線を向けて聞く。


「まずは、ここまでについて何か疑問点など有りますでしょうか?」


「ふむ。ベータワンを墜とすほどの強さの賊であった訳だな? それを乗組員が居ない艦長のみの500m級艦で全て排除したと言うのか。個人運用の500m級というだけでも信じられん存在だというのにそこまでの攻撃性能か!」


「賊とベータワンの直接の戦闘状況は、カプセルに押し込まれた時期が早く、把握してはおりません。が、サンゴウの提供してくれた映像を見る限りでは、賊は数の力でベータワンを押し切ったのではないか? と考えました」


「引き渡し後に、ベータワンのレコーダ類とブラックボックスを回収しておる。その情報を精査した限り、並みの賊の攻撃力ではなさそうだ。軍用武装クラスの可能性は有る」


「そうですか。ではシンに当時の賊の鹵獲品の提出を求めるのですか?」


「いや、そこは求める気はない。疑いはあるが、武装の出所が当家でないのだけは確定だからな。確実な証拠もなく、恩人であるシンの不快感をわざわざ買いに行くつもりはない。それにだ、万一調べて軍用だと確定した場合、当家の領域内で起こった事である以上、調査責任が発生する。その余裕は今、当家に無いのだ。藪をつついて蛇を出す事もあるまいよ」


 そして伯爵は続きを目で促す。


「シン及びサンゴウの言によれば、『ギアルファ銀河以外の場所から、事故で飛ばされて迷い込んできた』との事です。『サンゴウは別銀河で作られている』というのが本人の言です。AIを本人と呼んで良いのであれば。ですが。そして彼らは、この銀河の基本的な情報を全く持っていませんでした。それどころか言語体系も完全に別物だったようで、初期には『翻訳ミスがあったら指摘を』と申し出ていた位です。銀河系外から迷い込んできたという点はこれまでの話から、信用して良いと判断されるのが妥当だと思われます。いかがですか?」


「うむ。サンゴウという艦も帝国内のどんな技術をもってしても作ることが可能とは思えぬ性能だ。その上、言語まで違っていたとなればもう別文明からやって来た異邦人で確定であろうな。続けてくれ」


「救出された時点では、私達の最優先事項は、グレタでのお見合いを成立させることだと判断致しました。グレタへ送り届けて貰うことをシンにお願いし、彼は当面の見返りに、可能な限りの情報提供を私に求め、それを条件に了承して貰いました」


「その、なんだ、人族の男性であるシンは見返りに身体の要求はしなかったのか?」


 伯爵のこの考えは、エルフと人族の関係において、極めて普通の事であり、人族の男性はエルフの女性を好むのは事実なのである。


「はい。その覚悟もあり、もしもの時は私一人で引き受ける覚悟でいましたが、そういった事は一切ありませんでした。実に紳士的であり、ほぼ全てと言っていいほどモニター越しで会話をされ、ほとんど会うことがないという徹底ぶりでした」


 後々の布石のためにシンの紳士アピールは重要である。事実はヘタレ勇者なだけなのであるが。


「そして、グレタへ到着後、上陸前の検疫待機期間に、シンとの対面で直接会って会話する時間を取りました。その時、お見合い後の帰還2名について、ベータワン引き渡しでの航行に同乗のお願いをしました。その際、当家の内情を話してしまいました。その点については、申し訳ございませんでした。その後のことは父上もご存じだと思うのですが」


「いや、確認の意味もある。ここへ来るまでの全てをだ」


「はい。シンは私の説明で、私達3人のうち1人が、男爵家の金銭援助の見返りで、実質妾として差し出される、政略結婚前提のお見合いという点に激怒され、大元の原因である宇宙獣の駆除を宣言し、わずか1日以内という時間でそれを完了し、グレタへ戻りました。また、激怒された際、鹵獲機体の内部は人族男性だった点から、証拠はない推測だとの前置きはありましたが、ベータワンを襲ったのは男爵の息がかかった者の可能性があるとの事です。グレタでは、原因不明の通信状況悪化で父上との連絡も取れませんでしたが、シンが父上の指示を運んで来てくれたため、脱出を決断。シンが特殊能力である影の中に人を入れるという能力を明かし、私達3人、メイド長ら4人、荷物の全てと自身を、屋敷の使用人の影を利用して脱出しました。影から影を渡り歩き、出港する宇宙船の影に入り宇宙へ出ることに成功しました。その後もシンの特殊能力によって保護膜のようなものでくるまれた後、気づいたら、サンゴウの中に運ばれていました。シンは勇者なのだそうです」


 長い話になり、ここで一旦言葉を切るロウジュ。母と妹2人は一切口を挟むことはなくじっと聞いている。


「勇者だ! などという話はさすがに信じられんし、どうでも良い。が、特殊な能力はあるという事だな? 道具の使用でという可能性はないか?」


「わかりません。私はシンの能力だという認識です。ですが、私が気づかぬようになんらかの道具を使っていたのかもしれません。しかしながら、仮に道具だとするなら、あのような事が可能な道具の存在を、私は知りません」


 ここから先をそのまま話してしまうという選択は、ロウジュの目論見を達成させるためには少々ハードルがあがる。

 なので、ここからいかに上手く話を持って行くか。ロウジュの頭は、今、フル回転していた。


「父上、私も確認したい事がいくつかあります。お聞きしても?」


 ロウジュの話次第で、この後の運命が決まってしまうシンなのであった。

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