動物同乗事情

 人間と共に生きている動物が、獣医師さんの治療を必要とした場合、牧場や畜産農家や動物園等は、機材持ち込みで往診してもらえると聞いた。水族館に関しては、水棲哺乳類はともかく、魚類の往診というのは聞いたことがない。


 一方で、家庭で暮らすペットの場合は、飼い主が動物病院に連れて行くのが普通である。近年では、自家用車を持っていないご家庭もあるので、その場合はタクシーが呼ばれる事になるのだ。

 基本的に犬・猫の場合は、受診不可の動物病院の方が稀なので、比較的近くの病院までお送りする。けれども、何事にも例外があり、深夜帯における急病の場合は、市の獣医師会が運営している動物専門の救急病院にお送りすることになるのだ。

 私自身は、今は亡き最愛の先代猫娘がお世話になったことがあり、救急病院の場所も、市の獣医師会に所属している獣医の先生が持ち回りで運営していて、信頼出来る病院であることも知っている(余談だが、当代猫娘は私の天使だ)。なので、迷うことなくお送りすることが出来るのだが、この場所が結構遠い。市内のどこからスタートしたとしても、決して近いとは言えない場所にあるのだ。

 『救急なのだから、市街地に置けばいいのに』と動物マニアとしては思うのだが、市街地の良い所に人間の救急病院が優先的に設置されるのは、まあ、仕方がないことなのだろう。

 ともあれ、犬・猫であれば、掛かり付けの病院と救急病院を知っていれば、概ね用は足りる。これまでご乗車いただいた患畜から察するに、ウサギやフェレットもほぼ同じ状況のようだ。


 つまり、『それ以外の生き物』と暮らしている飼い主さんは、犬・猫の飼い主さんとは少し違う苦労を強いられるようである。

 かつて私がお世話になった名医と評判の獣医師さんは、犬・猫のみならず、コウモリや亀まで治療をしたレポートを読んだので、「さすが名医」と感心したものだ。要するに、犬・猫以外を診察してくれる動物病院が稀になっているということらしい。

 誤嚥をしたと思われるリスの患畜を連れた飼い主さんは、リスを看てくれる病院を必死で探したのだそうだ。

 インコの救急患畜を連れた飼い主さんも、かなり遠い所の病院に行かれていたが、話を聞くとインコを看てくれる病院の最も近い所がその病院だったらしい。


 かように、動物病院は星の数ほどあるが、メジャーなペットであるかないかで医療格差があるようだ。

 今のところ、爬虫類系の救急患畜に当たったことはない(残念)。


 無類の動物好きを自認する私としては、どのような生き物を同伴してご乗車いただいても、特には気にならない。人見知りで激しく吠えられても、具合が悪くて威嚇されても、それを不愉快だとは思わない。お外のお散歩をした後の中型犬であっても、人間のお客さんが座るシートにさえ乗らなければ無問題。

 私自身はそうなのだが、ご乗車いただくお客さまには、少しご配慮いただきたいことがある。同僚のドライバーの中には、犬・猫を怖がる人もいれば、動物アレルギーや喘息を持つ人もいるのだ。「営業ドライバーなのだから、どんなお客さまが相手でも平常心でサービスに努めるべきだ」と言われれば、確かにそうなのだが、ドライバーも人間であるので、生き物同伴の場合は、予約時に是非その旨を伝えていただきたい。恐怖で平常心を失えば事故に繋がるし、アレルギーや喘息はドライバーの生命に係わるのだから。


 「うちの子は人間同然で、家族なんです」と主張する方々もいらっしゃるが、家庭内ではそうでも、他人に係わる時には───どうかお願いします───としか言えない。

 営業ドライバーもまた普通の人間で、一本のリードで繋がれた若い二頭のブラック・ラブラドール・レトリバーの突進を、周囲に居た誰にも怪我をさせずに一発で取り押さえるなどという荒業は、通常は出来ないのが普通なのだ(すみません、私はやりました。けれども、その後、制服を着替えに帰宅する必要がありました)。


 特に大型犬の場合は、是非事前申告を。

 以前、同僚が経験したことだが、「ワンちゃんも一緒なんですけど、いいですか?」と訊かれ、犬好きだったので「いいですよ」と答えたら、乗って来たのがドーベルマンだったという話があった。

 いつもであれば、かなり普段から度胸のある男性ではあるのだが、「ワンちゃんとドーベルマンは違う生き物だっ!」と会社で主張していたことでお察しいただきたい。

 タクシー料金はどうであっても、誰しも苦手なことがあるということ。


 長々と動物エピソードを述べて来たが、一つ、長年気になっていることがある。

 市営動物園の近くに、随分昔からある動物病院なのだが、長年看板に『大動物から小動物まで、お気軽にお越しください』と書いてあるのだ。

 おそらく、動物園が近く、往診に行っているからだろうと思われるが、一般の人が持ち込む大動物は、どこまでだったら受け入れてくれるのだろうか? そして、小動物は?

 デグーとかピグミーマーモセットとかイグアナとかコノハズクでも、ちゃんと看てくれるのだろうか?

 もしも体験したことがある方が居れば、是非教えていただきたいと思っている。

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