徘徊する労働者は愉悦する・その二
両親はそうでもないのに、物心付いた時から動物好き。加えて、父親譲りの読書好き。私が家にあった動物の本を読み終える頃に小学生になり、図書館デビューを果たすと、あとは手当たり次第だった。
自宅にあった『シートン動物記』を読み終えていたので、次は図書館にあった日本のシートンこと椋鳩十の本を読み漁る。
それも終わると、本を選ぶ基準が判らないので、とにかく動物名がタイトルに付いている本を片っ端から読んでいくことにした。童話あり、ドキュメンタリーあり、ファンタジーあり、最終的にはウナギの生態の本など読んでいた。
そうやって乱読していく中で、動物と植物と地形や気候環境などの関係に気付き、そちらにも興味を持った挙句、出来上がったのは文系出身でありながら、生物学に妙に詳しい変な人だった。
興味の趣くままに人生を爆走して来た私も、今やすっかり中年のオバサンになり、ディープな雑学の沼はもはや闇鍋状態で、そもそもの出典がどこだったかすら覚えていないことが多い。
そんな状態なので、鳥類・哺乳類があまり出没しない仕事の待ち時間があったとしても、やはり退屈することはなかった。
全く知らない他人様のご自宅からはみ出している庭木を観賞し、近年は流行に変化がある街路樹を見物する。
私が住んでいる地域で、昭和の頃から多い街路樹は銀杏やプラタナスだが、落ち葉や落ちた木の実が問題となったり、木が大きくなり過ぎたりと、近年は徐々に少なくなって来ている。御存じの通り、樹木が育つのには長い年月が必要なので、無下に切り倒すのではなく、移植したり出来ないものかと残念でならない。おそらく、アスファルトやコンクリートの下に張った根が移植を困難にしているのだろうとは思う。
同じく昭和の頃から多くても、盤石の地位を確保しているのが染井吉野や欅だ。染井吉野は『日本人の魂』という冠が付く身分だし、欅に関しては市を挙げて増やしているのだから、やはりそれなりに高い地位にある。まあ、楠に限っては、身分や地位の問題ではなく神格の問題だろう。格のある神社付近の楠は、単なる街路樹ではなく、参道の守り神的存在なのだから。
近年の街路樹としては、少しばかり河津桜が増えたようだ。場合によっては多少の十月桜も見かける。けれど、圧倒的に多くなったのは、
また、住宅街でこの数年、よく見かけるようになったのが皇帝ダリアだ。戸建てが多い住宅街に入ると、あちらこちらの塀の向こうの、遥か上空から覗き込まれていて楽しい。
そして、温暖化の影響なのか、巨大化した観葉植物が庭に置かれるようになって、塀の向こうに極楽鳥花(ストレチアやオーガスタ)が顔を出していることもある。アロエが成長して、朱色の花を咲かせているのを見るようになったのも、この十年ぐらいだ。
昭和の古い建物が建て替えられて、塀や生け垣に遮られていない玄関先に植えてあるのは、ナナカマドやオリーブ、ユーカリなどが多い。ナナカマドは
他にも、お気に入りの樹や花が咲く場所は、常に押さえている。
白木蓮にミモザ、合歓木にライラック、藤に芙蓉に瑠璃茉莉、金木犀と銀木犀、アヤメ・アイリス・菖蒲・花菖蒲、メタセコイヤの並木にマロニエの咲くところ───退屈している暇があろう筈もない。
仕事で時折訪れる場所に、薄紫の花を咲かせる立派な樹がある。過去に見た事はないのに、どことなく見覚えがあるような樹だ。「あれかな? それともこれかな?」と徐々に調べていった結果、桐の樹であることが判った。
見覚えがある筈だ。母方の実家の家紋───つまりは、我が家で毎年お盆の時に、玄関先に下げられる提灯の家紋なのだから。
───と、まあ、植物だけでも何かと堪能している日々だが、得てして植物には虫が付き物だ。
虫も特に嫌いではないものの、時には不審な虫に出会う事もある。全身真っ白で、目と模様だけが薄茶の蜘蛛とか───白変種であればいいのだが、ノーマルモードでこの色であれば、在来種の配色ではない。また、一目でアブの一種だと判るものの、大きさと姿が在来種とは思えないモノにも出会った。せっせと手を尽くして調べてはみたものの、外来種らしいという以上のことは判らなかった。なにせ、外来種リストには、毒性のある物しか掲載されていなかったのだから。
まあ、食料も植物も、外来の物が大量に入って来ているのだから、その植物と共に暮らして来た昆虫類は、当然入って来るだろう。我々の知らない所で、在来種と外来種の混血(?)が進み、そのうち新種が徘徊するようになるのかもしれない───と、思ったりするのだった。
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