技術進歩の功罪

 『無駄に高性能』とは、友人との間でよく遣う言葉だ。

 近年の機械や道具は、十年、二十年前には考えられなかったほど進化した。それらはとてつもなく便利な物ではあるが、同等───あるいはそれ以上に、罪深いように感じている。実際、スマホ一つにしても、充分に使い熟している人がどのくらいいるのだろうか?

 けれども、大多数の人がスマホから目を離さずに行動し、分からないことがあれば、すぐにスマホで検索をし、そこで得た情報を丸呑みして考えることをしない(勿論、考えている人がいることは承知している)。

 道具類もまたそうだ。

 今夜の献立を提案してくれる冷蔵庫。

 話し掛けるだけで、電源のON・OFFをしてくれる家。

 エンジンをかければ、シートとハンドルの位置まで調整してくれる車。

 事故や事件などの色々なことがあって、生活を補助する物が進化していることは理解しているが、すべてがそうであって良いのだろうか?───というのは、日々感じている疑問だ。

 比較的記憶に新しい事故で、女子大生が電動アシスト自転車で死亡事故を起こす───というのがあった。

 そもそも電動アシスト自転車は、子供を二人載せて移動するお母さんの負担を軽減する為、また坂道を登ることが困難になった高齢者を補助する為に作られた物だ。けれど、便利であれば当然若者も使う。便利で楽なので、かの女子大生は、片手にスマホ、もう片方の手に飲み物を持ち、イヤホンをして、平地を電動で走っていたのだから、どこから突っ込めばいいのか判らなくなる。


 仕事柄、話題は交通系に偏るのだが、スマホをずっと見ている人が押しボタン信号の横断歩道で信号待ちをしている。歩行者信号が青になり、同じ場所で待っていた人々が渡って行ってもその人はスマホに夢中で気が付かない。やがて、歩行者信号が点滅し始めてから気付き、無理に走り出しはせず、赤になってからまたボタンを押す。そしてまたスマホを見ている。スマホに夢中のその人は、自分が原因で渋滞が出来ている事に気付きもしないだろうし、次の青信号で渡れたかも定かではない。

 車を運転する人々も、またそうだ。

 ナビに頼り切りで、自分の車の周囲の状況を把握したり、前方の状況を見ることより、ナビを見る為に首が傾いてしまっている人の如何に多いことか───真後ろにいれば、そういう状況はすぐに見て取れる。余談だが、信号待ちでチュウをしている人もよく分かるものなのだ。


 斯くも、人は易きに流されやすく、自ら考えることをしなくなっていく。


 そうして、運転者は自分で標識を確認する事を怠り、右折禁止を曲がって行き、進入禁止に突入して行く。

 このコロナ禍のストレスのせいか、深夜に徘徊している若者達には特に多い行動である。


 そしてまた、LEDライトの普及には、個人的に大いに不満がある。

 確かに、LEDライトは、省エネで明るいライトだ。けれども、明る過ぎるのである。

 初めは高額で、使用される場所も限られていたが、今や深夜の工事現場の照明にも、戸建て住宅の街頭にもLEDライトが使われている。勿論、車のヘッドライトにも。

 同じ事を感じている人も多いと思うが、あの光が直接目に入ると、視界はホワイトアウトしてほぼ何も見えなくなるのだ。

 世の中で、『事故防止の為に、夜間の走行ではハイビームを活用してください』と言われ始めて久しいが、ただハイビームにすればいいと考えている運転者が多くなっていることも確かだ。

 例え、対向車がいても、前に走行する車がいても、ひたすらハイビームを多用している。対向車は勿論、すぐ後ろにいる車がハイビームにしていると、背後を確認する為のルームミラーやフェンダーミラーのすべてからハイビームの光が視界に集中し、運転するのが困難なほどの光害を受ける羽目になる。『活用』というのは、適正に利用するという意味の筈だが、そこまでは伝わっていないのが現状だと感じている。

 使用する人間の思考能力が落ちているのであれば、LEDライトなどやめればいいし、やめられないのであれば、自動運転を早く普及して欲しいと考える今日この頃である。


 私はよく、会社の若い衆に仕事のなんだかんだを教えた時、段取りと説明の直後に「よく分かりません」と元気に言う後輩に言うことがある。

「分からないのであれば、何度でも教えるけれど、分からないというタイミングが早過ぎる。聞いたことを一回脳味噌に通して考えて、それから質問をしてくれ。脊髄反射で思考を止めて分からないと言うな。まず考えろ。脳味噌は使わないと糠味噌と大差なくなるぞ」

 ───と。


 技術の進歩は、時に人間を退化させる。

 道具は考えて利用する物であって、道具に操られてはいけない。

 日々の仕事を熟しながら、徒然なるままに、考えずにはいられない日々の物思いのお話。

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