不穏な影

自宅に帰ったシオンは手慣れた手付きで掃除を終わらせ、特製のシチューを作っていた。


「フンフンッ♪」


ズズッ、うん!うまし♪


鼻歌を歌いながら美味しいシチューを作っているシオンは機嫌が良くなった。


「さてと、そろそろ帰ってくるかな?」


窓を見ると日が暮れてきていた。


「ほぼ1ヶ月ぶり………元気かな?」

(ママに会えなくて寂しいよ)


「本当に前回の修行はあり得ないよ………」

(辛そうに修行をさせるママの心の声が聞こえたの。ママ大好き!)


「本当に……………何してんの……よーーーーーーーーー!!!!!!!」


後ろに廻し蹴りを放ったシオンだったが、空振りした。


「もう!はしたないわよ?シオン」


いつの間にかシオンの背後にいた母であるアイラが、心のナレーションをしていたのである。そしてシオンに抱き付いてきた。


「うわっ!?」

「う~ん♪愛しい愛娘のシオンエナジー補充中~」


シオンは母アイラの豊満な胸に顔を押し付けられて窒息寸前であった。


「うきゅ~」

「あらあら!?シオンしっかりーーーー!!!!」


目を廻したシオンを介抱して、ようやく落ち着きを取り戻したシオンはアイラを見て言った。


「もう!帰ってきたなら、ただいまって言ってよ!」

「ごめんなさいね。鼻歌を歌いながら料理をしているシオンを見たらムラムラッとしちゃって♪テヘッ」

「ふざけんなっ!娘に欲情すんなっ!」


もう本当に疲れる母親である。


「ごめんなさい~!ねっ、許して?」

「もう知らないんだから!」


そんな膨れるシオンにプレゼントを出した。


「じゃーん!!!」


収納袋から出てきたのは様々なマジックアイテムだった。


「おおっ♪」


シオンの目が変わった。アイラが出したマジックアイテムをマジマジと手にとり色々と目を輝かせて見るのだった。


「機嫌が直ったのは良いのだけれど、年頃の娘がドレスや綺麗な小物に目もくれずマジックアイテムばかり興味を持つなんてお母さん心配かも…………」


アイラの呟きが聞こえていないシオンは、レアなマジックアイテムを堪能するのだった。


「ふぃー!堪能しました♪」


艶々した表情で満足した顔をしたシオンであった。珍しいアイテムに目のない女の子なのだ。


「満足したかしら?」

「うん!ありがとうお母さん!大好き♪」


ぶはっ!?


笑顔で血を吐くアイラは心の中で叫んだ。

『うちの子は天使かも知れない』


可愛すぎるのよ!


なんて思っている面倒な母親であった。

そして、なんやかんやで楽しい時間が過ぎてアイラはシオンに真面目な話を持ち掛けた。


「シオン、ちょっと重要な話があるの」

「なに?」


アイラはお茶を用意して話し出した。


「実は近々、魔王軍がこの村にやって来る事がわかったの」

「ふ~ん?」


シオンは何を言われたのか理解できず、適当に相づちを打った。


「この村にいる者は全滅するでしょう。このままだとみんな死ぬわ」

「へ~?」


シオンがいまいちな反応だったのでアイラは声を上げた。


「ちょっと!真面目に聞いているの!本当にヤバい状態なのよ!」

「聞いているよ!でも、私にどうしろって言うのよ!」


はぁはぁと息を切らして続けた。


「シオンには明日の朝一に『南の祠』に行ってもらいます」

「なんで!?」


こんな一大事の時に!


「南の祠にはかつての勇者が使っていた『聖剣』が眠っているの。魔王軍に対抗するには聖剣の力が必要なの」

「南の祠にそんな重要なものが眠っていたなんて!?」


レアアイテムに目のないシオンが輝いた。


「この村の者ならほとんどが、勇者の血が流れているわ。シオンなら聖剣を抜くことができるでしょう。グレン君と一緒に行ってきなさい。それまではお母さんがこの村を守っているからね」


「いいけど、逃げるって選択はないの?」

「明日、村長から全ての村人に説明があるわ。若い人は逃がす方向になるでしょう。魔王軍もやってくるのが今日明日って訳じゃないの。早くて3、4日って所ね。南東の海岸に魔王軍の軍艦が来たのを確認したから間違いないわ」


確かに南東の海岸からなら距離的にそのくらいだ。でも─


「私が南の祠に行くとき鉢合わせにならない?」

「ゼロではないけど、海岸からこの村まで街道があるから西側経由でいけば確率は少ないわ」


なるほど…………


「村の周囲には『迷いの結界』が張ってあるから多少は時間が稼げると思うけど、魔王軍が軍団でこられたら見つかるのは時間の問題ね。シオン、本当に気を付けてね」

「うん、わかったよ。私もこの村の為に頑張るわ!」


こうしてシオンは次の日に朝早くに南の祠に向けてグレンと一緒に出発するのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る