幼馴染に失恋した俺は異世界の魔王に魔王として召喚された
鈍色空
第一章:異世界に召喚された
第1話 俺の日常が壊れるまで
太陽が真上へと至り、堪え難い熱と光が降り注いでいる。
グラウンドでは運動部が夏の大会へ向けて声を張り上げて騒がしい中、俺--
今日は俺が通っている高校の終業式で明日からは夏休み。全国の少年少女達が青春を謳歌する時期だというのに、俺は憂鬱な気持ちが胸を満たしていた。思わずため息が溢れる。カウンターの向こうでパソコンを操作している女子生徒が口を開く。
「ため息したら幸せが出てっちゃうわよ?」
「そしたら仕事をほっぽり出した奴から奪うから良し。これも頼む」
「物騒なこと言わないの。これが終わったら、後は確認だけよ。ちゃっちゃと終わらせましょう」
「りょーかい」
俺と同じ学年で中学からの親友、
手入れが施されている黒髪は艶があり、腰に届きそうなほど長い。顔立ちはキリッと整っていてまさにクール系清楚美人と言える。さらに、制服を押し上げる二つの果実は、男子達にとっての癒しもとい目の保養になっている。深雪に対して失礼だから俺はなるべく見ないようにしている。
そんな彼女、実は頭も良い。校内順位一位を入学時からずっと譲らない。とても努力家なのだ。
そんな彼女、当然のごとくモテる。校内で『三大女神』と呼ばれるほど。が、深雪は過去の事情により、俺以外の男子にはとても辛辣である。女子に対しては幾分かマシだが、素で話しているのは極僅か。
よって、ついたあだ名が『氷の女神』。本人は大変不本意で、俺も滅多にそんな風には呼ばない。からかう時に使うぐらい。
そんなラノベの世界でしか存在しないような美少女が、俺のような平々凡々な容姿をしている隠キャと過ごしているのかと言うと、俺と深雪は図書委員なのだ。
そして、今日は当番の奴が、本来すべき仕事を放り出して一足先に夏休みを謳歌しに行ったため、偶然校内に残っていた俺と深雪に白羽の矢が立ってしまったのだ。
まぁ? どうせ誰もいない家に帰っても寂しいだけだし。夏休みの予定も何もないから、別に問題ないんだけどな…………涙が。
深雪はどうなのだろうか。聞いてみよう。
「そういえば深雪。夏休みに何か予定はあるのか?」
「特にないわ強いて挙げるなら、新しく出来た猫カフェが気になっているくらいね」
実に深雪らしい答えだった。クールな一面とは裏腹に可愛いもの好きの深雪は、よく道端で出会った猫や犬の写真を見せてきたりする。部屋にはたくさんのぬいぐるみが鎮座していたり。初めて見たときは驚いてしまい、深雪を拗ねさせてしまったことが懐かしい。
「なら、寂しい者同士、一緒に行くか」
「私は別に良いけど……蓮くんはそれで良いの?そんなに猫好きじゃないわよね?」
「俺は別に良いんだよ。深雪といるのが楽しいんだから」
「…………はぁ〜…………ずるい」
いや何でため息?最後の方は小さくて聞き取れなかったし。少し頰を赤くした深雪のジト目が胸に突き刺さる。
「………蓮くんがそんな風に素直なら渚と疎遠にならなかったんじゃないの?」
渚--
が、それも昔の話。俺の身勝手な行動で三人で集まることはなくなった。深雪は今でも渚と頻繁に話しているし遊んでもいるが、俺と板挟み状態にさせてしまっている。そのことに申し訳なさを感じると同時に、そんなことにしてしまった自分に怒りを感じた。
「まぁ、仕方ないといえばそれまでだけど。蓮くんは渚のことが好きだから行動しただけだし。失恋したことで反省もしてるだろうし」
「未だ失恋した傷を癒えていない俺を追い込むな。そうですよそうですよ。好きの気持ちが焦って土俵にも上がれず玉砕した情けない男だよ俺は」
そう。俺は幼馴染である渚に恋をしていた。だが、そんな美少女幼馴染と結ばれる世界なんて、書架に陳列されているラノベでしかありえないことに気づけなかった俺は、今絶賛失恋中(というのも変な話なのだが)というわけなのだ。
失恋すると自暴自棄になると聞くが、俺はまさにそれで毎日が憂鬱なのだ。
「そこまでは言ってないでしょ。でも、それなら傷を癒すってことで、夏休みに私とどこか行きましょうか。何ならこれが終わったら話してた猫カフェにでも行く?」
「おお良いのか? ならお言葉に甘えて---」
図書室の扉を開ける音に俺の言葉は遮られた。俺と深雪は突然の来訪者を見て驚く。
開いた扉の前にいたのは、亜麻色の髪をポニーテールにした美少女。さっきまで話題になっていた渚だった。全く、噂をすれば何とやらかよ。
「……深雪。実はみんなで夏休みの計画を立てようって話になっててね」
渚は俺を一瞬だけ見ると、気まずそうに亜麻色のくるりとした瞳を逸らした。そのまま俺の方は見向きもせず、まるで存在していない者のように深雪に話しかけている。
この一瞬で、今の渚と俺の関係が現れていた。俺と渚は、幼馴染の関係から、すでに赤の他人となっていた。
俺は自分の中から溢れ出そうなものを抑え、荷物を手に取った。渚の言うみんなとは、渚と深雪を含めたグループのこと。つまり、あいつが来る。俺とは違い、何もせずとも上手く行くあいつに、俺は会いたくなかった。
「深雪、話し合う場所がいるだろ?
「え? でも蓮くんは---」
「戸締りだけよろしくな。んじゃ」
深雪の言葉には何も返さず、一方的に進め、図書室を後にする。ドクッドクッと心臓の刻む音が、俺の歩くスピードに合わせ早くなって行く。
校舎を出ると、すぐに夏の熱波が容赦なく肌を焼く。何となしに図書室の窓を見た。全部が見える訳ではないが、それでも、楽しそうな笑顔をあいつに見せる渚が見えてしまうのには十分だった。
また、自分の中でドス黒いものが暴れる。それを必死に抑え、俺は家までの道のりを逃げるように走った。
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