「中身がぁっ! ないッツ!!」

「中身がぁっ! ないッツ!!」


紗奈はスマホで少し前に公開黒歴史を眺めながら、唐突にそう言った。


「いつも中身はないよね?」

だからこその黒歴史である。


「ふうたぁー、言うてはならんことを!!」

一見、怒っているふうな言い方をしつつ、おずおずと顔を寄せてくるので、いつものように紗奈の口に口を重ねる。

重ねる舌も荒々しくなくゆっくりと味わうように。


もきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅ。


「ぷふぅー」

満足したのか、口を離し落ち着くように息を吐く紗奈。


「まあ、あれよ。久しぶりに描くと思った以上に感覚が鈍くなっているのがよくわかる例よねぇ〜」


中身があろうがなかろうが、僕らがもきゅもきゅしているだけの黒歴史ということはなんにも変わらないんだが、それは良いのだろうか?


「そう、あえて言うなら試合勘が鈍るといいやつね、リハビリが必要だわ」

「なにか違……わないかな? リハビリってまさか、これ?」


黒歴史は完結したはずなのに続いている。

もう何も言うまい。


「これはホラ、アレはそれでそれだから、ちょっと違うというか……。とにかく書きたい作品があるのよ!」


ほうほう?」

アレがどれでこれなのかはわからないが。


「これよ!」

そう言ってスマホでカクヨムで書いている下書きを見せてくれる。

まだ設定段階のようだ。

「ファンタジー純愛物かぁ。僕は好きそうだね」

紗奈と僕は趣味がよく合う。


僕がそう言うと紗奈はパタリとまたしても倒れる。

「書きたーいと思う話が浮かんだんだけどねぇ〜、最近はそれで人気が出るイメージがでないのよねぇー。流行りとは違うからさぁー」

「今も昔も、じゃない?」


最初から紗奈が本質的に流行り物を描いたことはない気がする。

毎回、ちょっとズラすというか、詐欺というか。


ズラさないのは幼馴染系だけである。

いや、アレも流行りが寝取り系だったりするから、ずらして純愛である。

それもまた変な話だが。


「そもそも舞台装置的な展開って、こう〜わかりやすくグワッとなるんだけど、すぐ冷めちゃうからねぇ……」

それはもう紗奈が紗奈たる所以である。


「カクヨムコンの嵐が終わる2月3月あたりに公開できるように描いてみるわ〜。とりあえずふうたぁー、もきゅもきゅー」


そう言って紗奈は僕にしがみついた。

催促はいつもだが、もきゅもきゅと口に出してせがむのはあまり多くない……気がする。


まあ、どっちにしてもするんだけど。


そう思いつつ、僕らは口を重ねた。

もっきゅもっきゅもっきゅももっきゅもっきゅもっきゅももっきゅ……。

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