652日目(残り78日)「人はこうして筆を折るのね」

「人はこうして筆を折るのね」


さあ、寝ようかと横になり、しばし後、紗奈は唐突にそう言った。


僕はコロンと横を向き尋ねる。

「突然、どうした?」


「異世界ファンタジーは転生だったり最強だったり……そういうのが書籍化されるのよね」


「そうだね。紗奈が書きたいものと違うから気にしても仕方ないんじゃない?」


紗奈はテンプレが書けない。

どうしても何かズレてしまうのだ。


「……すっごく面白い小説を書いてた人が筆を折ったわ。

私もきっとそうなるのよね」


悲観的だねとか、何かを言おうと思ったけど、なんと言って良いか分からない。


「紗奈は……書籍化が目標だったわけじゃないって言ってたよね」

「そうだけど、書籍化したくないわけではないの……。

いいえ、もっと言えば魂を削って書いた小説が、何もなく消えていくことが辛いだけなのかもしれないわね」


読んでる側では気付かないことかもしれない。

終わった小説はカクヨムでは終わりなのだ。

同時に読んでくれる人がそっと居なくなる。


「……誰しもそうだと思うけど、コンテストに落選すると、ああ、このコンテストの人たちからすれば私はいらない存在なんだなと打ちのめされる。

それは魂を注げば注ぐほど……。

そして……私が書くどころか読めなくなった転生で最強のテンプレが書籍化されるの。

読みたい小説を書いていた人が筆を折り、そっと消えた後で。

虚しいなって」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る