644日目その2「彼女を寝取られた主人公がハーレムになるのは理に適っていたのよ!」
「彼女を寝取られた主人公がハーレムになるのは理に適っていたのよ!」
紗奈はベッドの上で僕に抱き締められた状態で唐突にそう言った。
軽く唇を重ねてから僕は尋ねる。
「理に適っていたんだ?」
「ハーレム主人公の彼女って寝取りされやすくなることがよく分かったのよ」
「ほほう?」
「寝取られラブコメ物で彼女が寝取られた後で、ハーレム物になることがよくあるでしょ?」
「あ〜、確かに。
どうしてそんなにモテ出すのか不思議なやつだね」
「あれは恐ろしいほどに理に適っていたのよ。
つまり、寝取られたからハーレムになるんじゃなくて、ハーレムラブコメ体質の主人公は彼女が寝取られやすい性質を持つということなのよ!
ニワトリが先か、卵が先かというだけね!」
「寝取られやすい性質?」
「そう、寝取られやすい性質。
さらに言えば、ハーレムラブコメ主人公に近付くヒロインは寝取られ体質の人が多いのもあるわね」
「なかなかにラブコメ界を揺るがす致命的なことを言ってないか?
大丈夫?」
紗奈は僕にしがみ付いたまま、不敵に笑う。
「ふっふっふ、そうよ。
私は恐ろしいことに気付いてしまったのよ。
恐怖で震えてしまいそうだわ。
だから颯太にしがみ付いておくわ」
紗奈は僕に抱きついてもぞもぞとする。
その紗奈の頭を優しく撫でる。
それから紗奈はパッと顔を上げて僕の口を奪う。
もきゅもきゅ。
「エネルギー補給完了っと。
では、ここで検証結果を話すわね。
まずハーレム主人公。
良く言えば博愛主義者が多いけど、逆に言えばなかなか1人の人を真っ直ぐに愛したりしないわよね。
例えば、女友達が何か困っていたとする。
でも彼女に選んだヒロインが行かないで、と言ってもハーレムラブコメ主人公は女友達の方を助けに行くわね。
むしろ、どうして止めるんだとか、行ってあげないといけないんだとか、行く理由を告げて彼女ヒロインを『説得』しようとするでしょうね。
だってハーレムラブコメ主人公は困ってる人を見捨てないもの。
……でもね、そんなの彼女ヒロインからしたら理屈じゃないのよ。
彼女ヒロインは言葉では許しても、ハーレムラブコメ主人公が『他の女を選んだ』ことを決して忘れないわ。
さらに……ハーレムラブコメ主人公は将来のために、今は距離が離れても夢や目標に真っ直ぐ進もうとするわ。
だって、ハーレムラブコメ主人公は真っ直ぐに夢を見るような人だもの。
だからヒロインたちはハーレムラブコメ主人公に惹かれるの。
……でもね。
彼女ヒロインからしたら、今が全てなの。
今を抜きにした未来って……ないのよ。
彼女ヒロインは忘れないわ。
自分に『今、向き合って一緒に歩こうとしなかった』ことを。
そしてハーレムラブコメ彼女ヒロインは見目麗しく、自分から恋に邁進するタイプが非常に多いわ。
そう、つまり……新しい恋が芽生えるとそちらに行くのよ。
全てはそう……、彼女ヒロインに向き合わずに将来という不確かな未来を夢見て、彼女ヒロインを無視した人が悪いのだと……」
オドロオドロシイ雰囲気とハイライトを無くした目で紗奈は語る。
僕は恐怖に震えた。
「まだあるわよ」
「まだあるんだ?
男からしたら恐ろしい限りだね」
「そう!
まさにそれ!
ハーレムラブコメ主人公が最もやらかしてしまう最大のポイントは、男目線なのよ。
将来のために一生懸命勉強して、もしくは仕事に邁進するのは悪いこと?」
「いや、大事なことだと思うよ」
働いてお金を稼がないと家族は守れない。
「そう、だから仕事を頑張る、夢に真っ直ぐ向かう。
魅力的よね?
でも、それは共に生きるパートナーを寂しくさせてまで選ぶことなのかってことね。
今は多様性の時代。
逆に女の人が家計を支えることもある。
共働きも多い。
ラブコメで忘れられやすいのは、『付き合う前と同じように自分の夢や目標だけに向かって良い』わけではないということよ。
そこを蔑ろにしたままで、付き合ったって彼女ヒロインは寂しくなって、そりゃあ浮気もしくは寝取られするわよ。
ただでさえ、そういう性質があるんだから」
紗奈はもぞもぞと僕に身体をする寄せ、ポツリと。
「まだ語れるけど今日はこれぐらいにしておくわ。
自分でもビックリだけど、まだまだ色々言えるわ……」
そう言って紗奈は終わりとばかりに僕の口を自分の口で塞いだ。
もきゅもきゅもきゅもきゅもきゅ。
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