1年と114日目「なんだかとってもスッキリしたわ。これがテンプレの効果ね……」
「なんだかとってもスッキリしたわ。これがテンプレの効果ね……」
先程まで僕の枕に顔を突っ込み、「書けぬ……書けぬのだ」とウンウン唸っていた紗奈は、ふとカクヨムで何か小説を読み出して……しばし。
唐突にそう言った。
「何が起こったんだ?」
僕は紗奈のその切り替えの早さについていけずに思わず尋ねた。
「これよ!」
紗奈が久しぶりに僕にスマホの画面を見せてくる。
そう言えば、こんなふうに読んだ作品を見せてくれるのも久しぶりな気もする。
僕は机の上をささっと片付けて、ベッドで寝転ぶ紗奈の隣に座り、スマホを覗き込むふりをして、そのまま紗奈の唇を奪う。
あ、もちろん、ついでに舌も。
もきゅもきゅもきゅもきゅ。
ひとしきりもきゅもきゅした後に、透明な糸を引きながら口を離す。
「……もう最近は前みたいにスマホを見せると、もきゅもきゅされるのね。
紗奈覚えた。
颯太危険」
うん、まあ、そういうことだね。
「それでどれだい?」
今度は僕の方から紗奈の方に顔を近付ける。
すると……そのまま、紗奈の方からちゅっと僕の唇にキスをしてきた。
どちらともなく、お互いの口を重ねる。
もっきゅもっきゅ。
口を離すと紗奈がムーと口を尖らせ言った。
「……キリないわね」
「うん、いつも通りとも言うよ」
もう一度だけちゅっとその可愛らしく尖らせた紗奈の唇にキスを落とし、今度こそスマホの画面を見る。
「……珍しいね、紗奈がこんなベタベタなテンプレ作品を読むなんて」
「そうね、言っては悪いけどテンプレらしく、序盤の中身はないわ。
でも、それが良いわ」
僕は首を傾げる。
「どういうこと?」
「それこそがテンプレの良さと言うことよ。
疲れ切っているときにまるで沁みるように読んでしまうの。
そう、これぞ現代社会の闇ね。
疲れて重厚な話は読めなくなる。
スラスラと十数話を読んでしまったわ。
読み切った後、中身は覚えてないけど雰囲気はなんとなく」
「中身を覚えられない内容ならダメじゃないか?」
そこで紗奈はふっふっふと不敵な笑い。
「それこそがテンプレの持つ恐ろしい力よ。
記憶に残らない軽さでありながら、なんとなく雰囲気が分かる。
これこそがネット社会に求められるものなのよ!!
どどーん!!」
「どういうこと?」
僕はさっぱり分からず首を傾げる。
「多くの人がやってしまうミスの一つに、紙媒体の小説と同じノリで序盤に重厚な世界観を説明してしまうものがよくあるわ。
あれを防げるの。
つまり序盤にフワッと雰囲気を掴ませて、その十数話の段階でどかーんと引き込ませる罠を仕掛けるの。
いきなり最強になったり、NTRされたり、追い出されたり、ヒロインと運命の出逢いをしたり!
つまり最初の中身フワッとこそが、テンプレを支える大事なファクターだったのよ!!」
なんだって〜。
……うん、一つ分かった。
「紗奈、疲れてるんだね?」
紗奈は力尽きるようにふにゃぁとと僕にしなだれかかる。
「木曜日は疲れが溜まるの〜……」
つまりそういうことである。
僕は紗奈の背を優しくポンポンと叩いておいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます