1年と48日目「エッチいのを書きたい訳じゃないのよ」

「エッチいのを書きたい訳じゃないのよ」


紗奈が僕らのベットへ座り、スマホをカチカチとさせながら小説を書いて、唐突にそう言った。


僕は机の上を片付けて、椅子から立ち上がり紗奈の隣に座る。

そうして迷いなく口を重ねる。


もきゅもきゅ。


「どういうこと?」

「こういうこと。

んっ」


そう言って紗奈からも口を重ねてくる。

もっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅ……。


ふーと口を離し、指で自分と紗奈の口元を軽く拭ってあげる。


「今更じゃない?」

「今更だけど、書かずにはいられないのよ。

これは私の書き方が憑依型なのが理由なのよ!」


「憑依型?」


憑依型とはなんぞや?

テンプレ転生の種類のことか?


「小説の書き方って人それぞれなんだけど、思いつきの勢いだけで書く人や、全部書き切ってから公開する人、読者の反応を見てストーリーを作る人、設定だけ練り込んで書きながら組み立てる人、あ、最後のが私ね?


こんな風に書き方が色々違うのよ。

私も最初の頃は文章に拘って全部とまではいかないけれど、まず最初にある程度書くことを優先してたの。


……だけど、私にはこれが致命的に合わなかったわ。

ちなみに思い付きの勢い系も合わないわ。


1番合うのが、設定を決めてからキャラに任せるの」


僕は首を傾げる。


「キャラに任せるって……キャラクターが動き出すとかいうアレ?」


「そうね、人によって感覚は違うだろうけど、ソレよ。

それぞれの性格のキャラクターたちが生きて会話して関わってるから、どうなるか分からない部分はあるけど。


世界を揺るがすポンコツが生まれてしまうのも、ソレが理由よ。

ガクガクブルブル」


紗奈は口で震えを表現するが、身体は特に震えることなく僕に甘えている。


「だから私たちがもきゅもきゅするのは仕方ないのよ。

部屋で私たちが2人で居たら、もきゅもきゅしない訳ないもの。


仮によ、私たちのどちらが浮気したとして、それってもう私たちではないわよね?


私たちが生まれて育って、その環境と関わり、それに精神性と何より私たちの関係。

全てでみてそんなことは起こらないと断言出来るわ」


「まあ、そんな僕らであっても分かり合う努力だけは怠る気はないけどね」


人はその関係に甘えて、わかり合った気になっても良くない。

どれほど分かり合えたと思っても、すれ違うのもまた人だ。


ただし、僕らが浮気しやすい精神性とは真逆に居るのは確かだ。

浮気しやすい人はそういう性格をしているし、しづらい人もまたしない性格をしている。


紗奈は僕の意見に同意して頷く。


「そうなのよ。

だからもきゅもきゅは無くせないの。


颯太! 舌出して!」


そもそも書かなかったら良いのにと思いつつ、やっぱりいつものことなので言わずに大人しく舌を出すと、紗奈も綺麗な舌を出して僕の舌に重ねながら口を重ねる。


もきゅもきゅ……。

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