219日目「颯太、私は気付いてしまったわ。」
「颯太、私は気付いてしまったわ。」
先程まで僕らのベッドの上で猛烈な勢いでスマホで小説を書いていた紗奈は、ぐったりしながら唐突にそう言った。
言いながら、ポフポフとベッドを叩くので、隣に来いということらしい。
僕は机の上を片付けて、いつも通り紗奈の隣に座るとよろよろと紗奈は僕に擦り寄り、スマホを見せながら膝の上でばたりと倒れた。
とりあえず頭を撫でておいた。
それから紗奈は僕の腰にしがみ付きながら言う。
「うう、、、私はどうやら小説を書く時はその物語の中にトランスしていたようだわ。
だから、ふと気付くと頭が沸騰したようなグロッキー状態になるのね。」
「前に似たようなこと言ってなかった?」
感情移入しすぎるから、悲しいのは泣いてしまうし楽しいのは笑うのだと。
あとトランスって言葉も最近聞かないね?
カ◯ヨ◯でもトランスと表現している人見たことないかも。
「言ってたわ。
改めて実感したのよ。
これを見て。」
スマホに映し出されているのは、まだ公開していない話。
「あ、また詐欺師の話、外伝書いてみようとしたんだ、、、。」
「したのよ、このトランス状態を他の作品でも上手く引き出せないかと思って。
とりあえず、この部分見て。
エルフと詐欺師の会話よ。」
そこには、、、。
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「それ、もうあんた何に対して怒ってんのよ?
自分でクズとか言っちゃうし、、、。」
そりゃあ、お前詐欺師がイイ男の可能性なんてゼロだろ?ゼロ。
「、、、それに言っとくけど、あんた自分で思うよりクズ男じゃないし。」
俺は驚愕に目を見開く。
ついにエルフ脳が茹で上がって、妄想を抱くまでに、、、それともダメンズや不倫男に引っ掛かってしまう女はこういう幻想に囚われてしまうのか。
ああ、、、実に切ない。
いいや、俺の類い稀なる詐欺師としての腕がエルフ女を妄想の世界に閉じ込めてしまったのか。
「ねえ、やっぱりあんた、私たちのこと嫌い?」
いやいや、泣きそうな顔をするな、エルフィーナ。
ゴンザレス、実は泣く子にすごく弱い。
自覚ある。
んでもって、泣かれたから正直に言っちゃうけど超好きよ?
割とお前らのためなら世界取ってしまうぐらいには。
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「んー、ん?」
なんだろう?
詐欺師がクズっぽくない?
いやいや、そうではなく、、、。
「どことなく、甘い?」
「その通りよ!颯太!
書いた後に、あれ?なんでこの2人ボケとツッコミのはずが、どことなく甘い感じを匂わせてるの?と思った訳よ!
これこそがトランスの弊害だったのよ!」
僕の腰にしがみ付いたまま、どどーんと効果音でも鳴り響きそうな雰囲気で紗奈はそう言った。
「トランスの弊害?」
「そうよ。
私たちが自然とイチャイチャしてしまうように今更ながら気付かされたけど、他にも嫁が居るけれどこの2人も夫婦なのよ。
甘いの当然なのよ!」
「うわぁ〜、、、全く想像外だった。」
「あまりイチャイチャさせ過ぎると笑えないから、裏でやって貰うわ。
そんな訳で話としては削除よ!」
「なるほど、そのシーンは2人の関係からしたら当然の会話だけど、話のテンポが違うものになるから、迂闊にその会話を全面に出してはいけない訳か。」
「そうね、言ってしまえばネタバラシに近い感じね。
これこそトランスの弊害よ!
私たちが常日頃から、合間もなくもきゅもきゅしているのと同じようにね!」
そうだね、それをそのまま書いちゃうと、かなりもきゅもきゅしかないシーンとか出来るよね。
「でもとりあえずトランス状態はかなり疲れるから、颯太、補給よ!口カモン!」
紗奈は指でチョイチョイと僕を呼ぶ。
「はいはい。」
そう言って僕らは口を重ねる。
もきゅもきゅ。
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