その小説には、まだ名前がない

132日目「颯太。私、小説書いてみようと思うの。」

「颯太。私、小説書いてみようと思うの。」


僕の部屋に入って、紗奈は僕のベッドに座るや否や、スマホも触らず唐突にそう言った。


僕はペンを持ったまま、振り返り尋ねる。

「前から書いてたよね?」

「違うのよー!」

バンバンと紗奈はベッドを叩く。


何がどう違うのだろうか?

「私は改めて思ったの。

世の中には悲しい話が溢れている。

寝取り、浮気、ざまぁ、いじめ、ナンパ、心の通わない肉体関係、ハーレム、逆ハーレム、、、。」

「うん、ハーレムと逆ハーレムは悲しくないよね?」

あと、ざまぁもかな?


ざまぁも笑えないざまぁがあるだけで、上手にすれば面白い話になる。

それはやはり作品によると言ったところか。


「私は悲しくない話を読みたいの!」

紗奈はバンバンとまたベッドを叩く。


「悲しいのは嫌なの!辛いのは嫌なの!

毎日大変なんだから、明るく楽しい話が毎日読みたいのよ!」

「毎日かぁ〜、それは難しいねぇ。

人の更新スピードはそれぞれだけど、エッセイとかでない限り週1、2回が多いんじゃないかな?」


そこで紗奈はお尻を上げたままで、バタっと手を伸ばし枕に倒れ込む。

ゴクっと僕が生唾を飲むのは仕方ない。

仕方ないんだ。


「、、、そうなのよ。

お気に入りの作品が更新されるまで耐えるこの日々。

思わず冒険して他の作品を探って、ランキングの作品で叩き落とされる日々、、、。」

「ランキングが悪いわけではなく、紗奈の趣味に合わないだけだよね?」

紗奈はムクっと顔を起こす。


「まあ、そうね。

そこで!

私は考えた!

無ければ書けばいいじゃないの、と!!!」

「まあ、そうかもしれないね。

でも書いてる暇あるの?」

また紗奈はお尻を上げて倒れ込む。

「、、、ない。」


僕は机の上を片付けて、椅子から立ち上がり紗奈の隣に座る。

お尻に触ろうとすると触れそう。

手を伸ばしたタイミングで、パタッと紗奈が足を伸ばして逃げられた。


「ん?」

紗奈が僕を振り返る。

目を細め、ジーッと見てくる。

「むー、、、えっち。」


僕は悶えた。

「しょうがないなぁ〜、颯太。

こっちおいで?」

紗奈は笑顔で寝転がって両手を広げる。

いそいそと誘われるままに紗奈の腕の中に。


「えい!」

嬉しそうに紗奈は僕を抱きしめ、えへへと笑い、チュッとキスをしてくる。

スイッチが入った僕は紗奈の唇を奪い、その柔らかい感触を味わう。


互いについばむように唇を合わせ、口を開けて、、、。


もきゅもきゅもきゅもきゅ、、。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る