35日目★「颯太。5分だけで良いから。」

「颯太。5分だけで良いから。」



僕のベッドの上で仰向けになりながら、スマホで小説を読んでいた紗奈さなは唐突にそう言った。


「何を5分なのかな?紗奈。」


僕が顔だけ振り向くと、ちょいちょいと手招き。

最近は紗奈に近づくと危ないからなぁ。


ちゃんと、もうじき暴発するから気を付けてね?と言っておかないと。


ベッドの隣をぽんぽんと叩くので、その隣に座ると、紗奈はガシッと僕の腰に手を回す。


そして、読め!というようにスマホを見せる。


イタズラをするのではなく、甘える時の仕草だ。

僕は紗奈の頭を撫でながら、その小説に目を通す。


【ロスタイムの埋め立て地】


成る程、大人な話だなぁ。

繰り返される日々の中で、ふと大切にしていたことや存在を思い出す、そんな話だ


誰もが日々の中で疲れ切って、大切な気持ちを忘れてしまう。


それを思い出させてくれる話だ。


「いい話だ。」

僕は素直にそう思う。


まだ16歳で働く厳しさもわからないけれど、こうやって時々は大切なことを思い出せるように生きたい。


「5分だけこうしてて。」

紗奈は寂しくなったのだろう。


紗奈は僕の腰に顔を擦りつける。


「5分と言わずいくらでも。」


そう言いながらも、いつまでもずっとこうしてはいられない。

紗奈もそれは分かっているのだろう。


首を横に振る。


「、、、いつまでも、こうしていると颯太が我慢の限界越えるから。」


、、、越えないよ?

甘えている子に襲い掛かったりする鬼畜じゃないよ?


それとも、、、。


「襲って欲しいの?」

ふうたさんはいつでも獲物さなを待ってますが?


ちょっと涙目で震えながらも、僕の腰から離れようとせずに、フルフルと首を横に振る紗奈。


あまりに可愛いので、唇を重ねる。


怯えるように、見つめながらも、一切抵抗しない。

どころか、怯えてるんじゃなくて、目が潤んでるだけ?


くっ!


鋼鉄の意志で目を逸らし、紗奈の頭を撫でる。


「えへへ〜。」

紗奈は嬉しそうに、僕の腰にさらにしがみ付く。


はいはい、マイペースなですね、、、。


「今度は僕の5分に付き合ってよ?」

今回は我慢するけど、次は僕のペースでいくよ?


紗奈はキョトンとして、

「5分じゃなくていいよ?」


あ、紗奈。

その言い方、可愛くて、


、、、ま、今日については我慢しますか。


「うん、じゃあ、その時はお願いね?」

僕の言葉の意味が分かったのか。


紗奈は僕の腰に顔を押し付け、耳まで赤くして。

「、、、はい。」

と答えた。

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