2020/11/7初日「私、彼氏出来た。」

颯太ふうた。私、彼氏出来た。」


僕のベッドの上に転がりながら、足をバタバタさせながら、スマホで小説を読んでいた紗奈さなは唐突にそう言った。


両親の再婚で、一つ屋根の下で暮らす事になった幼馴染で、今年16歳になる僕と同じ歳の妹。


身内による欲目でも何でもなく、紗奈は美少女だ。

一本に括った背中まである黒く長い髪。細い足。全体的なスタイルも良い。


顔も整っており、綺麗より可愛い感じで、大きく澄んだ瞳も吸い込まれそうになる。


イタズラっ子のようにニシシと笑うこともあり、その顔は僕も好きな顔だった。


今は、というよりいつものことだが、6畳一間に本棚2つに勉強机の僕の部屋で、ベッドの上で大好きなネット小説を読むのが、兄妹になる前からの紗奈の日課だ。


「そうか。だったら、身内とは言え男の部屋のベッドで転がっているのは良くないんじゃないか。」


内心の動揺は悟られないように、勉強机でノートを広げていた僕は、ノートの端っこに、紗奈彼氏が出来ると、意味なく書き込んだ。


これほどの美少女で性格もカラッとして明るい紗奈がモテないわけはない。


同じ幼馴染の僕とは大違いだ。


家族になったとは言え、当然、僕らの間に血の繋がりはなく、ともすれば、間違いが起きないとは決して言えないのだ。


「ん〜。」

目を細め、しかめっ面で紗奈は僕の方を凝視する。


見られているのが分かる。


僕は、参考書とノートを見ているフリをするが、ノートの端に、何故見る?、と書き込んだ。


紗奈はそんな僕の様子を気づいてかどうか。


「小説では、男女の幼馴染との関係が女の方に、彼氏が出来たことで崩壊している例が多々あるわ。この点について颯太氏の意見は如何見る?」


割と突飛な行動も多かったようにも思うが、今回は新しいパターンだった。


「そりゃあ、幼馴染と言えど、男女が彼氏そっちのけで関係を続けるのは、、、。」


そこで顎に手を当て、僕はふと考え、、、。


「そうか。通常ある幼馴染同士で、学校に一緒に通ったり、紗奈のように男の部屋でゴロゴロすることなんてないよな。


なら、そんな関係でも無い限り、気にする必要もないのか。」


よく気付いた、とでも言うように紗奈はニッカリ笑う。


「そう!流石は颯太ね。よく気付いたわね。


しかしながら、この作品もそうだけどネット小説にあるような幼馴染は、さながら『付き合っている』ような行動をすることが多い!


学校へ一緒に登校したり、

幼馴染の部屋に入り浸ったり、

時には腕組んで、添い寝したり、

弁当作ったり、

一緒にお出掛けって!それってデートじゃああああ!!!


と恐るべき行動を取っている!

そこまでしておいて、その相手以外と彼氏出来たって、アンタ、それ浮気じゃないの?と思うわけよ。」


話に興味が惹かれ、思わず回転椅子をくるりと回転させベッドの上の紗奈に言う。


「しかし、お互いに付き合おうとか、好きだとも言ってないだろう?謂わば『何の約束もしていない』状態で浮気も何も無くないか?」


紗奈は膨れっ面で、顔だけをこちらに向け不満をあらわにする。


「だーけーどー、それじゃあ、ラブコメ的なフワフワしたなんか良い感じって出来ないじゃん!

そう言うのなんか憧れるでしょ!

憧れると言え!」


寝転んだまま、僕に指を突き付けてくる。

ため息を吐き、降参と僕は両手を挙げ首を横に振る。

紗奈は言い足りないらしく、更に話を続ける。


「何かこう、良い感じなハッピーエンドが読みたいの!ハッピーエンドが。

むー。」


俺の枕に顔を埋めて、枕ごとわざわざこちらを向いて威嚇する。


「読んでた小説、ハッピーエンドじゃなかったのか?後、彼氏のことは良いのか?」


「、、、結局、別れて、その後、再会して結ばれてたから良いんだけど。

、、、後、彼氏居ないし。」


なんだか良く分からなかったが、ホッとしたのは事実。


「傷心の私のために、ケーキを所望する。」

「、、、良いけど、家にケーキ残ってた?」


なんの傷心なんだよ、と思わなくも無い。


「明日、ケーキ食べに連れて行って。」

「分かった。」


それってデートじゃなかったのか?と思わなくもなかったけれど、勉強の息抜きにも丁度良かったので、そう返事をした。

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