アホ昔話・竹取物語(かぐや姫)

風都水都

輝夜姫・前編

1、かぐや姫


みかどがお住まいになるみやこが、まだ日本のど真ん中にあった奈良時代の頃のお話です。


都の端に、家具屋を営む老夫婦と若い娘がおりました。

娘の名は、輝夜かぐやといいます。

名の由来は、父が役所に申請する時、親権者の職業名に「家具屋」と書くつもりが、間違えて、新生児の名前欄に「かぐや」と書いてしまった為でした。

父は、

「まあ、武田哲矢の親父も、「哲也」のつもりで間違って「哲矢」って申請したらしいから、別にええやろ」

と反省の色はありませんでした。

輝夜は、平仮名では見っともない為、「輝夜」と自称していました。


さて、名前はともかくとして、その輝夜は、大変美しい容姿をしておりました。

近隣の人々は口をそろえて、輝夜の美しさをめたたえたものです。



近所のおっさん「輝夜ちゃんは、マツコ・デラックスよりスタイルええな~」

近所のおばはん「ほんま化粧したら、近藤春菜や箕輪はるかよりも、綺麗になるかも知れんねえ~」

近所の兄ちゃん「うちで飼ってるオラウータンも、輝夜ちゃんにはかなわんわ」



そんな個性的な美しさを持つ輝夜でしたが、彼女には一つ不思議な所がありました。


彼女は、月夜の晩になると、庭先で月を仰いでは


「ああ、お月様。いずれ私を月の都に連れ戻すおつもりね。でも、私は養父母を愛しています。どうか、お許しください」


なげくのです。

近所の人たちは心配になって、輝夜の両親にたずねました。


近所のオッサン「輝夜ちゃんが、また始めてるけど大丈夫かね?」

輝夜の父   「中二病やから気にせんでくれ」

近所のオッサン「輝夜ちゃん、もう二十歳越えとるやろ」



輝夜が、月を故郷だと言い出したのは、小学生時代の参観日が切っ掛けでした。

晩婚だった輝夜の両親を同級生がからかったのです。


同級生A「やだ、輝夜ちゃんのお母さんって、うちのママよりずっと年上ね」

同級生B「もしかして輝夜ちゃんて、おばあちゃんから生まれたの~」


恥ずかしさに、輝夜は言い返しました。


輝夜「違うわよ!あれは育ての親よ!本当のお母さんは月の都にいるんだから!」


苦しまぎれの子供の戯言たわごとでしたが


同級生AB「ええ!ほんと!?すごい!」


アホな小学生には、意外とウケました。


以来、輝夜は月夜の度に、月のお姫様を演じ続けました。

が、途中で引っ込みがつかなくなり、二十歳を過ぎても続けていたら、ご近所から心配されるようになっておりました。




その個性的な美しさと危険な香り備える輝夜は、成人してからは同人作家として生計を立てておりました。

かなりドギツイBL(分からんヤツはググれ)の同人作家として知られており、アシスタントも一人やとっておりました。

輝夜の幼馴染おさななじみであり、名を石上麻呂いそのかみのまろといいます。実は輝夜の思い人であり、奥手な輝夜は告白する事ができずにおりました。

毎日、遠回しなアプローチを続けるのが、精一杯でした。


輝夜  「ねえ、麻呂タン。人物画のモデルお願い。ポーズ取ってみて」

石上麻呂いそのかみのまろ「はいよ」

輝夜  「じゃあ、そのまま一枚づつ脱いで」

石上麻呂いそのかみのまろ「なんでだよ!」


輝夜  「ねえ、麻呂タン。肩こっちゃって……」

石上麻呂いそのかみのまろ「肩もうか?」

輝夜  「じゃあ、お風呂で、全身使ってんでくれるかしら」

石上麻呂いそのかみのまろ「ふざけんな!」


不思議な事に、石上麻呂いそのかみのまろは輝夜が恋慕れんぼしている事に気づいておりました。しかし、北川景子のファンだった為、輝夜など眼中にありませんでした。



そんな輝夜の片思いの日々が続く中、ある時、父がお見合い話を持ってきました。


輝夜父「輝夜よ。すまんけど、何件かのお得意様に頼まれてな、お見合いしてくれんか?」

輝夜 「え~、マジで?どんな人よ」

輝夜父「四人おってな」


輝夜の父は指折り、お見合い相手を紹介してゆきました。



転売屋で、最近はユーチューバーも始めた石作皇子いしづくりのみこ(35歳)

世界的な大企業の社長・阿倍御主人あべのみうし(60歳)

学歴はないが逮捕歴はある大伴御行おおとものみゆき(28歳)

無職で引きこもりの車持皇子くらもちのみこ(20歳) 



輝夜父「お得意様の頼みや、形だけでも受けてくれんか」

輝夜 「でも、四人いるんでしょ~?私友達少ないから、三人もメンツ集められないわよ」

輝夜父「それはお見合いやのうて合コンや」

輝夜父は、お見合いの仕組みについて説明しましたが、

輝夜 「じゃあ、石上麻呂いそのかみのまろタンもメンバーに入れてくれるなら、受けるわ」


父は仕方なく石上麻呂いそのかみのまろに金を渡して、形だけ参加してもらう事にしました。



2、一人目 石作皇子いしづくりのみこ



石作皇子いしづくりのみこ「はーい、平城京のみなさ~ん。本日は、朱雀大路すざくおおじ羅城門らじょうもん近くの庭園に来てま~す。いや、池が綺麗ですね~」


石作皇子いしづくりのみこは、庭園をバックにスマホをかざしてポーズを決めました。


石作皇子いしづくりのみこ「ここで、重!大!発表!実はわたくし、これからお見合いしちゃいます!ファンの皆さん、ごめんなさ~い」


ユーチューバーは、輝夜にスマホのカメラを向けました。


石作皇子いしづくりのみこ「で、こちらがお相手の竹取輝夜さんです。一応、人類です(笑)」

石作皇子いしづくりのみこ「では、さっそく質問コ~ナ~。輝夜さん。ズバリお趣味は」

輝夜  「幼馴染おさななじみで妄想する事」


テンションの高い石作皇子いしづくりのみことは対照的に、輝夜は冷めていました。


輝夜  「石作皇子いしづくりのみこさんは、ユーチューバーなんですね……。人気あるんですか?」

石作皇子いしづくりのみこ「家族に、大!人!気!ですよ!チャンネルの登録者は、両親と妹合わせて三人。身内でバズってます」


輝夜は、無言でスマホを取り上げると、池に投げ捨てました。


輝夜  「普通にしゃべりましょうね。なんでまたお見合いを?」

石作皇子いしづくりのみこ「親を安心させる為っすね。今まで百回ほど見合いしたけど、なんでか断られて……でも、輝夜さんのレベルならいけるかな~なんて」

輝夜  「私も、石作皇子いしづくりのみこさんならいいかも……」

石作皇子いしづくりのみこ「マジっすか!?」

輝夜  「でも、条件が……」

石作皇子いしづくりのみこ「ああ、収入なら大丈夫っすよ。転売でもうけてますから。輝夜さんの0.5人分くらいなら養えるっす」

輝夜  「いえ、私には欲しいものがあるんです。それをプレゼントしてくれる人と結婚しようと決めてて……」

石作皇子いしづくりのみこ「なんすか、それは?」

輝夜  「仏の御石の鉢ほとけのみいしのはち


石作皇子いしづくりのみこは、予備のスマホを取り出すと検索しました。


石作皇子いしづくりのみこ「Amazonで売ってないな。楽天は……」

輝夜  「いえ、遠くの国にしかないんです」

石作皇子いしづくりのみこ「どこっすか?」

輝夜  「インドの奥地、“テンバイヤー地方”にある“ガナマイキニ”山脈の麓、“ショタイモツンジャネーヨ”村です」

石作皇子いしづくりのみこ「OK!OK!」


石作皇子いしづくりのみこは、スマホに向って宣言しました。


石作皇子いしづくりのみこ「みなさ~ん、石作チャンネル新企画『ザ・花嫁へプレゼント・ゲッツ!』行ってみよ~!」


翌日、石作皇子いしづくりのみこいかだを組むと、インドへ旅立ちました。


……石作皇子いしづくりのみこ脱落



3、二人目・阿倍御主人あべのみうし



次の見合い相手は、世界的な大企業の社長・阿倍御主人あべのみうしでした。名前が長いので、以下、「あべっち」で通します。


輝夜  「輝夜です。社長様なんですってね。さすが風格がおありですわ」

あべっち「いやいや、これでも昔はハッチャけてましてな。実は、藤原京時代はバンドをやっとったんですわ」

輝夜  「まあ、私、音楽大好きですわ。CDありますかしら?」

あべっち「ははは、いまどきCDとは著者の歳がバレますぞ。どれ、最近自作した曲を輝夜さんの携帯に……」


輝夜のスマホに曲が流れました。が、三秒もたない内に輝夜はオフにしました。


輝夜  「まあ、なんて素晴らしい曲なんでしょう!これならグラミー賞取れるんじゃありません?」


あべっちは照れ臭そうに、顔を赤らめました。


あべっち「はは、そういってもらえると嬉しいですな」

輝夜  「冗談じゃありませんことよ!」


輝夜は席から立ちあがると、あべっちの手を取りました。


輝夜  「あなたの音楽は、先進的で古典的で奇抜で地味で……いや、もう言葉が浮かびませんわ。今でも絶対行けますわ!」

あべっち「ほ、本当かね!?」

輝夜  「本当です!……社長様、私にプロポーズをする時は、花束ではなくグラミー賞のトロフィーを!」


輝夜の言葉に、あべっちは目の色を変えました。そこには、かつてあった情熱の火がたぎっていました。


あべっち「そうか……まだいけるか……いや、ありがとう輝夜さん!」


あべっちは、輝夜にグラミー賞受賞を約束しました。



数日後……大企業の解散のニュースが新聞をにぎわす中、空港のロビーには背広からジャージに着替えた あべっち の姿がありました。

荷物が入ったキャリーを引きながら、片手にはギターケースを持っています。かつての夢を再び紡ぐ為に、アメリカに旅立とうというのです。


しかし、そうは問屋がおろしません。直ぐに三人の影があべっちを取り囲んでしまいました。

辞任を聞きつけて駆け付けた、副社長、専務、万年平社員の三人です。


副社長 「社長……血迷いましたか?」

専務  「それとも認知症ですか?」


副社長と専務は、前に立ちふさがりました。


あべっち「ワシの人生じゃ、黙っとれ!」

副社長 「ミュージシャンになる為に会社をつぶすと……?」

専務  「私らに一言もなく、勝手に辞職?」

副社長 「社長、ふざけたらあきません」


副社長と専務は、あべっちに詰め寄りました。しかし、あべっちの決意はらぎません。彼は二人を押しのけました。


平社員 「社長!」

あべっち「じゃかま……!」


怒鳴りかけたあべっちを、突然、平社員が殴りました。倒れ、茫然ぼうぜんと見上げるあべっちに、平社員は鋭い眼差しを向けます。


平社員 「社長……あんたは、大事な事を忘れとるんやないか!」


平社員の言葉に、副社長も専務も「そうや」と相槌あいづちを打ちました。


あべっち「退職金なら、とっくに」

平社員 「そんな話やない!」

あべっち「社員の再就職先なら、知り合いに任せたわ!」


平社員も、副社長も、専務も、激しくかぶりをふりました。


あべっち「なら、大事な事とは何じゃい!」


社員一同「バンドは一人ではできんのじゃ!!」


言うやいなや、三人の社員は背広を脱ぎてました。

その下からでてきたのは、ロック調のレザースーツ。三十年前にステージの上で輝いていた魂の衣装でした。

そう……彼らはかつてのメンバーだったのです。


副社長 「バンドだけでは食えんからと、片手間かたてまに始めた会社……」

専務  「それが、うっかり大企業に成長したせいで、バンドは休止……」

平社員 「でも……でも、ワシらの本業はバンドやろ!」


平社員はカバンを開きました。中からは大量の紙束が出てきました。


平社員 「三十年間、仕事する振りして書き溜めた作詞集……リーダーは、これを無駄にさせるつもりか!?」


気づけば、副社長(ボーカル担当)、専務(ベース担当)、平社員(ドラム担当)は涙を流していました。


メンバー「活動再開するなら……なんで、なんで……付いて来いと言ってくれんのじゃ!」


その言葉に、あべっちの頬にも熱いしずくがこぼれ落ちました。

あべっちは何度もうなずくと、立ち上がりました。そして三人と固く抱擁を交わしました。


あべっち「すまん……すまんみんな。つまらんお見合いの為に、一番大事な事を忘れ取ったわ……」


四人は、かつての情熱を取り戻し、互いにうなずき合いました。


一同  「一緒に三十年前の夢の続きを……取ろうやないか世界を!」


四人は肩を組み、世界へ向けて旅立ちました。もはや、あべっちには、お見合いなどどうでもよい事でした。



……阿倍御主人あべのみうし脱落



4、三人目・大伴御行おおとものみゆき


さて、三人目は、パンチパーマに金縁眼鏡きんぶちめがねが良く似合にあ大伴御行おおとものみゆきです。

大伴御行おおとものみゆきって、読みにくい名前ですね。分かりやすく、以下「ヤクザ」にしましょう。


ヤクザは、輝夜と二人きりになるなり、タバコをふかし始めました。


ヤクザ「いやあ、輝夜さん。オレの好みだわ」


ずいぶんと上機嫌です。


ヤクザ「昔は女子プロのアジャ・コングのファンだったけど、あんたもパンチ効いてるね。ハリウッド製の特殊メイク?……え、すっぴん、マジで?」

輝夜 「ヤ…大伴さんは、ちょっと怖そうですわね」

ヤクザ「とんでもねえ!オレ、女には優しいよ。ガキの頃からね……」


ヤクザは、なつかしそうな目で自分の過去を話し始めました。


ヤクザ「保育園の時は、保育士のお姉さんの尻でかくてさ、重くて可哀かわいそうだから、毎日、支えたりんだりしてあげてたもん」

ヤクザ「小学校の時は、女子から大人おとなっぽいってモテてね」


ヤクザは、タバコの灰を灰皿に落としながら続けます。


ヤクザ「小三の時から授業中に“飲む打つ買う”やってたから、貫禄かんろくがあるように見えたんだろうね~」

ヤクザ「ああ、でも、小五の時に好きな子に告白したら、タバコくさいって振られちゃったけど」


輝夜は、全然興味がありませんでしたが、辛抱しんぼう強く相槌あいづちを打っています。


ヤクザ「そんでオレ、実はさ、中一ちゅういちで自立しちゃってんだよ。マジで!」

輝夜 「中一で働きだしたんですか?」

ヤクザ「親父が狩人かりうどだったから、オレも早く一人前の狩人になりたくてね‥‥‥」


煙がこもってきた為、輝夜は扇子を取り出して、口元をおおいました。


輝夜 「ごほ……そ、それは御立派ですね」

ヤクザ「へへ、街角で獲物を物色してね、財布やカバンを良く狩ったもんだよ。暑い日も寒い日も雨の日も雪の日も……あの頃のオレは真面目だったなあ」


ヤクザ「その甲斐かいあって、お国がオレの為に御殿ごでんを用意してくれてね……三食飯付きで、風呂も便所もあって」

ヤクザ「特にセキュリティーが、すごくてさ……窓には鉄格子てつごうし、扉には錠前、夜には役員が見回りまでしてくれて、いや、VIP待遇だったよ」


輝夜 「ああ、少年院ね……」

ヤクザ「そうそう、そんな名前の屋敷。皇太子が通う学習院も、同じ「院」の字が付くんだってさ。へへ、つまり皇太子とオレは「院仲間」なワケよ」


ヤクザは、灰皿でタバコの火を消すと


ヤクザ「実は、ここに来る途中に、オレのファンにバッタリ出会っちゃってさ……これから見合いなのに、プレゼント渡される所だったんだよね」


自慢げにいいます。


輝夜 「まあ、どんなプレゼントですの?」

ヤクザ「チェーンの両端に、銀色のブレスレットが一つずつ付いてるお洒落おしゃれなやつ」

ヤクザ「あいつら、「もう逃がさんぞ!」「大人おとなしくしろ!」って、わざわざオレの両手にめてくれようとすんのよ。いやあ、ふり切って来るの大変だったわ」

輝夜 「それは良かったですね……」


輝夜は、ええ加減、ヤクザの与太話よたばなしに飽きてきました。


輝夜 「女性に優しいヤ…大伴さんは、私にプレゼントを贈ってくれるかしら?」

ヤクザ「おお、輝夜さんの為なら、何でもってきてやるよ!近くに金持ちの家あるからよ。金銀どころか、翡翠ひすいたまでも、水晶のたまでも、なんでもよ!」

輝夜 「うれしい!実は私、欲しい“タマ”があるんですの」

ヤクザ「おう!極道に二言はねえ!どんなたまが欲しいんだい?」


輝夜は、ふところから一枚の写真を取り出しました。写真には、〇〇組組長と名前が入っていました。


輝夜 「こいつの“タマ”を取ってきて欲しいの」


タマはタマでも、“命”たま違いでした。


ヤクザ「……いや、こいつは……」

輝夜 「あら、二言あり?大言壮語の割にビビっちゃった?」


輝夜はバカにしたように笑いました。


ヤクザ「な、なめんじゃねえよ!おう、取って来てやらあ!」


ヤクザはふところのピストルをつかむと、飛び出して行きました。



……後日、縁側えんがわで新聞を読んでいた輝夜の父がボヤきました。


輝夜父 「輝夜、物騒な世の中になったもんやの」


父は新聞記事を読み上げました。


「〇〇組・組長襲撃事件……犯人はその場で逮捕。△△組の鉄砲玉か……〇△戦争勃発の恐れあり……」



……大伴御行おおとものみゆき脱落



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