進め!悪の組織部!

わきゅう

プロローグ

第0話 決戦!ウメダ陥落戦! ~Advance to hell !~

「なんでこんな事になってんだよ……」


 呟く俺、倫道りんどう・マサヨシの声は、鳴り響く轟音に掻き消された。

 巨大な、今まで見た事も無い程に巨大な赤い火柱が、夜の闇を塗り替えてしまいそうなくらいに強く輝いている。

 爆炎と黒煙が、空高くそびえ立つ鉄骨と鉄筋コンクリートで築き上げられた巨大な塔を包み込んでいた。

 高さm、重量はトンにも及ぶ、超巨大建造物が。

 ありとあらゆる闇の商いの地、エリアの象徴が。

 立て続けに起こる爆発に、その塔――、“しん世界せかいにそびえ立つ“超天閣ちょうてんかく”は大きく傾き、崩壊しようとしていた。


「はーっはっはっは! やはり炎はいいな! 爆発こそが芸術だ! そうは思わないかね、副部長ボス!?」


 現在時刻は、午前0時を少し過ぎたところ。場所は“禁忌きんき”地方。その中心たるオオサカエリアの更に中心、ウメダシティ。

 “超天閣”からはかなり距離が離れているビルの屋上に居るにも関わらず、爆音と熱風に煽られながら頭を抱えている、俺の横で。

 バカみたいに露出度の高い服を着た、バカみたいな笑い声を上げている、幼馴染のバカ女は、大層ご機嫌な様子だった。


「なぁ、ダッキ。教えてくれ。……なんで、こんな事になってんだ?」


 先程の呟きを、今度は明確な質問にしてみる。

 燃えるような赤髪のポニーテールに、貧乳のくせして肌が多く露出した際どい衣装を着ている女。――俺の幼馴染にして、今や『人類史上最悪の女』の異名を持つ、咎ノ宮とがのみや・ダッキにむかって。


「ほう? この我に、随分とわかりきった事を聞くではないか?」


 悪の一文字が刻印された金バッジという、どうにも取り繕えない代物がついた黒い帽子キャップを被り直しながら、偉そうにダッキが答える。


「無論! 我らの“世界征服”の第一歩が完了したからに決まっていよう!」


 丸っきり悪の総帥みたいなダッキの台詞に、俺はますます頭を抱える。できれば、このまま膝も抱えてうずくまりたい。そのまま、この現実を見て見ぬフリしたい。

 だが、そんな俺の思いとは関係なく、次々と起こる爆発はより激しさを増し。

 ついには、“超天閣”の先端部分を、大きく吹き飛ばした。


「おぉ、見るがいい副部長ボス! 先っぽのほうが飛んでいったぞ! ふははは、実に愉快な光景ではないか!」


 ――あぁ、この世の終わりってこんな感じなのかなぁ。


 もはや、諦めの境地に達しつつある俺の横で、幼馴染バカ女が歓声を上げている。

 物語に出てくる、悪役みたいに。

 いや。悪役みたいに、じゃ正確ではない。


 ――咎ノ宮・ダッキは、悪なのだ。


 完全に、救いようもなく、どうしようもないくらいに。

 なんて馬鹿みたいな部活の、“部長ラスボス”をやるくらいには。

 ……燃え盛る炎に煌々と照らされている夜空を見上げる。


 あぁ、神様。

 今までロクな事をお願いしてきませんでしたが、今度のお願いはマジです。

 マジで、お願いします。

 時間を。

 あの日、あの時まで時間を戻して下さい。

 この最悪が、『これから世界制服を開始する!』なんてバカげた事を言い出した時にまで。


 満月が、「知らんがな」とでも言いたげに、ポツンと浮かんでいた。


 ――時は、数ヶ月前まで遡る……。

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