あお

@oorasen

僕と中山

 僕が中山と仲良くなったのは、確か入学式から3日後のことだ。


 入学してからというもの、人見知りの僕は、新しいクラスに上手く馴染めないでいた。クラスで友だちを作ることもできずにいたので、昼休みは別クラスにいる中学からの友だちと過ごしていた。しかし、その友だち、僕とは違いとても社交的なのである。入学してわずか3日で、彼は新しい友人に囲まれていた。クラスにしっかり居場所を作って、仲間同士、和気あいあいと過ごしていた。そんな空気感の中で、他クラスから来ているよそ者の僕は、かなり浮いていた。もう彼をあてにはできない。そう悟って、その日、僕は早々に昼食を切り上げ、その場から立ち去った。


 立ち去ったはいいものの、行くあてなんてどこにもない。なぜならクラスに友だちがいないから。そんなわけで、僕は弁当箱を片手に、図書室へと向かった。そして、その図書室の扉を開けた先に、中山がいた。


 中山は昼寝をしていた。窓際の席で、安らかな寝息を立てていた。中山は美青年だから、陽の光を浴びて眠るその姿は、ちょっと眼福ものだった。それで僕は、眠る中山のことを頭の片隅に置いておいていた。


 僕が図書室で小説に読みふけること15分、そろそろ予鈴が鳴る時間になっていた。

 図書室にいた人たちは、みんなバタバタと出て行った。僕ももう戻ろう。そう思って座っていた椅子から立ち上がったとき、何気なく窓際の方に目を向けた。中山はまだ寝ていた。


 僕は慌てて中山に駆け寄った。おいおい、なにのんきに寝てんだ。いま何時だと思ってる?もう授業始まりますけど!いろいろ言葉が浮かんだ。

 しかし、ほら、僕は人見知りなのだ。初対面の、しかも意識のない人間に、いきなり話しかける勇気もコミュ力も持っちゃいない。僕は1、2分、その場に立ちすくんでいた。そうしている内に、ついに予鈴が鳴った。


 僕はいよいよ焦った。まだ馴染んでもいないクラスの中で、授業に遅刻して悪目立ちするのは絶対に避けたい。したがって、あと5分で教室にたどり着きたい。しかし、この人を置いていくのも僕の良心が許せない。なんとかこの人を起こして、さっさと教室に戻りたい。ただ、僕はこの人になんと言って話しかけたらいいんだろう‥‥。こんにちは‥‥?


 迷っている間にも1分が過ぎた。ええい、この際、どうにでもなれ。そう捨て身になった僕は、「あの‥‥」と声を出した。それと同時に、彼が目を開けた。


「あれ、おれ寝てた‥‥つか、あんた、なにしてんの?って、うわ、時間やべえ」

「あ、あと4分で授業始まりますよ‥‥!あ、僕はその、あなたを起こしてから教室に戻ろうとしてただけなんで、じゃあ、もう行きますね」


 そう言い残して走り出した僕の後を、中山は余裕の表情でついてきた。僕が息も切れ切れの中、中山は平然と話しかけてきた。


「ねえ、もしかしてさ、おれと同じクラス?おれ、1-1なんだけど」

「あ、僕も1-1‥‥同じだったんだ‥‥」

「おれ、中山早瀬。おまえは?」

「あ、僕は、西村陸‥‥よろしく‥‥」

「お、名簿近いじゃん。もしかして、席も近くだったか?おれ、記憶力悪くてさ。わりいな」

「いや、いいよ‥‥ちなみに、中山くんは席どこ‥‥?」


 走っている間中しゃべり続けた。気付けば本鈴まであと1分。僕たちは滑り込みで教室に入り、無事、先生が来る前に席に着くことができた。


 この一件以来、中山と僕はよく話すようになり、行動もともにするようになった。人見知りの僕でも、中山とは喋りやすかった。なにより、一緒にいて楽しいと思えた。中山の方も、僕と行動することを選んでくれた。


 そんなこんなで、約1年。僕たちは春休みを迎えていた。

 2年生に上がると、クラス替えがある。もしかしたら、中山とは別のクラスになってしまうかもしれない。

 できれば一緒のクラスがいいなあ。そう願いながら、新学期までの日々を過ごしていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る