第20話 国を作ろう!
「——で、どうして俺を連れてきたんですか……? 俺だって暇じゃないんですけど」
俺は澄んだ空の下に立っているとは思えないほど感情を込めずに言った。
本当はクエストをやりたかったが、半ば強引に連れ出されたのでいまいちやる気が出ない。
「関係ない。直接ではないとはいえ国からの命令だから拒否権はないよ?」
レイカさんは今朝方配られた新聞を眺めながら抑揚のない声で返してくる。
身長差を利用して上からこっそりと覗いてみると、そこには見覚えのある内容が長きにわたって記されている。
「まあ、それはそうですね。にしても、ギルドマスターも無理言ってくれますね」
国の命令なんて面倒極まりない。従わなければ白い目で見られてしまうので従うが、本当は自由に行動したいものだ。
「仕方ない。ねぇ、この記事……」
レイカさんは少し後ろを歩く俺に新聞を見せてきた。
「……やっぱり凄いニュースですよね。まさか反乱が起きるとは……」
俺は新鮮に驚くふりをして新聞を凝視した。
そこに書かれていたのは、先日俺が深く関わったイグワイアでの一件だった。
記事の内容としては『内部の反乱が起き、国王及び第一、第二王女が失脚し国外追放!? 国民からの信頼も厚い第三王女が自動的に国のトップになった!』といったものが大見出しを飾っていた。
そうかそうか。俺がいなくなってから、クララ王女と兵士たち、国民が上手く事態の悪化を防いだんだな。
適当に首を突っ込んだとはいえ、中々良い方向へ向かってくれて何よりだ。
俺は思わず笑みが溢れてしまう。
「うん。そこも大事だけどここを見て。やっぱり本当だったんだね」
レイカさんは一枚仕立てになっている新聞を裏返して、ある小見出しに向けて指を差した。
「ああ。この前聞いたイグワイアが名も無き領地から手を引くっていうやつですね」
そう。これまでアノールドとイグワイアのほぼ中心にある領地——通称、名も無き領地を巡る争いからイグワイアが降りることになったのだ。
まあ、聞いたところによると元々その領地はアノールドが先に発見し、そのことを大々的に公表していたみたいなので当然といえば当然である。
「そう。国がギルドマスターにいきなりこんな仕事を任せたのも納得」
国からの依頼を請け負ったギルドマスターが俺たちに仕事を任せたのだ。
間接的とはいえ、国から任された仕事といっても差し支えはないだろう。
「ですね……」
俺は予想していた景色とは違う荒れ果てた大地を見ながら、ギルドマスターから任された仕事について考える。
俺たちがギルドマスターに任された仕事。それは名も無き領地の調査だった。
これまで、名も無き領地の近辺をイグワイアの兵士たちが彷徨いていたせいで、アノールドは長い間調査に乗り出せていなかったらしい。
それが三日前の話。
そして新聞記事として公に出たのが今日。
「にしても……ここ何もないですね……。どうしてアノールドとイグワイアはこんな領地を巡って争ったんですかね」
名も無き領地は本当に何も無い。
ほんの僅かな草木もないことから近くに水場もなく、辺りに人の姿など全く見当たらない。
俺が国のトップだとしたらこんな領地を欲しいとは思わない。
管理するのにも人件費は必要だし、何より発展させるのは難しそうだしな。
「イグワイアはここをアノールドから掠め取ったのはいいけど何もしないのは示しがつかないから見栄を張ったんだと思う」
レイカさんは陽の光に晒されてカピカピになった地面を見つめていた。
ここまで水気のない枯れ果てた地面は初めてなのだろう。
「見栄ですか」
「うん。イグワイアは何回もここの領地に足を運んでいたみたいだしね。なのに全く手を加えてない」
つまり何回もここに来たのはいいものの、結局は何もできなかったということか。
「……にしてもこの地面……」
レイカさんの推理に感心しながらも、俺は地面に手を当てると、どこか違和感のある手触りだった。手に馴染むような……まるで俺の体が覚えているような。
この硬さと質感。柔な力では絶対に壊れないこの感じ。
陽の光で干されたにしては硬すぎる気がする。
「どうかした?」
俺がひたすら地面を触り続けていると、俺の隣にレイカさんがしゃがみ込み、同じように地面を触り始めた。
「いえ……なんでもありません」
俺は咄嗟に誤魔化すと、地面から手を離して立ち上がった。
どうするか。レイカさんに言うべきか……?
おそらくこの下にはダンジョンがある。
俺が四年間潜っていたダンジョンには遠く及ばない大きさだが、二桁階層はありそうなので大規模だといえるだろう。
モンスターの強さ的にはEからCランク程度が主となりそうだな。
「そっ……」
レイカさんは特に気にしていないのか、いつも通りクールに受け流した。
どうやらレイカさんは気が付いていないらしい。
これは僥倖だ。
「……」
俺は頭をフル回転させて様々なパターンに応じた利益について考えていく。
一つ目。ここでダンジョンの存在をお土産話としてアノールドに持って帰り、自分の株を少しだけ上げる。
これは正直あまり期待できないだろう。なぜなら一緒に行動しているのがSランクパーティーのメンバーだからな。世間はレイカさんを称賛するだろう。没案だ。
二つ目。レイカさんにダンジョンの存在を教えて、すぐに攻略に取り掛かる。これはあまり良くないと言える。なぜなら攻略したところで特に意味もないからだ。
実力アップにもならなければ、何の生産性もない。没案だ。
三つ目。ダンジョンの存在を隠し通し、何とかこの領地を自分のものにする。
そして民を呼び込み、一から街を作り、世界初であろうダンジョンのある国を実現させる。
苦労は多くあるとは思うが、その分最も成り上がることができる。さらに国に縛られる心配もなくなり、貿易業を盛んにすることで金も手に入る。
何よりちまちまクエストをやるよりも楽しそうだしな。
「……三つ目だな……」
俺は細々しい作業は好きではないので問答無用で三つ目に決めた。
「ぼーっとしてどうしたの?」
腕を組んでじっくりと思考していた俺の前に、レイカさんがひょこっと現れた。
「いえ、別に。帰還していい報告ができるように調査を続けましょうか!」
突然の行動に内心驚いた自分がいたが、俺は表情を崩すことなく目を合わせて、調査へのやる気を窺わせる発言をした。
「怖い。急にそんなにやる気出して……」
レイカさんが若干引き気味だが関係ない。
「よーし! がんばるぞ!」
さあ、楽しみになってきたな。
まずはとっとと調査を終わらせて、何とかアノールドのトップに接触しなければな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。