第16話 温泉最高
「あぁーーーー……四年ぶりの温泉は最高だ……」
ギルドを後にした俺は温泉に足を運んでいた。
溜まりに溜まった不潔な体の汚れを洗い流し、ほぼ貸し切り状態の湯船にひっそりと浸かる。
ちなみにアノールドには天然資源がないため水魔法で出した水を火魔法で温めた人工的なものになるが、正直違いなどわからないのでそれで事足りる。
もしもちゃんとした天然の温泉に浸かりたいのであれば、アノールドでは堪能できないのだ。
温泉好きには向いていない国だな。
そんなどうでもいいことを考えていると、同じ湯船の反対側に浸かる二人組の男性の会話が耳に入ってきた。
体つきや動きから察するに冒険者ではなさそうだな。
「お前知ってたか? 今日の朝、外のモンスターが一斉に討伐されていたって話!」
大柄な男が興奮したような口調で言った。
モンスターが一斉に討伐か……。
俺は少しその話題が気になったので、耳を傾けることにした。
「んだそれ? 一斉にってどういうことだ?」
小柄な男の言う通りだ。
その言葉は意味がわからない。無数のモンスターを同時に仕留める魔法か武術、あるいは剣術でもあると言うのか?
そんな都合の良いものがあればほしいものだ。
「文字通りだよ。近くにいた冒険者パーティーが見たらしいぞ。数百メートル規模の範囲内にいた無数のモンスターたちの首が一瞬で切られていたらしい。そのパーティーはそのおかげで難を逃れたみたいだが、何が何だが分からなかったそうだ」
小柄な男の問いに大柄な男が答えた。
数百メートル規模とは、これまた凄い魔法でも使ったのかもしれないな。
最低でも上級魔法だろうな。
「そんなことがあったのか。んで、その原因はなんだったんだ?」
確かに原因が気になるな。
どこかの国のSランクパーティーかSランク冒険者だろうか。
もしかしたらそいつかもな……った、いや……待て。この話、どこか引っかかるぞ……。
「それがわからないらしい。まあ、モンスターが消える分にはいいんじゃないか?」
俺はこの話を聞いて他人事のように感心していたが、ふと頭の中で今朝方のことを思い出した。
ん? 待て待て……朝、モンスター、数百メートル……。
「そうだな。どうせ目立とうとしてそいつらがホラ吹いてんだろ? そんなあり得ない話、信用するだけ無駄だよ」
「まあな。それよりも——」
二人組の男はその話に飽きたのか、すぐに別の話を始めた。
いや、そんなことはどうでもいい。
多分、おそらく、きっと……いや、確実に——
「——はぁぁ……俺かよ」
俺は小さくため息を吐いて考える。
ギルドカードの討伐履歴にも記されていたが、俺は今朝方、イグワイアからアノールドに帰る際に現れたモンスターを出合頭に首を刈りまくっていた。
おそらく俺がそこそこのスピードで走りながらモンスターを討伐していたせいで、その冒険者パーティーは目で追えていなかったのだろう。
そのせいで一斉にモンスターが討伐されたように見えたのだ。
一つ違う点といえば、その冒険者パーティーが見たのは数百メートルの範囲と言っていたが、実際にはイグワイアからアノールドまでなので、数百メートルなど軽く超える範囲に及ぶ。
「……あがるか」
馬鹿馬鹿しい。自分が原因となった話に興味を持っていたなんてな。
俺は話に夢中になっている二人組の男にバレないように湯船からゆっくりとあがった。
そしえ全く人気のない脱衣所でとっとと着替えを済ませて、入国金を支払いに正門へと向かったのだった。
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