第6話 新たな旅立ち

「地上に戻ってくるのも久しぶりだな」


 俺は無事に名も知らぬドラゴン種のモンスターを討伐し終えたあと、早々にダンジョンを抜け出し地上へと帰還していた。


 帰還方法は至って簡単。

 地上からの光が差し込むまで斬撃を上に飛ばし続け、無理矢理道を作るのだ。

 後はそこを駆け上がれば、楽に地上に辿り着けるというわけだ。


「とっととアノールドの冒険者ギルドに行って、マクロスの場所を調べるか」


 現在の時刻は太陽の位置から察するに真っ昼間だろう。

 ここから冒険者ギルドがある国——アノールドまでは今の俺が全力で向かえばすぐに到着できそうだ。


 そうと決まればやることは一つ。

 俺は今出せる限界の八割ほどのスピードでアノールドへ向けて走り始めた。

 無計画にも程があるが頭よりも先に体を動かすタイプなのだ。


 走り始めて数分後。見覚えのある街並みがようやく視界に入ってきた。

 中には知らない建物も多くあったが、冒険者ギルドの存在感や王城の迫力は健在だった。


 流石は冒険者の数がここら一体の国の中でもナンバーワンなだけあるな。

 軍事力に関しては他国の追随を許さないだろう。


 久しぶりの帰還で柄にもなくワクワクしてしまった俺は一気にトップギアに入りスピードを上げることにしたのだが、思いの外スピードが出ていることに気がついた。

 狭いダンジョンの中ではスピードや力をどうしても制限せざるを得なかったせいか、広い地上だとどうしても手加減が難しくなりそうだな。


 そんなことを考えているうちにあっという間に国の唯一の入り口である正門に到着した。


「入国したいのですが」


 俺はすぐに初老の衛兵に声をかける。


 幸い人はいなかったため、怪しまれることなく振る舞えそうだ。

 俺が入国の手続きをしたのはここに初めて来た時——十歳の頃だが、その時と同じ手続きならば簡単に入国することができるはずだ。


「ふむ。冒険者ですかな?」


「ええ。ですが身分を証明できるものもなければ、入国金もないのですが、どうすれば良いでしょうか?」


 どの国でもそうだが、入国する時には入国金と呼ばれる金銭と身分を証明できるものが必要になる。

 身分を証明できるものには色々とあり、冒険者は無料で支給されるギルドカード、商人をしているものは商会からバッジが支給される。

 それ以外のものは国に書類を提出すれば住民票を発行してもらえるそうだ。


 ちなみに俺はダンジョンを攻略している時に全てを紛失している。


「そうですね。それらをお持ちでなくても入国することは可能です。しかし、入国から三日以内に再びこちらに来ていただきまして、入国金を納めて身分を証明していただく必要があります」


 ふむ。やはり十年前と変わっていなかったか。


 俺も十歳から冒険者を始めてこの制度のおかげで入国することができたのだ。

 

「わかりました。明日また来ます」


「明日? 失礼ですが、あなたは盗賊にでも襲われたのでしょう? 私の裁量で期間は少しですが延長できますから無理はなさらないでください」


 初老の衛兵は可哀想な浮浪者を見るような目で俺の全身を眺め始めた。


 どうやら俺はそれほどまでに見窄らしい見た目をしているらしい。

 着ていた袴はボロボロな布切れになり、髪だって伸びっぱなしでボサボサだ。

 側から見れば怪しいことこの上ない見た目だと言える。


「お気遣いどうも。では、失礼します」


 時間も惜しいので俺はとっとと門を潜り、冒険者ギルドへ向かうことにした。


 周囲からの「なんだこいつ」とでも言いたげな視線をチクチクと感じるが仕方がないだろう。





「——ゲイルさん? でしたか? 申し訳ありませんが、そのような方は当ギルドに登録されていませんが……」


「……え?」


 意気揚々とギルドに到着した俺の表情を凍らせたのは、受付嬢の意味のわからない一言だった。


 何言ってんだ? 俺は四年前までここでAランク冒険者として活動してたんだぞ。

 自分で言うのもなんだが、この国の中でも結構名は知れていたはずなんだがな。


「ですから、ゲイルさんという方は当ギルドに登録されていません。本当にお名前は合っていますか?」


 再登録しようとやってきたのにそんなことを言われても困る。

 何かの間違いだろう。


「ちょ、ちょっと確認してみてもいいですか?」


 俺は尚も困惑した表情を浮かべる受付嬢から名簿を受け取り、一つ一つ冒険者の名前を確認していく。

 五十音順に並べられた名簿の中には見知った名前の冒険者も多く見られ、そこにはマクロスの名前もしっかりと記されていた。


 パラパラと紙をめくっていくと、やっとのことで「ゲイル」と記されたページを見つけることができた。


「ほら。ちゃんとありますよ。Aランク冒険者のゲイルですよ。」


 俺は受付嬢に「ほらみたか!」と自慢するように名簿を見せる。


 やはり受付嬢の見間違いだったようだ。

 

「……あの……その方は既に亡くなられていますよ?」


「……え……」

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