第2話 冒険とは
もしかすると、俺は冒険にかける思いが人一倍強いのかもしれない。
故郷の村がモンスターに滅ぼされたせいで人生が狂った。
家族と故郷を失い、一人ぼっちになり、人を信用できず、悲しみに暮れていた。
そんな中、藁にもすがる思いで始めた冒険者という仕事。
命をかけてモンスターを討伐し、街や国の人々に感謝をされる。そして成果によって手元には多くのお金が入ってくる。
それに俺がもっと力をつければ、村を滅ぼしたモンスターへの復讐を果たせるかもしれない。
俺にとってはまさしく天職のようだった。
だが、マクロスは違ったようだ。
冒険者は表面上の肩書きにしかすぎず、地位や名誉のために活動していた。
周囲に褒められ、良い女を抱き、富を得る。
そもそも皆が俺のような動機で冒険者をしているわけではないのだが、それについては百も承知な上でカッとなってしまった。
どこか、モンスターや冒険者を軽くみているような気がして。
どこか、俺の冒険者として思いを馬鹿にされたような気がして。
◇
マクロスの元を離れた俺はとあるダンジョンの目の前まで来ていた。
錆びついた長方形の縦長の扉は見上げるほど大きい。
中からは異様なピリついた殺気が漏れてきており、一歩でも足を踏み入れてしまえば、そこから逃げ出すことは難しいとすぐにわかる。
ここは最近俺が発見した未開拓のダンジョンだ。
俺は今の【月光】の四人ではまだ攻略は難しいということで、その時が来るまで誰にも言わないでおこうと思っていたのだが、気が変わった。
「……命……かけるか」
四人でも攻略が難しいダンジョンだ。
俺一人でどうにかなるとは思っていない。
だが、俺は”冒険”がしたかった。どうしてもしたかったのだ。
全てはマクロスを見返すため。
ただ、感情に任せて殺してしまってはモンスターと同じ。
俺は俺なりにあいつを後悔させる。そのためには強くなる必要があった。
ここから先にあるのは生きるか死ぬかの二択のみ。
僅かな油断や慢心が命を落とす。そんな世界。
「行くか……」
俺は腰に下げた刀をゆっくりと引き抜くと同時に、ダンジョンの入り口に右足を一歩踏み出した。
◇
「グッ……! ハァッ! 流石に……キツいな」
俺は満身創痍の状態で漆黒のモンスターを切り捨て、刀を杖代わりに膝をついた。
息を荒げ、懸命に呼吸を整える。
「……ハァハァ……少し休もう……」
俺はギシギシと軋み、疲労の合図を出す体に鞭を打ち、安全地帯——安地へと駆け込んだ。
「このダンジョンは最高だ……」
普通はダンジョンに安地なんていう甘ったれたものなんてないのだが、このダンジョンはモンスターが強力だからか各フロアに一つずつ安地が設けられていた。
モンスターからしたらたまったものではないが、冒険者からしたらこれほどありがたいことはない。
モンスターの強さにもよるが、ヒットアンドアウェイが可能なことも少なくだがあるので、戦闘を進めやすいのだ。
「よし……くっ……今日はダメそうだな。仕方ない。休むか……」
次の戦闘に向かおうと、重たい腰を上げようとしたが、体が言うことを聞かない。
そりゃあそうだ。睡眠や食事の時間を最低限に抑えて、ひたすらモンスターを狩り続け、ダンジョンを降って行ってるのだから当たり前だ。
「ここに来て……もう一年近いのか……」
ダンジョンに篭り始めてもうすぐ一年が経つ。
無論、俺の記憶が正しければの話だが。
もう一年が経つというのに、一人で攻略を進めているからか、地下に向かって入り組んだダンジョンのゴールはまだまだ見えてこない。
「こんなものにも慣れちまったしな」
俺は火の初球魔法で炙ったモンスターの肉に齧りついた。
食事に関しては気持ち悪いがモンスターの肉を喰らうことで事なきを得ていた。
不快感こそ存分にあるが、生き残るために妥協するしかない。
「……寝るか。明日はこのフロアを抜けようか……」
ぱぱっと食事を済ませたことで一気に睡魔が襲い、俺は深い闇に吸い込まれるように眠りにつこうとした——その時だった。
「……なんだこの音……?」
これまでに感じたことのないような腹の奥底を揺らす地鳴りが聞こえてきた。
ズンズンと音を立てる”何か”は着実に安地の近くまで向かってきている。
空気を震わせ、俺の鼓膜を刺激し、次第に鼓動を高めていく。
「……なッ!?」
それは突然現れた。
「ゴゲェェェェェェェッッッッ!!」
「——コカトリス……ッ!」
安地へと続く洞穴を力任せに破壊し、俺の目の前で意気揚々と翼をはためかせていたのはAランクモンスターの中でも最も危険とされるモンスターのうちの一体、コカトリスだった。
こいつはもっと下で現れると踏んでいたんだが……やるしかないか……。
「クソッ」
俺は目の前に佇む化け物への警戒心を募らせながら言葉を吐き捨て、ゆっくりと立ち上がった。
そばに置いていた刀を手に取り、グッと重心を低くして身構える。
「……いくぞッ!」
俺は立ち込める煙や埃、悪い空気を刀で薙ぎ払い、最後の力を振り絞るように地面を蹴った。
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