追放されてから数年間ダンジョンに篭り続けた結果、俺は死んだことになっていたのであいつを後悔させてやることにした

チドリ正明

第1話 追放

「お前を【月光】から追放する」


 マクロスはベンチに偉そうに腰をかけながら言った。


「……? どういうことだ? もう一度言ってくれ」


 俺はそんなマクロスの言葉を理解することができずに、思わず聞き返した。

 今日は休みだというのにパーティーリーダーであるマクロスから呼び出されたかと思ったら、いきなり訳のわからないことを言われたのだ。

 何かの冗談に違いない。


「はぁ……もう一度だけ言うからよーく聞いておけ。お前は【月光】には必要ない。目の前から消えてくれ」


「マクロス。なんの冗談だ? 嘘をつくならもっとわかりやすく言ってくれ」


 俺が必要ない? 消えろ? 

 マクロスは一体何を言っているんだ? 


 俺はお前に誘われて【月光】に入ったんだぞ?


「嘘だと? この目がそんな甘いことを言う目に見えるか?」


 マクロスはキッと目を細めて、俺の顔を睨みつけた。


「……!」


 ここでようやっと俺の頭は状況を瞬時に理解したのか、途端に鼓動が速くなるのがわかった。


 追放? 俺が? どうして? 

 ソロで活動してた俺に声をかけてくれたのはお前だろう?


「ようやくわかったか? お前はいらないんだよ。ちなみに既にマリンとノエルにはこの件を伝えているから安心しろ」


 マクロスはベンチからスッと立ち上がると、俺のことを見下ろしながらニタニタと笑った。

 まだ付き合いは短いが俺にははっきりと分かった。


 マクロスのこの顔は醜悪なモンスターに向ける表情と一緒だと……。


「……どうしてだ……。どうして……どうして俺はパーティーに必要ないんだ?」


 俺は自然と涙が溢れてきていた。

 遠い田舎の村がモンスターに襲われたことで行き場をなくし、冒険を始めたはいいものの、友達や仲間と呼べる存在ができず、一人ぼっちで冒険をしていた俺に声をかけてくれた”大切な仲間”に裏切られたから……。


「新しい人材が見つかったんだよッ! お前よりもとびきり優秀で役に立つやつがな!」


「ま、待て! 俺はこれまで【月光】のために尽くしてきたつもりだ! なんならクエストだって率先しておこなっていた! 何がいけなかったんだ!」


 マクロスの冷たい言葉に俺は息を切らしながら必死に反論した。


 幸い人通りが多い国の中心部からは遠く離れたところなので、他の人に聞かれることはないだろう。


「お前は何も分かっていない! 【月光】がAランクになったばかりの時に加入した新参者のくせにでしゃばりやがって! お前が一人でモンスターを討伐するせいで、俺たちが全く経験を積めなくなったんだよ!」


 マクロスはグッと歯を食いしばると、唾を撒き散らすように早口で捲し立てた。


 だが、この言い分には俺は文句があった。


「……それなら俺に言ってくれればよかっただろう?」


 一言くれれば、俺だってモンスターを譲ることもできた。

 加えると、それに関しては既に魔力を使い果たして満身創痍だったマリンや、補助魔法を中心としているノエルを思っての行動だった。


 ムッときた俺は少し挑発的な口調になってしまっていた。


「……黙れ……ッ」


「え……?」


「——黙れ! 黙れ! 黙れ! お前に俺の何がわかる!? Fランクから今に至るまでパーティーリーダーとして【月光】を引っ張ってきた俺の気持ちがわかるか!?」


「……」


 突如として声を荒げたマクロスに俺は思わず黙り込んでしまった。

 俺が知ってるマクロスは戦闘中は的確かつ冷静に指揮をとり、普段は陽気で明るい男だったはずだ。


「お前ばかりに助けられて俺は何もいいところを見せられない! 俺がマリンやノエルに良いところを見せるチャンスもたくさんあったのに……ッッ!」


「チャンス……? どういう意味だ?」


 マクロスはこれまでに浮かべたことのない気色の悪い笑みを浮かべながら言った。


「はははっ! これまでの女もそうさ! 俺のかっこいい姿を見て墜ちてきたよ! それはマリンやノエルも例外じゃないだろうさ!」


 俺は拳をグッと強く握りしめた。

 同時にマクロスとの間合いをはかった。

 これは俺の勝手な判断になってしまうが、こいつにはつくづく幻滅した。


「……お前が冒険にかける思いは俺とは違うようだな……」


「ああ。そうだよ! 全ては女のためさ! 冒険者になってからは何人もの良い女を抱いたぜ! それにお前みたいに俺はモンスターに恨みなんてものは持っていないしな! 正直お前の境遇には笑っちまったよ! 家族を失い、村が滅ぼされ——グッフッッ……ッ!」


「——悪い。気が変わった。【月光】を抜けさせてもらう。あとは好きにしてくれ……」


 俺は人選を見誤り、単純に人を信じてしまった自分を咎めるようにマクロスの腹に拳をいれた。


 そして地面に力無く倒れ込むマクロスに背を向け、俺はその場を後にした。

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