第3話 妹のデビュタントを過剰サポートしよう!

この度妹の社交界デビューが決定した。


僕? 僕はほら、血が繋がってないから社交界にはいかないよ。

そういう約束だし。

だからといって10歳のお子ちゃまには荷が勝ちすぎる。


だから僕に依頼があった。

依頼主はメリア母さん。

依頼内容はレオンハート家の珠玉の一品。

錬金術の集大成で妹の身柄を守ってやれ。そんな内容だったとおもう(うろ覚え)。


そして僕が彼女に持たせたのは貴族の子供なら一度くらいは手にする魔法の杖である。


本格的な魔石の嵌め込まれたロッドとは違い、小さい杖は子供が練習用に扱うものだ。

逆にバカにされたら度肝を抜いてやれば良い。

何せこの杖は魔力の全くないアリシアのために使った半永久機関の魔法の杖だからだ。


事前にセットできる魔法術式は二つまで。

流石に三つ入れられなかったが、世の貴族は一種類しか扱えないのでこれでも破格だ。

そんな説明をしつつ、妹に完成した杖の取り扱いを説明した。


「最初はこうやって杖を左から右に回すんだ。これは僕ように作ってあるけど、魔力を流した術者にしか見えないメニューが見えるようになる。そこで魔法を選択して、決定する。今回はポピュラーに炎の矢フレイムアロー火炎槍フレイムランスを追尾型で実装した。魔法をセットしたら目標を定めて杖を勢いよくふれば後は勝手に発動する」

「あの、お姉様?」

「……なに?」

「わたくし耳がおかしくなってしまったのでしょうか?」

「どうして?」

「だって魔法の素質を持って生まれず、かつ魔力量の少ないわたくしが魔法を扱えると聞かされて驚かないはずがありません」


ふむ、言われてみればそうだ。

しかしこの程度で驚いていてはこの先錬金術でとても苦労するぞ。だから残酷だけど真実を教えてあげることにした。


「実はね、アリシア」

「はい」

「魔法は素質や魔力関係なしに放てるんだ」

「えっ?」


あ、固まった。

やっぱり知らなかったか。

魔道具にいまだに魔石使ってる時代にこんなこと言われたって誰も信じないよな。


「……本当ですか?」

「残酷なことに真実だ。ちなみに僕の作った魔道具、どうやって動いてると思う?」

「確かにそれは不思議だと思ってました。てっきりお姉様の魔法かと」

「半分あたりで半分ハズレ」

「???」


アリシアはよくわからないという顔をする。


「僕の魔力はそんなに多くない。多かったら錬金術なんてやらずに家を追い出される必要もなかった」

「確かに。そこはおかしいと思っていたんです」

「けど魔道具の術式ひとつで魔法使いはこれから先無用になると判明した」

「お姉様……」

「なに?」

「それは他言無用でお願いします」


アリシアは必死に縋り付いた。

勿論、墓場まで持っていくつもりだ。

ただでさえ戦争の火種になりかねない案件。

それで踏ん反り返って来た貴族が伯爵家を潰そうとあの手この手を使ってくることが目に見える。


「勿論だよ。でも覚えておいて? 錬金術はそんなこともできてしまう、それをアリシアに僕は教えようとしている。その覚悟を今こうして教えている」

「わたくしも魔法が扱える?」

「よく似たものがね、素質なしで放てるようになる。努力せず、術式ひとつで今後なんでもできるようになる」

「到底信じられません」

「今は僕の言葉だけを耳にしていればいい。そして知ろうとすることは罪にならない。悪用したら流石に罪になるけどね?」

「はい、こんな恐ろしい力を悪用なんて、そんな」


今はそれでいい。恐ろしいものだと覚えてもらえれば教えた甲斐がある。危機感を持たずに作り出されたらたまったものではない。ただでさえ今後の社交界での生き方が決定されてしまうからだ。


「これはあくまで護身用だ。レオンハート家の令嬢として最低限覚えて置いて。屋敷にいる時は安全だけど、外に出たらどんな危険な目に会うかわからないんだ」

「そこまで考えてのことだったのですね?」

「もちろんだよ。僕をなんだと思ってるの?」


肩を竦めて呆れたように嘆息する。


最終的に攻撃魔法はファイヤアロー一つとし、もうひとつは緊急退避型の転送を設定した。

転送先は今は自室としているが、学園に通い始めたら寮に置いてもいいかなと考えた。

勿論アリシア以外の人物が触っても発動しない術式も添えておく。僕の大事な妹の身を第一に考えるのは姉である僕の務めである。



結局アリシアは両親に連れられてパーティーの挨拶回りには参加したものの、同年代の低次元な会話に付き合いきれなくて早退。

イヤリングに事前に仕込んでいた無線の魔道具でリード父さんと連絡を取って、後は自宅で僕と錬金術授業の続きをした。


「やっぱりお姉様は凄いです。憧れです」


よせやい、照れるじゃん。


「アリシアは本当に錬金術が好きだね?」

「だって自分の手で変化を起こせるのは面白いですし、それに……お姉様がいますから」


ちょっと最後の方はゴニョゴニョ言ってて聞こえなかった。

上目遣いでイジイジしだす妹に意地の悪い顔をしながら揶揄う。


「今なんて言ったの?」

「……なんでもありません! そんな事より次を教えてくださいまし!」


拳を握ってポカポカと叩いてくるアリシア。

全然痛くないけど顔を真っ赤にして怒っているアピールは逆に微笑ましく思うほどだ。


一年も経たずに毒の抗体を見つけ出して対処するアリシアは間違いなく錬金術の未来を変える逸材だ。


対して僕のこれはチートだからたいして誇れないんだよね。

でも彼女の素質は生粋だ。一体どこまで吸収していくのか今から楽しみで仕方がない。


そんな彼女に教える次のステップはいよいよ魔道具製作に取り掛かる。

今や成分の抽出と配合においては僕でも舌を巻くほどの腕前で、改めて目薬や疲労回復薬を教えるのもバカらしくなった。放っておけばそのうち自力で覚えてしまうだろうと至り、少し早いけど魔道具製作に移行する事にした。


流石に今までの跳躍と違い、覚えることが多くてアリシアは途中で音を上げそうになった。

けど、最初の授業で作った全自動ドーナツ製作機で作ったドーナツの美味しさに感動していたっけ。


そんな風に魔道具のあれこれと達成感を堪能してるうちにあっという間に時間は過ぎ去り、パーティー会場に置いて来たリード父さんとメリア母さんを乗せた馬車が屋敷の前に到着した知らせが部屋に届いた。


二人して出迎えに行き、途中でいなくなったアリシアの姿を見て改めて感嘆するように伯爵様は大きく頷いた。


「〝転送〟だっけ? すごいね。あの距離をひとっ飛びなんて」

「お父様にもお付けしましょうか?」

「私や妻には人の目がある。デビュタントをしたばかりの娘ならいざ知らず、私には不要だよ。パーティーが終わるまで在籍してるのも貴族の務めだからね」


クソ真面目なのか、別の理由があるのかやんわりと拒否をされた。もしかしたら僕に気を使ってくれたのかもしれない。


「あら、美味しそうな物を食べているわね。パーティー会場にあったかしら?」


メリア母さんが僕たちのドーナツをロックオンした。

更にはちょうど二つ乗っており、僕が手を伸ばすより先に動いた妹は皿ごと両親に差し出した。


「これ、お姉様と錬金術で作ったものです。よければお一つ如何ですか?」

「本当? 錬金術でこんなことができるのね。うん、美味しいわ」


メリア母さんは美味しそうにドーナツを咀嚼する。

やはり女は甘いものが好きだよな。

僕も女になってから甘いものに目がない。

しかしリード父さんには少し不評だった。


「少し甘すぎるんじゃないか? 私はもう少し周囲のシュガーを払ってくれた方が好みだな」

「あら、このぐらいの甘さが良いんじゃない」

「女性にちょうど良い菓子は父さん苦手だな。次作るときは少し甘さを控えてくれたら父さんも食べれるんだけど」

「まあ、旦那様ったら」


なんだかんだ文句を言いつつ食べる父に、僕は肩を竦める。

無理しなくても良いのに、やはり親心というのもあるのだろうか?

娘の作った料理なら無理して食べてくれそうな感じがする。

あったかい家族の姿がそこにあった。


しかし後日、ドーナツはメリア母さんから封印指定を受けることになる。


何故かって?

そりゃ甘くて脂っこいのは旨いけど太るから。

僕くらいの代謝の高い年齢なら良いが、メリア母さんくらいの年齢になると少し落とすのも相当な苦労を強いられるからだってさ。そこら辺は自業自得じゃんね?


僕は緊急依頼をされたダイエット薬の研究に着手せざるを得なかった。

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