味方を殺した罪で事実上追放された私は、死んだと見せかけて旅に出ることにしました 〜生きているとバレて戻ってくるよう命令されてももう遅いです〜
横浜あおば
プロローグ 旧態依然の国
皇暦二六八一年一月八日、太東洋上。
『ユナイタルステイツの魔女部隊と会敵。ただいまより作戦行動を開始する』
『了解』
私の所属する皇国護衛隊航空部隊の戦闘機九機が、私の機体の後方から速度を上げて追い抜いていく。
敵は世界一の大国ユナイタルステイツの魔女部隊。私はこの戦闘機の圧倒的な火力をもって相手を殲滅すればそれでいい。
はずだったのに。
皇国護衛隊航空部隊首都基地。
「この裏切り者!」
「貴様はステイツの味方か!」
「全く、これだから女はよ」
腹部を蹴られ、息が上手く出来なくなる。それでも彼らは暴行をやめない。
だがこれは当然だろう。なぜなら私は。
「
「味方九機を撃墜し、あろうことかステイツ軍の援護をした。これは到底許されることではない。しかし、私はそこまで冷酷な男ではない。……
「了解……」
地面に倒れながらも見上げる美空に、守田司令は侮蔑するような視線を送って踵を返した。守田司令がいなくなると、男性隊員たちは再び殴る蹴るの暴行を加えてきた。辛い、苦しい。だけど、美空に後悔という感情は全く無かった。むしろ清々しさすら感じている。
ステイツ軍魔女部隊。美空が彼女たちの味方をした理由。それは、彼女たちが自分と同じくらいの少女だったからだ。彼女たちは魔女と呼ぶにはあまりに若く、可憐な魔法少女という印象だった。彼女たちは果敢にも、生身でこちらに向かってくる。
こんな娘たちを争いに巻き込んじゃいけない。
だから美空は、無慈悲に撃墜しようとする仲間を、後ろから機銃で撃ち落としたのだ。正義を貫いたと言えば聞こえは良いかもしれないが、こんなのはただの自己満足でしかないし、人殺しであることに何ら変わりはない。ただ、自分とは違って明るい未来が待っているはずの彼女たちの命を、こんな下らない争いで奪いたくはなかった。
私はもうこの国にはいられない。でも、きっとこれで良かったんだ。長年手足を締め付けてきた枷から解放され、ようやく自由を手に入れられるのだから。
翌日未明。
美空は魔女部隊が拠点としているステイツ軍の空母へ特攻をするための準備をしていた。するとそこへ男性隊員たちが姿を現した。
「これでお前ともお別れか~。寂しくなるな」
「最後にちょっと触らせてくれよ。その柔らかい胸も一度くらいは人の役に立ちたいんじゃないか?」
彼らは半笑いを浮かべて言う。完全な冷やかしだ。そして、許可も無く堂々と私の胸を揉み始める。
「死ぬのが怖いって言うなら、俺たちの奉仕係にしてやってもいいぜ?」
言い返す気にもなれないので、美空は黙って作業を続ける。しばらくすると、男性は美空の胸から手を離した。
「……チッ、可愛くねぇ女だ。さっさと死んじまえ」
つまらないと思ったのか、男性隊員たちがこの場を去っていく。
ようやく邪魔者がいなくなった。美空は機体の最終チェックを済ませ、戦闘機に乗り込む。ヘルメットと酸素マスクを装着し、計器類を一つ一つ指さす。そしてエンジンを回した。
「これでこの国とはさよならですね……」
滑走路に出て、一度停止する。
美空は深呼吸をして、操縦桿を強く握り締めた。機体はどんどんと速度を上げ、やがてふわりと浮き上がった。
こんなに嫌いな国だったのに、いざ最後となると少し名残惜しい。心がきゅっとなるのを感じながら、高度を上げていく。日の出前でも明るい首都の景色を横目に、太東洋の方向へ旋回する。
「さて、どうしましょうかね」
自分にはいくつかの選択肢がある。一つ目、守田司令からの命令通り特攻して死ぬ。二つ目、ユナイタルステイツ軍に寝返る。そして三つ目、撃墜されたふりをしてどこか遠い国へ逃げる。
この中から、美空は三つ目の選択肢を選ぶことに決める。平和に暮らせる国を探し、旅をする。自分らしく生きられる場所を見つけ、そこで幸せに暮らしたい。そのためにも、まずはここを上手く立ち回らなければならない。
太東洋上空に着くと、前方にうっすらと人の影が見えた。ステイツ軍の魔法少女だ。夜間哨戒中だろうか、一人で飛んでいる。はっきりと姿が見える距離まで近づくと、向こうから通信が入った。
『こちらユナイタルステイツ空軍。直ちにこの空域を離脱してください』
警告の言葉に対し、応答する。
「私を撃墜してください」
『…………えっ?』
かなり戸惑っている。まあ当たり前だろう。敵にそんなお願いをされるなんて普通夢にも思わない。
「昨日、突然味方を撃ったのは私です。きっと皆さんのこと、驚かせてしまいましたよね。でも、私と同じくらいの年のあなた達を見捨てられなくて」
『もしかして、助けてくれたの……?』
「そういうことになりますかね」
すると彼女は、空中でありがとうと深く頭を下げた。そして、いくつかの疑問を口にする。
『どうして撃墜してほしいの? そんなことをしたら、生きて帰れなくなる』
「そうですね。でも、心配は不要です。実は私も魔法が使えるので。死ぬことはありません」
『戦闘機をダメにしたら、上官に怒られない?』
「平気です。もうすでに追放されてますから」
美空がきっぱりと言うと、本気が伝わったのか彼女はこちらに銃を向けた。
『じゃあ、撃つね』
「はい、いつでもどうぞ」
ドカーン!
太東洋上で大きな爆発が起こり、粉々になった機体が海に落下する。それと同時に朝日が昇ってきた。映画のラストシーンのような美しい光景。
ヘルメットを外しながらその光景を見つめていると、横から声を掛けられた。
「良かった、ちゃんと脱出できたのね」
魔法少女は美空が死んでいないか不安だったらしい。
「私が生きていることは内緒にしておいてください。それではお元気で」
安堵の表情を浮かべる魔法少女に別れを告げ、美空は皇国から一番近い隣国、テンシャン人民共和国を目指して空を飛んだ。
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