第2話

 夜。

 ひとりで、山を登る。

 今日。何か、おかしな動きがあった。山頂の発電施設。発電量と効率が、少し異常値。

 本当は、彼女と一緒に街を巡回する予定だった。監視カメラの不具合が、報告されている。

 発電施設。

 何か、感じる。

 銃とフラッシュライトに手をかけ、じっと待つ。発電施設から。誰か出てきた。こちらとは違う方向に、全力で走り去っていく。気軽に追える速度ではなかった。


「管区」


『こちら管区。どうした?』


 総監が直々に出た。


「発電施設から人が出てきた。監視カメラで追えますか?」


『無理だな。何か、電源供給に不具合のようなものが出ている』


「待ってください。発電施設から更に人が出てきました。増援を頼みます」


『いや待て。官邸から直電が来た。少し待て』


 待てない。


「すいません待てないです。人の量が多い」


 通信を切った。傍受されるといけない。


 銃を構えて。ロックをかけたまま、上に、一回発砲。威嚇射撃。音だけ。


 人の流れが、一斉に伏せる。


 そのしぐさを見て、少しぞわっとした。あれは、軍人の動き。それも、生半可な練度ではない。すぐに全員が円の形をつくって、周囲の視認と索敵を始めている。


「なんだあれは」


 驚異的に、統率された動き。


 もし、敵だとしたら。

 何人殺せるだろうか。手持ちの銃では、二人か三人。下手すると、誰も倒せず一方的に殺されるかもしれない。


「おおい」


 人の流れ。円の、中央。撃てない距離で人に守られながら、誰かが喋っている。


「ちょっと、今日はつかれてるんだ。勘弁してもらえないだろうか」


 どきっとした。こちらを、見ている。視認できているのか。夜の闇のなかで。


『こちら管区。缶薙。攻撃を停止しろ』


「停止了解」


 銃をしまって。フラッシュライトにだけ手をかけて、ゆっくりと歩いていく。


「おお。理解が早くて助かるよ。ちょうど俺たちは、いま世界の命運を懸けた戦いの直後でな。つかれてるんだ。そうっとしておいてもらえると助かる」


「総監」


『どうやら本当らしい。官邸から極秘任務の通達が来ている。内容はわからんが、とりあえず敵ではないということはたしかだ』


「失礼しました。つい威嚇射撃を」


「いいよいいよ。気にしないでくれ。こっちも多少、気が立ってたんだ」


「この発電施設の発電量と効率が、少しおかしかったもので。申し遅れました。管区から確認に来た、缶薙と言います」


「カンナギか。いい目をしているな。普段は何をしている」


「普段ですか。女とゲームしたりデートしたりしてます」


「そうかそうか。健全でよろしい」


「さっき、すごい勢いで走り去った人間は」


「あれは気にするな。健全になるために全力を捧げた眼だった」


「眼、ですか?」


「ああ。俺は目を見れば大体のことがわかる。おまえが、女との距離感を図りかねていることもな」


 事実だった。


「すごいですね」


「告白してしまえばいい」


「いや。それで関係が壊れるのがこわいので。ずっとこのままですよ」


「嘘をつくなよ」


「事実ですよ」


 事実だった。


「おっ。きたきた。余剰電力を放出するそうだ。空を見ろ」


 空。


「おお」


 雷のような、音。地上から空へ。何条も光が昇っていく。


「ほれほれ。シャッターチャンスだ。撮れ撮れ」


 言われるまま。


 見つめていた。


 光は、空に吸い込まれて。


 弾けた。


「ありがとうございました。なんか、踏ん切りがつきました」


「そうか。がんばれよ」


「ええ」


 通信を。入れた。

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