Ⅱ.パンが話しかけてくる

翌朝、目が覚めて時計を見ると午前11時。

随分と長く寝てしまった。


机上の黄色の袋には【にゃんにゃんベーカリー】の文字。昨日行ったパン屋さんである。

ふざけた名前のパン屋ではあるが、『開運パン』としてテレビで紹介されていたので気になって買ってみた。この店のパンを食べた人達が次々に出世したり、宝くじに当たったりしたそうだ。


軽く顔を洗って、袋の中からクリームパンを取り出した。

トースターで温めるといい匂いが部屋に充満した。

いただきまーす、と口を大きく開けた時、突如子供の声がした。

「右側を歩きましょう!」

びくっとする。部屋の中を見渡す。誰もいない。

気のせいか、と思いもう一度食べようとするとまた、

「右側を歩きましょう!」

と声が聞こえた。

二度目は一度目よりしっかりと聞こえた。パンから。

信じられないが、パンから声が聞こえた。子供の、声。

じっとパンを見つめる。

半分に割ってみた。中は熱々のクリーム。

何か音声機械が仕込まれているか、と思ったが何も無い。

思い切ってかぶりつく。

今度は歯が当たる直前に早口で

「右側を歩きましょう!」

と声がした。


なんだこれ。もう一口食べるともう声は聞こえなかった。

不思議なこともあるものだ。

不規則な生活で、脳が狂っているのかもしれない。

もう一つ買っておいたレーズンパンは明日に残しておくことにした。

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