第130話 歩く『野獣の森』その1

ショウマは見ていた。

ケロ子がいきなりパワーアップした。

『身体強化』は既に使っていた。

さっきまではそれも時間切れ。

疲れた従魔少女はパワーダウンしていたのだ

『身体強化』はしばらく使えないハズ。

ならあれは。


「ギ〇セカンド、それともギ〇サード?

 風船みたいに膨らんじゃうんだっけ」


異世界転生しちゃったから続き読めてない。

ショウマが産まれる前から連載してたコミック。

オチ知りたかったなー。

O〇E PIECE。

それはそれとして。


ハチ子が、ハチ美が見る。

タマモが倒れながらも見ている。

みみっくちゃんがタマモを介抱しながら見る。

視線の先は“森の巨人”。

巨大な魔獣。

にもかかわらず相手を圧倒している少女。

ケロ子。


彼女の体から力が溢れ出す。

拳。

蹴り。

その一撃で。

自分の3倍は有る巨人。

それを殴り飛ばす。

蹴り倒す。


いつものケロ子と明らかに違う。

凄い。

凄い。

ハチ子は見惚れる。

ハチ美は呆然とする。

タマモは興奮する。

みみっくちゃんは納得する。

それでこそお姉さま。


でもずっと見惚れてもいられない。

驚いてもいられない。

何故ならあれは目指す先。

将来、自分がなるべき姿。


WOOOO!WOOO!WOO!

“森の巨人”フンババが叫ぶ。

既に元気の有る雄叫びでは無い。

誰にでも分かる。

断末魔の叫び。

オレハモウオワリダ。

そう言っている。


ケロ子が巨人を見据える。

これで最後。

跳びあがる。

巨人へ掌底での左フック。

巨大な頭が少女の手で吹っ飛ぶ。

吹っ飛んだ頭へ。

追撃の右拳。

力を込めて振り抜く、右ストレート。

そのまま重力に身を任せ。

下へ振り抜く。

踵落とし。

巨人の上半身が下へ。

体がくの字に折れる。

着地したケロ子は蹴り上げる。

後方宙返り蹴り。

巨人の半身が今度は上へと。

すっと立ったケロ子。

前へと体を回転。

地面に手を突く。

前転浴びせ倒し。

少女の両足が巨人を打つ。


長い戦いに終止符を打つ。

最後の連撃。


終わった。

“森の巨人”が崩れる。

本当にこれでもう終わり。


ショウマは言う。


「よし、終わりだよ。

 フワワさん、あそこ連れてって。

 ケガしてる娘に回復魔法使ってあげなきゃ」


終わった。

間違いなく倒した。

あとしばらくしたら、“森の巨人”は消える。

戦い終わるまであそこは別空間だとフワワさんは言ってた。

終わったなら行けるハズ。

従魔少女達のところへ。


ショウマの目の前にフワワはいた。

さっきまで体調悪げに寝ていた女性。

立ってショウマの間近にいた。


「うん。

 倒したね。

 わたしももう死にそう」


ええっ。

フワワさんが?

“森の巨人”フンババ、“森の精霊”フワワ。

巨人を倒すと、フワワさんも倒れる。

良く分からないけど。

そんなパターン。

アルね、アルアル。

パッとアレだと思い出せないけど。

そんな話有る気がする。


「ええっ。

 なら回復魔法使うよ」


ショウマは海属性魔法なら何でも来い。

ランク1からランク5までフルに使える。


「いいえ、回復じゃないわ。

 わたしをアナタのモノにしてちょうだい」


ええっと。

いきなりすぎない。

プロポーズ?

愛の告白?

えっちのお誘い?


フワワさんは女性。

獅子の仮面をかぶって顔は分からない。

だから美人とは明言できない。

出来ないのだけど魅力的な女性なのだ。


フワっとした包み込むような雰囲気。

その腕に抱かれたら安らいでしまうだろう。

そんな柔らかさが有るのだ。

見た人達が女神と呼ぶのも納得。

精霊と、女神と思ってもおかしくない。

そう思わせるだけのモノが有る。


毛皮を纏った身体。

下には緑色のアンダーウェア。

近くで見たら服じゃない。

身体そのものが緑。

植物を思わせるような緑の肌。

身体は細身で均整が取れてる。

ウエストは細いのに胸の膨らみは大きい。

獅子の様な縞の入った毛皮。


獅子の仮面の下には尖ったアゴ。

口元が出ている。

紅い唇。

話すと白い歯、ピンクの舌が覗く。


仮面の後ろには茶色い髪の毛。

柔らかそうな髪が仮面から肩へと流れる。

胸元を鎖骨を覆うくらいの長さ。


仮面をかぶって顔は分からない。

だけど美人だ。

美人って顔がキレイだけを言うんじゃないよね。

服装、雰囲気、髪型、スタイル。

全てに関して言うんだよね。

だからフワワさんは美人。

美女、魅力的な女性。

ショウマにとってはそう。

そう決めちゃった。


「ええっと、フワワさん。

 素敵なんですけど。

 イキナリ過ぎる告白かな。

 なんて…」


でも及び腰のショウマ。

本来、相手は良く知らない女性。

うつむいて喋れなくなっても不思議は無いショウマなのだ。

文句を言いたい時。

クレームつけたい時はそんなコト忘れてるよね。


その後もフワワさんの柔らかい雰囲気でするすると喋ってた。

でも本当は良く知らない魅力的な女性。

アナタのモノにして。

なーんて言われてもな。

どうして良いのか。

ショウマに分かるワケ無いじゃん。


「いいえ、今すぐじゃないと間に合わない。

 わたしをアナタのモノに」


「アナタの…」


「アナタの従魔にして!」







「ハァッ、この辺まで来たらもういいかしら」


「みなさん、一休みしてください。

 安心してください。

 このミチザネがついています」


またミチザネが目立とうとする。

けどお生憎。

女性達はみんなミチザネを遠巻きにしてる。

ミチザネに近付くモノはいない。

全員エリカのそばに来るのだ。


「ここまで来たら大丈夫よ。

 一休みしましょう」


「はい、エリカ様」

「ありがとうございます」


「良かった、もう足がパンパンだったの」

「さすが、エリカ様。

 頼りになるわ」


みんなエリカの近くに腰を下ろす。

亜人の村の女性達。

ミチザネの声には一切反応しなかった女性達。

エリカの声にはすぐ反応してくれる。

あっ、ミチザネが落ち込んでる。

たまにはいい薬ね。


どういう訳か亜人の村に帝国軍が攻めてくると言う。

それも500人近い人数。


「帝国軍が何よ。

 後ろめたい事は無いわ。

 堂々と迎え撃ってやろうじゃない」


そう言ったエリカだが。

多少荒っぽい状況になるかもしれない。

女性達を頼む。

女達を巻き込みたくない。

そう言われてしまった。

キバトラや、ムゲン、チェレビーに口々に頼まれたのだ。


確かにこの女性達は放っておけない。

ベオグレイドで奴隷扱いされていたと言う亜人の女性達。

どこかの店に捕まっていたらしい。

今からでも店に乗り込んで行って、犯人をブチのめしたいところ。

だけどもう店は摘発されたそうだ。

当然よね。

正義は勝つのだ。

女性達はケガをしていた。

聖者、ショウマが全員治したらしい。

イマイチ信用出来ない男だが、今回はよくやった。

女性達は体の傷は治ったものの、まだ男を怖がる。

帝国兵士に無神経に手出しさせたくは無いのだ。


女性と一緒に村の裏手から山奥の方へ逃げたエリカ達である。


後ろから、コノハやサツキさんが報告しに来る。


「エリカさん、全員いるわ」

「少し疲れてる位で異常は有りません」


エリカと一緒にリーダー格になっているコノハとサツキ。

男性でここに加わっているのはミチザネ位だ。


「ミチザネさん、どうしたんですか?」


サツキさんが、ミチザネに声を掛けてる。

図々しいミチザネだけど。

女性達にあからさまに避けられた。

さすがに落ち込んでる風だったのだ。


「いえ、何でも有りません。

 これしきの事。

 ミチザネはめげたりしません」

「本当に帝国軍が攻めてくるのでしょうか?」


コノハの台詞だ。

いきなり軍が攻めてくると言われても。

ベオグレイドの人達に亜人があまりよく思われてないのは知っている。

でも軍隊で攻めてくるなんて。


「ふーむ、普通は考えにくいですが。

 指揮官のムラード大佐という人物。

 大分評判が良くない様です。

 この男ならやらかしかねませんな」



「あれ!」

「何、なんなの」


「そんな事って」

「これは一体!」


女性達がいきなりザワザワとする。

座って休憩してた人達がみな立ち上がってる。

何が起きたの!

エリカは慌ててみんなの視線の先を追う。

眼下には『野獣の森』。

『野獣の森』を脇に見て山へと昇って来た。

かなりの高さまで登って来たエリカ達。

下には『野獣の森』の全貌が見える。

いや、見えていた。

それが今。


「何が起きてるの」


森が、森が。

言葉を無くしたエリカの替わりにコノハが言う。


「森が無くなった

 いや集まってる?」


そう。

眼下に広がっていた『野獣の森』。

それが近い位置にあった木々が無くなっている。

中央。

『野獣の森』の真ん中辺りが膨らんでいる。

上へと高くなっている。

『野獣の森』の周辺部分の木々。

それが全て中央に集まって高く膨らんだ。

そんな風に見えるのだ。


「動き出す?!」


ミチザネが言う。

普段偉そうにしていて、慌てる事の無いミチザネ。

だけどさすがにパニくってるみたいね。


「何言ってんのよ。

 森が動くワケないじゃない」

「しかし、エリカ様。

 森が集まって膨らむワケも有りませんぞ」


・・・。

そう言われるとそうかも。



「何だこりゃ」

「森が!『野獣の森』が」


「『野獣の森』が消えていく?」

「消えてはいないだろう。

 奥に集まってる風だぞ」


「森が集まるって何だよ」

「知らん、だが。

 木々が奥の方に集まって高く積みあがってるぞ」


亜人の村の戦士達。

普段口数の多い連中じゃ無い。

が、さすがにみんな口々に騒めいている。


横に有った木々が無くなったのだ。

彼等は今、湖と森に挟まれた道にいる。

『野獣の森』から魔獣が溢れ出した。

魔獣と戦っていた。

そうしたらいきなり横の木々が見えなくなった。

森の奥。

奥の方には今まで無かった背の高いモノ。

山の様に高く積みあがる。

あれは。

木なのか。

木々が集中した。

広く広がっていた森が全てまとまって積み重なった。

そんな風に見える。


「キバトラさんよ、『野獣の森』はたまにこんなコトが起こるのか」

「いや、初めて見る。

 老人達からも聞いた事が無い」


タケゾウとキバトラ。

さすがに二人とも魂消た風情。


「そりゃそうだ。

 どう見ても普通の現象じゃねーよ。

 天変地異とかの類いだろ」

「チェレビー、危険なカンジはしない」


チェレビーとコザル。


「そうなのですか、コザルさん」

「何が起きてるかは分からない。

 しかし危うい雰囲気というよりは」


ムゲンが訊く。

訊きつつ、矢を射る。

“鴆”。

『野獣の森』が横に無くなった。

その前に溢れ出た魔獣がいなくなったワケじゃない。

気を取られてばかりはいられない。


「危うい雰囲気というよりは安定してる。

 安心できる。

 あれは大丈夫。

 そんなカンジがする」


「ふーん、大丈夫か」


マリーゴールドは鞭と鎖を振るう。

“暴れ猪”。

革鞭が足に絡みつく。

身動き取れなくなる魔獣。

魔獣を鉄の鎖が打つ。


森の奥を見上げるマリー。

高く積みあがった緑の木々。

木々はまだ動いている。

徐々に形を変えつつ移動している。


「アレって…

 人の形に見えない?」


「ヒト~?

 どこがだよ」

「いえ、見えない事も無いですよ。

 ほら、手が有って足が有る。

 上の方は高くて良く分かりませんが。

 頭部らしい部分も有ります」


「どれどれ。

 ああー、あの下の部分な。

 確かに二本足で立ってる風だ」


タケゾウが言えば、戦士達も言う。


「確かに人の形だ」

「あれは足が動いてる」


「交互に足を出してるな」

「移動してるんだ」


「まるで歩いているみたいだ」

「森が、木々が移動していく」


「森が、森が歩いてる」


「『野獣の森』が歩いていく!」



【CM】

くろの小説、宣伝です。

次回予告とCMはセットみたいな。

『ゾンビと魔法少女と外宇宙邪神と変身ヒーローと弩級ハッカー、あと俺。』

https://kakuyomu.jp/works/16816452221149439173

『ゾンまほ』は一話千文字程度、毎日更新に挑戦中



【次回予告】

見下ろせば世界は低い位置。ショウマは今上の方から世界を見下ろしているのだ。これはアレだな。「はーっはっはっは。見ろ。人がゴミのようだ」とセリフを言わなきゃイケナイ場面じゃないの。そんなコト考えてるショウマ。まーそれはそれとして。

「私の言った通りに言って。お願いよ、私のご主人様」

次回、フワワさん囁く。 

(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください)

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