第111話 金環形邪蟲その3

『LVが上がった』

『ショウマは冒険者LVがLV27からLV29になった』

『ケロコは冒険者LVがLV25からLV27になった』

『ミミックチャンは冒険者LVがLV24からLV26になった』 

『ハチコは冒険者LVがLV24からLV26になった』 

『ハチミは冒険者LVがLV24からLV26になった』

『タマモは冒険者LVがLV22からLV25になった』


“金環形邪蟲”(メタルワーム)が消えたらしい。

ショウマ一行は全員LVアップ。

バキバキと生まれては割れていく氷達。

巨大なな氷の塊。

立ち昇る柱のような氷。

そこから突き出た枝のような氷。

それらに阻まれ、“金環形邪蟲”がどうなってるのかサッパリ分からなかった。

でもLVアップしたってコトは倒しきったというコトだ。

ついでにドロップコインも。

ショウマの手に入ったのは金貨が7枚。

さらに何かのアイテムが7個。

魔道核だと思う。

敵はバカでかいミミズ。

何体居たのか良く分かってなかったけど。

多分一体金貨一枚、7体いたのだろう。


ショウマがドロップコインで大金を手に入れるのは久々。

金貨1枚=1万G=およそ100万円だ。

『野獣の森』の魔獣はいくら倒しても銅貨しかドロップしなかったのだ。

最強クラスとエリカが言ってた“双頭熊”。

その魔獣を倒しても銅貨1枚だった。

なんでやねん。

誰か計算マチガイしてない?


まあ金に関して困ってはいない。

大金持ち計画で手に入ってはいる。

『野獣の森』で手に入るドロップ品、魔獣の革。

それを使って革の魔法武具を作成、帝国の街で売り払ってるのだ。



「あ、ああああああ。

 “金環形邪蟲”ちゃんー」


蛇お面女は座り込んでしまった。

ショウマ達はドロップ品の確認。

かまってられない。


「あ、あああああーん。

 ああーん、あーん。

 あああああーん」


女性は泣き出してしまった。

地面にへたり込んだまま。

辺り憚らぬ大声。

涙目とかそんな生易しい状態じゃない。

大粒の涙を噴水の様に流しているのだ。


ショウマは少し慌てる。

泣いちゃった。

泣かしちゃった?

いや、僕なにもやってないよね。

泣かせたのは誰か別の人だよ。

女性を泣かせるなんて、ヒドイ事するなぁ。


慰めようにもやった事ない。

どうしたらいいのか、分からない。

泣いてる女性を慰めるなんて高度なスキル持ってない。

日本での16年この世界に産まれ16年、泣いてる女性を慰めたコト無いのだ。

LV30まで行ったら慰めスキルも手に入らないかな。


ええと、ええと。

涙をお拭き、可愛い子に泣き顔は似合わないぜ。

ムリムリィ!ムリムリィムリィー!。

辺りには従魔少女もいるのだ。

そのセリフを少女達に聞かれるか、それとも死ぬか。

その二択だったら、死ぬ方を選ぶかも。

というか従魔少女がいるじゃん。

泣いてる女子を慰めるのは女子の役目じゃん。

と従魔少女達を見てみる。


ハチ子ハチ美は冷たい顔。

相手は魔獣をショウマ王にけしかけたのだ。

敵である。

泣いてるうちにトドメを刺すべきではないか。


ケロ子、普通なら抱きしめて慰めるはず。

そんなケロ子も今は闇ケロ子。

背中から殺気がまだ消えてない。

モリノナカイカリノチニクルフケロコのままなのだ。


みみっくちゃん。

みみっくちゃんは知らん顔。

手を横に振る、みみっくちゃん知りませーんのポーズ。

ショウマを指さして、泣いてる蛇お面女を指さす。

泣かせたのご主人様でしょう。慰めるのご主人様の役目ですよ。

そんなジェスチャー。

うそー。

僕なにもしてないってば。


まだ蛇のお面をした女性は座り込んで涙を流してる。


「ああーん、あーん。

 あああああーん」


ポカリ。

誰か泣いてる女性の頭を叩く。


「あいたっ。

 なにするんだ?!」

「何をするんだはこっちのセリフです。

 森がボロボロじゃありませんか」


叩いたのも女性。

こちらも仮面を付けてる。

獅子を象った仮面。


「それはあたしのせいじゃないぞ。

 あいつのせいだー」

「けしかけたのはアナタでしょう。

 大体、“鋼鉄蛞蝓”くらいは大目に見てましたけど。

 “金環形邪蟲”を何体も呼び出すなんて。

 明らかにやりすぎです」


「なんだよー。

 こっちだって困ってるんだ。

 この辺はあたしの領地でもあるんだ。

 あたしの魔獣を呼んだって文句言わせないぞ」

「アナタの領地は地下でしょう。

 ここは地上です。

 それにこの辺の地下まではまだ伸びていない筈ですよ」


「いやー、ついそこまでもう伸びてるもんね。

 そうじゃなきゃ“金環形邪蟲”だって呼び出せないよーだ」

「ウソつきなさい。

 まだ10KMは先でしょう。

 “金環形邪蟲”が地下の移動力が早いだけだわ。

 誤魔化そうたって、騙されないから」


えーと。

帰るか。

女性二人はケンカを始めてしまった。

女子のケンカに割って入るほど無駄な行為は無い。

ここは帰るのがいいカンジ。





「何だと、どういう事だ!」

「申し訳ありません!」


目の前の男が荒げた声を出す。

秘書官のアイリスは頭を下げるしかない。


「間違いなく、効果の有る本物だろうが。

 何故、金に換えられない」

「それが、その…」


ベオグレイドの街では魔法効果の有る武具は貴重だ。

革のマント魔法防御力上昇(小)や革の胸当て速度上昇(小)など。

売りさばけば1万Gにはなる。

いや、なっていた。


「魔法武具が大量に売られているだと」

「はい。効果も有り、革細工の出来も良い品物です」


通常では手に入らなかった筈の魔法効果の有る防具。

それをとある商店が常に在庫を持ち販売しているのだ。


「今までよりも値段も抑えています。

 出来も良いし、在庫も常にある状態。

 この状態が続けば、市場の値段はさらに下がると思います」

「チッ、どこからそんな。

 その商店とはどこだ?」


「ルメイ商会です」


男が顔をしかめる。

黒い軍服にゴテゴテした勲章を並べた男。

帝国軍の大佐、ムラードだ。


アイリスは上官の心中を理解する。

ムラードは貴族の出。

帝国軍でもツテを使い、大佐まで上り詰めている。

小さな商店ならば、手を回して圧力をかける事が出来た。

だが、ルメイ商会ではそうもいかない。

帝国でもトップクラスの商会。

大陸中に支店を持ち、貴族とも繋がりがある。

ムラードと言えど、下手な手出しは出来ない。


「魔法効果(小)ではなく(中)であれば、買い取るそうです」


今までアイリスが官給品の横流しをしていた商人はそう言っていた。


「(中)だと」


秘書官をムラード大佐は睨む。


「アイリス、キミがそれを手に入れて来るのか?」

「いえ、それは…」


無理だ。

魔法効果(小)ならば官給品の在庫を誤魔化すくらい難しくは無い。

軍事施設なのだ。

訓練で損耗した事にして補充申請すれば良い。

魔法効果(中)ともなるとそうはいかない。

本部でも誰が所有しているか記録が残る。

訓練で壊しました等と言ったら、始末書ものだ。

幾つも手に入れて横流しして金に換える。

そんな真似をしたらあっという間に足が着くだろう。


「出来ない事を言うな!」

「申し訳ありません」


アイリスは頭を下げる。

ただの八つ当たりだと分かっていても。

相手は直属の上官だ。

男は頭を下げただけでは収まらなかった。

ジロジロとアイリスを眺める。

胸元と腰に粘っこい視線が注がれる。


帝国軍の女性用制服は男性と同じ。

隙の無い黒の軍服。

胸元は上まで釦で締め、襟は整える。

下は余裕を持たせたパンツ。

剣や装備品を入れる実用。

ベルトにはフック、小型のポーチを幾つも付けられるようになっている。


ところがアイリスの制服はスカート。

ピッタリとした体のラインが分かってしまう品物。

胸元は空いており、締めることが出来ない。

一体どこにこんな制服があったのか。

秘書官に任命され、この制服を渡された時は泣きたくなった。

同じような恰好をしている女性を他の軍施設で見た事が無い。

この基地だけだ。

いや、ムラード大佐の近辺に勤める若い女性だけだ。

それでも制服なのだ。

着ない訳にはいかない。


「もっと前に分かっていた筈だなぁ。

 何故、早く報告しなかったのだ、アイリス」

「申し訳ありません」


大佐が不機嫌だったからだ。

ベオグレイドの駐留地に情報部の少佐が来て以来、ムラード大佐は不機嫌だ。

後ろ暗い事でも有るのか。

いや後ろ暗い事は大量に有る。

秘書官のアイリスは良く知っている。


相手はキルリグル少佐、ムラード大佐の方が上官に当たる。

しかし情報部の少佐なのだ。

情報部も帝国軍の一部ではある。

帝国軍の中にも組織体系と言う物がある。

陸軍、水軍がある。

さらに細かく言えば作戦部、管理部、特設部、装備研究部。

課まで上げるとキリが無い。

しかし、大雑把に言うと通常の軍部と情報部の二系統になる。

帝国軍は統合本部が有り通常の軍はその管理下におかれるのだ。

ところが情報部のみ統合本部下に無い。

別組織なのだ。

そのトップはハッキリとは明記されていない。

しかし誰でも分かっている。

シメオン皇帝だ。

軍の一部でありつつ、皇帝の直属組織なのだ

ムラード大佐の権勢もキルリグル少佐には通用しない。


「つまりだ。

 アイリス、キミは報告を怠ったのだ。

 任務を疎かにした。

 そういう事だな」

「…いえ、そんな事は…」


任務。

官給品の横流しが任務。

この男は何を言い出すのか。

アイリスはムラードが機嫌がいい時に伝えようと思っただけだ。

機嫌が悪い時伝えればどうなるか分からない。

そう、今のように。


「そうだな。

 自分は任務を疎かにしたと自分の口から言いたまえ」


アイリスは体が震える。

官給品の横流しは立派な犯罪だ。

何故私がこの男の私服を肥やすため犯罪を犯さなくてはいけない。

情報部に密告するか。

そんな衝動に駆られる。

ムラード大佐が軍規を冒している。

その様に事実をキルリグル少佐に伝える。


「どうしたぁ。

 声が聞こえんぞ」

「は、はい。

 私は報告を怠りました。

 自分の任務を疎かにしました」


出来はしない。

すでに幾つもの罪をアイリスは重ねている。

上官の指示とは言え、アイリスも有罪を免れない。


パンッ。

「キャッ」


アイリスは声を上げてしまった。

大佐が平手で打ったのだ。

アイリスのスカートに包まれた腰を。


「ククク。

 上官としての仕事だ。

 ミスを犯した部下への叱責。

 私も辛いがしなくてはならん事だ」


「もっと頭を低くせんか。

 打ちやすいよう尻を上げろ」

「大佐。あまりにも…」


「早くしろ、アイリス秘書官!」


アイリスは頭を下げて、腰を上げる。

なんと情けない恰好。

恥ずかしい。

大佐は後ろに回っている。

おそらくぎらつく目でアイリスのスカートを眺めているのだろう。


パンッ。

パンッ。

アイリスの尻が叩かれる。

アイリスは反応しない。

声も出さない。

こんな男に屈するものか

あっ。

大佐の手が腰を撫でる。

平手で打った手がアイリスの柔らかい臀部を這っている。


「大佐!」


キッと睨みつける。

叱責は受けよう。

体罰も仕方ない。

ここは軍なのだ。

多少の乱暴は目を潰られる、そんな場所だ。

だが男の情欲で体を弄り回される、そんな事に耐える理由は無い。

これ以上アイリスの身体を撫でまわすならば。

こちらにも考えがある。

そんな意思を視線に乗せる。


面の皮が厚いムラード大佐もさすがに察したらしい。


「フン、反省したまえ」


アイリスから手を離した。

通常なら秘書官の反抗くらい握りつぶせる。

今は同じ基地に情報部の少佐が居るのだ。

騒ぎは起せない。


「アイリス。

 その魔法防具の出どころを探り出せ。

 今度はしくじるなよ」



【次回予告】

ハチ美は弓を構える。落ち葉はスピードの有る物でも無い。そこまでの芸当とは思えない。手近な落ち葉に矢を向ける。しかし。緑から茶色に色を変えつつある木の葉。木の葉はヒラヒラと舞う。向かう先が予想できない。一直線には動かない。時にクルリと舞い、時に風に吹かれ舞い上がる。捉えられない。風が止む一瞬。落ち葉が動きを止める瞬間。ハチ美の手から矢が放たれる。

「ねえさん、力を入れすぎだ。あんなの顔に喰らったら顎の骨が折れちまう」

次回、タケゾウ冷や汗をかく。 

(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください)

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