第110話 金環形邪蟲その2

「おまえらー。

 許さないからな。

 来い、“金環形邪蟲”(メタルワーム)」


蛇お面女が言う。

と地面が盛り上がる。

ショウマ達の少し先、地面にヒビが入りそこから姿を現す。

何が。

細長い虫が。

金属のような鈍い銀と錆色。


「ミミズさんっ!?」


「ミミズは足元にいるヤツだろう。見上げるサイズのはミミズとは言わないと思うぞ」

「見上げるサイズです。ミミズではないです」


「ケロ子お姉さま。さん付けは要らないですよ。ミミズは益虫と言われてるです。それは畑の中で作物が育つ為の滋養分を増やしてくれるからなんですよ。あれはどう見ても、畑に良いとは思えません」


そう見上げなければいけないサイズのデカイ魔獣。


「ト〇マーズ?

 はたまたサン〇ワーム?」


ショウマはパニック映画を思い出す。

パニックものなのにコメディ色が強い謎のシリーズだ。

サン〇ワームの方は小説。

どのくらいのサイズだったっけ。

もっとバカデカイんだったかな。

宇宙船を呑み込んだりするのだ。

目の前にいるのはそこまでデカくない。

デ〇ーン砂の惑星。


「外見はサン〇ワーム風。

 サイズはト〇マーズくらいかな」


ショウマは分からないと思ってテキトーなコトを言う。


円形の胴体が長く続き、先端部には頭部らしきモノは無い。

黒く汚れた金属風のミミズ。

人間の背丈を大きく越えるサイズ。

少なく見積もっても10Mはあるだろう。

それでも全身は現していないのだ。

地面に隠れた部分がどれだけ有るのか。

予想もつかない。


割と従魔少女達は冷静。

昔、“巨大猛毒蟇蛙”と出くわした時には慌てふためいていたのに。

みんな成長したんだな。

ショウマは我が子の成長を見守る気分。

うん、うんとうなずく。


「おまえらー、ちょっとは慌てろ。

 『鋼鉄の魔窟』でも強い子、“金環形邪蟲”なんだぞー」



『毒の矢』


えいっとハチ美がスキルを使う。

特殊攻撃の矢。


キシャァ!シャシャシャシャァァァァー。

金属が擦れ合うような音。

矢を喰らったデカイミミズはジタバタしてる。

毒状態になったのか。


長い身体を大地に打ちつける。

地面が揺れる。

近くに有った木が折れて破片がこちらに飛んで来る。


「うわっ、迷惑。

 『頭上注意』とか『立入禁止』の看板くらい出してよね」


ショウマの頭の上に飛んでくる木の破片。

「えいっ」

ケロ子が蹴り飛ばす。


「ショウマさまを狙ったな!」


ケロ子が背中から殺気を漂わせる。

普段のケロ子じゃない。

条件を満たさないと手に入らない特殊キャラ。

モリノナカイカリノチニクルフケロコだ。

あの命名センスはいまだにときめくモノがあるよね。


“金環形邪蟲”の頭部が割れる。

胴体の先端部が四つに割れ、唾液のような液体をまき散らす。

内部は赤黒いすりこぎ状。

呑み込まれたら、あっという間に砕かれて消化されそう。



『身体強化』



『聖槍召喚』



従魔少女達がスキルを使う。


「みみっくちゃん、『ツタ縛り』効かないかな」


だってデッカイミミズの口から液体が飛んでくる。

ヨダレだ。

ヨダレが着いた地面はシュゥーと音を立てて溶けてる。

酸が含まれているのだ。

武装していても危険である。

それにヨダレだよ。

ばっちいじゃん。


「いくらなんでもデカすぎる相手な気がしますが、とりあえずやってみますですよ」


『ツタ縛り』


みみっくちゃんの木魔法は魔獣を縛り付けて動けなくさせる効果がある。

バカデカイ魔獣にツタが巻き着くけど。

キシャシャシャシャァァァ。

“金環形邪蟲”が音を立てて暴れる。

ツタは消えていく。



「聖槍の一撃を喰らえっ!」


ハチ子が槍を投げつける。


“金環形邪蟲”はノーダメージじゃない。

少し傷が着き、黒い体液を身体から流してる。

体液がこぼれた地面もシューシュー音を立ててる。

血も酸なのか。


キシャァ!シャシャシャシャァァァァー。

“金環形邪蟲”が暴れる。

石の塊が幾つも飛んでくる。

人の頭くらいは有りそうなデカイヤツ。

“金環形邪蟲”の攻撃。

ショウマは慌てて避ける。

「せいっ」

ケロ子はキックで蹴り飛ばす。

みみっくちゃんは『丸呑み』。

いつの間にか防御にも使えるんか。

ハチ子は槍で迎撃。

ハチ美は余裕で避けてる。


けっこう恐い攻撃だ。

直径50CMくらい有りそうな石の塊。

ショウマが喰らったら一撃でお陀仏しそう。


「ふはははははー。

 どうだ、まいったかー」


蛇お面女は高笑い。

いや、別にキミは何もしてないじゃん。


しょうがないなー。

ここは僕がやる場面なのか。

『賢者の杖』を握りしめるショウマ。


異能の魔術師は唱える。

現在の冒険者、魔術師と呼ばれる人々には使えない魔法。

手が届かない奥義。

水属性魔法の最高峰。


 

『絶対零度』



世界から音が無くなる。

“金環形邪蟲”の立てる耳障りな金属音。

辺りの枝が折れる音。

地面が酸で溶ける音。

大地が割れる音。

全ての音が消える。

世界は一面の氷。



「なにっ?

 “金環形邪蟲”ちゃんが!」


“金環形邪蟲”は凍り付いていた。

さすがバカデカイ魔獣。

一撃で消えてはいかない。


「また、ご主人様はランク5の魔法をポンポン使う。

 そう簡単に使えるもんじゃないって事をいつになったら分かってくれるんですか」

「だって、

 ヨダレいやじゃん」


それにみみっくちゃんはランク5すげーって言うけど。

一撃じゃ倒せない魔獣も多い。

“金環形邪蟲”だって凍ってるだけ。

まだ退治できていないのだ

本当にそんなに凄いのかな。


「それはこの魔獣も普通じゃないんです。この“金環形邪蟲”も。

 地下迷宮で倒した“巨大猛毒蟇蛙”も普通の敵じゃないです。

 『野獣の森』の入り口近辺で出くわすヤツじゃないんですよ」



「“金環形邪蟲”ちゃん、“金環形邪蟲”ちゃん」

蛇お面女は涙目。

大きいミミズに縋り付いてる。

凍ってるのに冷たく無いの。


もう放っておこうかな。

ショウマの目的は“鋼鉄蛞蝓”。

経験値マシマシ。

“金環形邪蟲”は凍り付いて動けない。

無視して“鋼鉄蛞蝓”探した方が良くない。

蟲をムシする。

みたいな。



「許さない、許さない、許さないー」


蛇お面女は行かせてくれなかった。


「“金環形邪蟲”ちゃん、

 “金環形邪蟲”ちゃんー」


大地を割って現れる。

巨大な蚯蚓。

“金環形邪蟲”の群れ。

大地を酸で溶かし、地形さえ変えてしまうと言う。

そんな災いの魔獣が複数現れる。



キシャァシャシャシャシャァァァァー。

キシャキキッキキャーキシャァァァ。

魔獣の身体が擦れ合う金属音が鳴り響く。

酸の唾液が振り撒かれる。

森の木々が崩れていく。

草花が溶かされる。

『野獣の森』の魔獣、“火鼠”“一角兎”“鎌鼬”も逃げていく。



ケロ子は身構える。

飛んでくる木の破片。

ハイキックで蹴り飛ばす。

ショウマ様を守らないとっ。


“金環形邪蟲”から石が飛んでくる。

ショウマさまっ!

石は多数。

全てはケロ子じゃ対応しきれないっ。


『丸呑み』


少女達に向かって来た石が幾つも姿を消す。


「ご主人様の防御はみみっくちゃんがやります。

 ケロ子お姉さまはむしろ攻撃を」


ケロ子はジャンプ。

手近な“金環形邪蟲”を蹴りつける。

すでに『身体強化』を使っている。

少女より遥かに大きい魔獣が蹴りの衝撃に飛ばされる。


「よし、聖槍!」

ハチ子が槍を投げつける。

槍は巨大な魔獣に刺さったかと思うと。

従魔少女の手に又現れる。


ハチ美は弓矢を構える。

狙った先は“金環形邪蟲”ではない。


「そこの女性、お面を付けた人!

 魔獣を下がらせなさい」


“金環形邪蟲”を呼び寄せたのはこの女性。

ならば下がらせる事も出来る筈。


うん。

ハチ美、間違ってはいない。

着眼点は良い。

頭のいい行動だと思う。

だけれども。

人間…亜人かな。

とにかく人間風の女性を凶器で狙うのはナシ方向で。


ショウマは手を振る。

手のひらを広げて後ろへ。

みんな避けてて、大きいのいくよ。

そういうポーズ。


もちろんみんな理解した。



『絶ー対ー零ー度』



魔法には魔力を込めた使い方が出来る。

『炎の玉』を通常より時間をかけ魔力を込めて唱える。

すると火は大きくなり攻撃力も上がるのだ。

ならばランク5の水属性魔法だって同じ事。


ショウマの感覚では通常の『絶対零度』の3回分。

そのくらいの魔力を込めてみる。

もちろん魔力計測機とか無いし。

正確に測った訳じゃないけど。

おおよそそんなカンジ。


“金環形邪蟲”が凍り付く。

草花が凍り付く。

木々が凍り付く。

大地が凍り付く。

全てが凍り付く。

世界から音が消えていく。


いや、音は消えなかった。

割れるような音が鳴りやまない。

氷が出来ていく。

氷の中からまた氷が生まれる。

生まれたばかりの氷が割れ、中からさらに大きな氷が出来ていく。

大地を覆った氷から氷の柱が立ち昇る。

氷の柱から氷の枝が生えてくる。

凍った“金環形邪蟲”の氷像からも氷の枝が咲き誇る。

氷の柱が割れそこからさらに氷の柱が生まれ、生まれた氷の柱からさらなる氷の枝が咲く。

世界が氷に包まれる。



「…ご主人様~、何したですか?何したですか、何したですか~。いや、言わなくていいです。みみっくちゃん分かってます。ランク5の魔法ですね。ランク5の魔法をさらに魔力込めたですね。あり得ないですよ。聞いた事ないですよ。だからバグキャラって言われるですよ。おかしいですよ。異常ですよ。特殊ですよ。普通じゃないですよ。自分が通常ではない事をそろそろ理解してくださいですよ~」


「ショウマさまっ、やりましたっ。

 さすがですっ」


「さ、さすが王だな、うん。さすがだ。

 さすがしか言葉が出てこない」

「さすが王です。さすがとしか言いようがありません」


目の前には氷の世界が広がってるのだ。

南極の流氷のよう。

氷の塊を割って中からまた氷が生まれてくる。


ハチ子ハチ美は賞賛してるけど、声が引きつってる。

ケロ子だけは満面の笑みだ。


「ケロ子お姉さま。この人に慣れちゃダメです。常識がおかしくなります。変な人の仲間入りです。異常なモノは異常だとちゃんと認識しましょうですよ」

「えーっ。

 ショウマ様だものっ。

 このくらい当然だよっ」


そうだよね、ケロ子。

僕フツーだよね。

平均くらい。

平均点もちょっとイヤかな。

平均点を少し上回るくらい。

そんなちょうど良いトコだよね。


いや、そんなワケねーだろ。



【次回予告】

サン〇ワーム。

みみっくちゃんによる解説~。

SF小説デ〇ーンシリーズに全編通して出てくる巨大生物ですよー。小説第一作目のタイトルが砂の惑星。一作目は1960年代に書かれたです。そう考えると恐ろしく年期の入った作品ですね。80年代に映画化されたので知ってる人も多いでしょう。世界観デザインや衣装小物なんかは良かったと思うのですが、いかんせん話が詰め込みすぎで不評でした。びっくりする事に再映像化されて今年日本でも公開されるそうですよー。タイムリーなネタになっちゃったですよ

「ああーん、あーん。あああああーん」

次回、ショウマ慌てる。 

(ボイスイメージ:斎藤千和(神)でお読みください)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る