第74話 ベオグレイドへその2

「分かった。

 考えるから少し待って」


亜人の村の少年ユキトに頼まれたのだ。

彼の妹イチゴちゃんと母親ナデシコさんは石化の呪いを受けてる。

神聖魔法を使ってくれないか、と。

どうしたものかな。

何も考えず、バンバン回復させちゃうのが良くない?

治せるのかどうか良く分からないけど。

そのテストにもなる。

ランク5使ってみるとか。



「そうですね、ご主人様。みみっくちゃんも気にしてはいたんです」 


ユキトの家に行って、みみっくちゃんを呼び出す。

海魔法を使ったらマズイと主張してるのはみみっくちゃんなのだ。

みみっくちゃんによるとユキトの母親は大分マズイらしい。

身体の半分以上石になってる。

もう寝た切りでほとんど動かない。

まともに話す事も出来ない。

目線や手振りでイチゴと意思疎通しているのだ。


「イチゴちゃんの方は足が動かないくらいですね。他は背中の一部が石化してますよ」

「ええっ、そんなコトに。

 ほっておくのはさすがにどうなんだろう。

 美少女は国の宝だよ、みたいな」


イチゴちゃんには魔法効果のある防具の作成頼んでいる。

聖者サマのお役に立てるなら。

顔を赤らめてそう言っていた童女。


「ご主人様。やっぱり小っちゃい女の子も守備範囲だったですね。ならみみっくちゃんもストライクゾーンのハズです。 みみっくちゃんへの雑な扱いが納得いかないですよ。

それとも実は寝てるお母さん狙いですか。人妻、子持ちの奥さま趣味ですか。さすがご主人様。目の付け所が違うです。病気で寝込んでる人妻をいいからワシにまかしとけばいいんじゃーとか言いながら襲うですか」


いや、そういうオフザケしてる場面じゃないと思うんだ。


「まさか、ご主人様に空気読めてない注意をされるとは。みみっくちゃんショックです。これはかつてないショックですね。人として間違ってる人にお前の方がより間違ってると言われたのですよ」


「とまあ、ジョークを交えて場を和ませるのはこれ位にしましょう」


「ご主人様が既に『治癒の滝』を使ってしまったのは初耳ですが、使ってしまった物は仕方ありません。

 でも分かってると思いますが、回復魔法バンバン使うのはダメですよ。今だって村の中ではご主人様を聖者サマ扱いで大騒ぎです。さらに話が大きくなります。

 亜人の村でのコトだからあまり広まらないと思うのは甘いです。時々商人が村に来てると言いますから、その商人づてでウワサは広まります。それにエリカ達もいます。彼女たちの前で使えばキューピーさんにも伝わりますですよ」


確かに話は分かる。

ショウマだって話が大きくなるのは好きじゃないのだ。

ショウマ教の教祖にはなりたくないのだ。

しかし。

イチゴやその母親を見殺しにするのか。

そう言われると。

うん、見殺しにする。

と平気な顔で応えられる根性は無いのである。


「ご主人様、ご主人様はいずれ村を出ます。コノハの依頼を終えたら、村を出て魔道具手に入れに行くんですよね。

 ならその最後の時にしましょう。私達がいなくなれば、だんだん話は小さくなります。商人が聞いても、本人がいなければ造り話で終わります。ユキトに口止めしておけば、後は徐々に忘れられていくでしょう」


「うーん。

 後は野となれ、山となれ みたいな。

 まぁ、僕に注目が集まらなきゃいーか」




さて翌日。

今日はベオグレイドに行くコトになっている。

帝国の街。

ハチ子とハチ美の装備強化。

薬も買わなきゃダメかな。

嗜好品も欲しいのだ。

お茶やらお菓子やら。

食料には困らないと言いつつ、村には嗜好品までは無い。


というコトはハチ子、ハチ美は連れていく。

帝国では亜人は扱いが悪いらしい。

みみっくちゃんは行かない方がいい。

背中に木の箱が生えてる。

一見でモロバレだ。

そうするとお金は僕が持たなきゃダメかな。

ケロ子も厳しいかも。

ハチ子、ハチ美は羽根さえ出さなきゃ分からない。

でもケロ子は手に水カキのような薄い膜が有る。

良く見たら誰にでも分かる。


ベオグレイドに詳しい人も一人は欲しい。

エリカ、ミチザネ、コザルの誰か。


「エリカは行くわよ」


エリカは鉄の胸当てを“双頭熊”に壊されてる。

別の鎧が自宅に有る。

それを取りに行く。

壊れた胸当ても修理に出したい。


「ミチザネも行くとしましょう」


ミチザネは商会の身分証明、貴族の案内状を持ってる。

ベオグレイドの門番も証書を見せればうるさくは言わない。


「キューピー会長のツテで大物貴族の証書を預かっています。

 普通なら細かくチェックされるところですが、

 我らは担ぎ袋くらいならフリーで入れますぞ」


あまりにも大荷物を持ってたら咎められる。

台車に箱乗せて通ろうとかしたら止められる。

しかし手提げ袋に入れて持ち歩く程度なら検査もされない。

税金も取られない。

そうミチザネは言う。


「それって僕らも一緒に通れない?」

「無理ですな。

 身分証明には似顔絵まで載ってます。

 エリカ様、ミチザネ、コザルの3人です」

  

「冒険者証は役に立たない?」

「冒険者証があれば、武器を持ち込む事が許されます。

 しかし入都市税は取られます」


迷宮都市は入都市税無料になるのに。

あそこは冒険者のため造られた街だった。

ベオグレイドは帝国の街なのだ。

帝国の領民以外は税金が取られる。


しょうがない。

素直に税金払えばいいんでしょ。

  

「世の中どうなってるの。

 税金が高くなると、経済に悪影響が有るって言うのにさ」



「ショウマさまっ。

 ケロ子、棒が欲しいですっ」


棒?


「はいっ。

 木の上にいる魔獣を倒すのに。

 ハチ子ちゃんの槍便利ですっ」


ハチ子が槍で木の上にいる敵を倒すのを見ていて欲しくなったらしい。

刃物は苦手らしいが、棒なら良さそうと言う。


棒、棒か~。

棍棒?

警備員さんが持ってるような警棒。

鬼の金棒。

棒の先に出っ張りが幾つも付いた凶悪そうな外見のヤツ。

アレは破壊力が有りそうだ。


「ははあ、みみっくちゃん分かりましたよ。棒術ってヤツです。武道家は基本武器を持たない職業ですが、棒術だけは使えるって話ですよ」


棒術。

それでなんとなくショウマにもイメージできた。

ジャッ〇ーチェンが使ってたようなヤツだ。

頭の上でクルクル早回ししたり、突き出して攻撃する。

細くて身長より少し長いくらいの木の棒。

少林寺とか中国拳法の動画で棒を操ってるの見た覚えがある。

確かにアレなら武道家が使ってても不自然じゃない。


そういえば国民的マンガの主役も使ってた気がする。

D〇AGON BALL

アレは子供の時しか使ってなかったような…。

どこへ行ってしまったんだろう。

孫〇空の如意棒。


「オッケー。

 売ってたら買ってくるよ」

「ありがとうございますっ」


ベオグレイドに向かう一行。

ショウマ、ハチ子、ハチ美、エリカ、ミチザネ。

亜人の村からベオグレイドまではけっこうかかる。

早めに出発した。



「ケロ子、みみっくちゃんは今日はお休み。

 交替で休み取って行こうよ」


ケロ子はお休みだ。

ショウマさまにそう言われてしまった。

『野獣の森』の入り口くらいなら、行っちゃダメかなっ。

ケロ子もLVアップしたい。

そう思ってたのだけど、ショウマさまの指示だ。


みみっくちゃんは村を散歩するみたい。

一緒に行こう。


「ケロコ姉、おはよう」

「おお、ケロコちゃん。

 今日も元気だね」


「おはようございますっ」


既に村に数日いる。

ケロ子は村の人間と顔馴染みになってる。

村の人は老人と子供がほとんど。

蜥蜴みたいな人もいれば、背中に鳥の翼が生えた人もいる。

翼が有る人に少し憧れるケロ子だ。

白い翼キレイでいいな。


「ミミックチャンサマ。おはようございます」

「ミミックチャンサマ。

 ご機嫌麗しゅうお過ごしでございますか」


ケロ子には気やすく笑顔を向ける村の人達。

みみっくちゃんにはいつの間にか丁寧語を使ってる?

 

「うむ。みみっくちゃん苦しゅうないですよ」


「畑の調子はどうですか?」


「はい。ミミックチャンサマのお言葉通り、

 果汁を撒いたら、虫がまったく寄りつかなくなりました」

「ウチの果物の木もお陰様で…」


いつの間にか相談役として知られてたみたい。


「ケロ子お姉さま。棒が欲しいと言ってましたよね。キチンとした武器用のモノはご主人様を待つとして、即席の物なら手に入りますですよ」


みみっくちゃんが案内してくれる。

村の中でも広めの建物。

木材がたくさん積まれてる。

お家じゃなくて倉庫なのかなっ。


「アラカワー。みみっくちゃんが来たですよ。歓迎するですよ。お茶とお菓子出すですよ」

「このガキ。人の家に来て、なんでいきなりそんなに偉そうなんだ!

 茶とか菓子とかそんな上等なモン有るワケねーだろ」


「あらあら、ミミックチャン。今日も可愛いね。

 待ってて、すぐお茶入れるわ」

「ありがとですよー、奥さん。奥さんこそ今日もステキですよー」


出てきたのは男の人と女の人。

夫婦みたい。

男の人はクマさん?

黄色い毛、つぶらな瞳の亜人さん。

しゃべり口調は男っぽい。

だけど外見はぬいぐるみみたい。

ギャップがカワイらしいのだ。

女の人は羽根が生えてる。

ハチ子、ハチ美ちゃんのような透明なタイプじゃない。

鳥のような羽根。


「ケロ子お姉さま、紹介するですよ。

 アラカワと奥さんですよ。

 アラカワはこの村の大工ですよ」

「ケロ子ですっ。

 よろしくお願いしますっ」


「あらあらケロコちゃん。

 ケロコちゃんも可愛いわね。

 よろしくね」 

「アアッ。

 オレは忙しいからな。

 相手は出来ないぜ」


「みみっくちゃんのお姉さまですよ。粗略に扱うのは許さないですよー」

「だからお前はなんで偉そうなんだ!」


そこに奥さんがお茶を入れて持ってきてくれる。

ケロ子の分も。


「はいどうぞ、お茶よ。

 お菓子はアタシのお手製」


御菓子はゼリーかな。

果物を幾つか入れて透明なゼリーで固めてる。

彩りもキレイで美味しそうっ。

ケロ子も今度作ってみようっ。


「オマエ…、お茶なんてどこで手に入れて来たんだ?」


アラカワさんはキョトンとしてる。


「みみっくちゃんがこないだ奥さんに贈ったですよー」


「ねー」

「ねー」


みみっくちゃんと奥さんはいつの間にか仲良しみたい。


「んで、ガキ。

 今日はなんの用だ?」


「言っとくけどオレは忙しいんだ。

 この前“暴れ猪”に壊された見張り台も直さなきゃならん。

 家も幾つか被害受けてる。

 順番待ち状態なんだ」


「アラカワ、手ごろな棒が欲しいですよー」

「棒?

 木材ならそこらに幾らでもあるだろ。

 テキトーなの持ってけ」


「角材じゃなくて、持っても手が傷つかない。丸棒に加工してあるヤツが欲しいです」

「丸棒か、有ったかな」


「洗濯物干すように作った棒なら幾つか有るんじゃない」


奥さんが幾つか持ってきてくれる。

ケロ子の身長と似たような、手に合うのを一本貰う。


「ありがとうございますっ」


そういえばこの前、着替えを干すようのハンガーみたいなのをみみっくちゃんが何処かから持ってきた。

ユキトくんの家には机も一つしかなかった。

みんなでご飯食べるには足りない。

そしたらみみっくちゃんが折りたたみできる台を持ってきたのだ。

あれってここから貰ったんだ。


「それでいいな。

 んじゃ帰れ。

 オレはこれから大工仕事だ」


「アラカワー、意見を聞かせるですよ。みみっくちゃん考えたですよ。

 この村は水場が遠いです。湖か裏山の湧水から子供たちが水を汲んできてます。

 湖から村の中へ川を通しちゃうですよ。単純に水を引き込んで貯めるとすぐ水は腐ります。水を村の中に引き入れて、そこからまた湖に戻す流れを作るですよ。 そうすると生活用水だけじゃないです。田んぼや農業に使う水も賄えるです」


「簡単に言うんじゃねえ!

 オマエそれ何人がかりの工事だと思ってんだ。

 オレ一人じゃ何年かけたって出来ねえよ!」


「大丈夫。みみっくちゃんがキバちゃんに言ってあげるですよ。

 戦士達を何人か借りれば人手はなんとかなるですよー」


「キバちゃんてオマエ、

 キバトラさんのコト言ってんのか?

 リーダーを気安く友達みたく言ってんじゃねえ」


なんかスゴイっ。

みみっくちゃん物知りだとは思ってたけどっ。

それ以上みたいっ。

みみっくちゃんも成長してるんだっ。

ケロ子も成長しないとっ。



【次回予告】

ミチザネがランク2の魔法が使えるまで長い時間がかかった。ランク2は範囲魔法。ランク1と攻撃力は同等。しかし、同時に現れる魔獣を一気に殲滅できるのだ。

『吹きすさぶ風』

初めて実戦で使った時の万能感を今でも覚えている。無数の“火鼠”が一瞬で切り裂かれていく。自分の力によって。

「お止めください。街の中には軍の駐留所が有ります。ここは国境の街です。

 軍も常に大隊クラスの人数が居るはず」

次回、ミチザネは戦慄する。 

(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください)

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