第73話 ベオグレイドへその1

さて改めてハチ子だ。

何とハチ子は職業:聖戦士になったのだ。

スキルは聖槍召喚。

試したい、試したい。



名前:ハチ子

種族:亜人/従魔


冒険者LV:10


体力:242

魔力:105


攻撃力:183

魔法攻撃力:42

防御力:123

魔法防御力:179

行動速度:137


職業

 槍戦士 ランク2

 聖戦士・槍(固有)


スキル

 特殊攻撃

  必殺の一撃 ランク2

  足払い ランク1  

  聖槍召喚 ランク1

  

 種族特性

  飛翔   

  超感覚(小) 





 聖戦士・槍(固有)

どう見てもスゴそう。

簡単に職業に付けて良いのか

いいのだ。

簡単な方がいいに決まってる。

名前だけキテるけど大したコトなかったらどうしよう。

そこが気になるトコロ。

ハチ子はウズウズしてるのだ。


「じゃあ試してみよう」

「はい。ショウマ王」


冒険者組合から出たショウマ達。

ハチ子が前に進み出る。

他のみんなには少し離れてもらう。

キリっとした表情。

金髪に整った眉。

ハチ子はマジメな表情になるとカッコイイのだ。

背の高さも有ってカッコイイという言葉が似合う女戦士。

これで中身が残念じゃなければ。



『聖槍召喚』



ポーズを決めてハチ子が叫ぶ。

右手を天に広げて何か掴むようなポーズ。

ハチ子なりのイメージらしい。

これで何も起きなかったら悲惨だな。


どうやらショウマの杞憂だったらしい。

ハチ子の手には光輝くエフェクト。

光が収まると槍が見えてくる。

スピア。

ハチ子の身長より少し長い。

2M前後。

刃の部分は広く両刃。

白銀に煌めいている。

柄の部分は握りとして紐のような物がグルグルと巻かれている。



「おおーっ、これぞ聖槍」


ハチ子は感激して槍を振り始めている。

横凪ぎに振り、引き戻し突きを繰り出す。

ただの素振りから徐々に仮想敵と戦うような動きへと。

シャドーボクシングならぬシャドースピアだな。

以前の木製の槍より重そうな槍。

刃物の部分から柄までおそらく同一の金属製。

木製の棒に金属の刃先を取り付けたモノよりは頑丈そうだ。

しかし同時に重量も有るだろう。

ハチ子の動きを見る限りなんの支障も無いようだ。

女戦士は軽やかに槍を振り回している。


そうだ。

『鑑定』。

商人のミチザネは『鑑定』が使える。

この槍のコト調べてみようか。


「ハチ子、ハチ子。

 ちょっと槍貸して」

「はい、ショウマ王ならば」


ハチ子は少し惜しそうな顔をしたが、ショウマには逆らわない。

ハチ子から槍が手渡される瞬間。

ショウマの手にビリッと走った。

電流!?

槍を取り落としてしまうショウマ。


「ショウマ王~。

 大事にしてくださいよ」

「イヤ、

 今電流が」


ケロ子が取り落とした槍を拾ってくれる。


「アイタッ」


しゃがんで槍を手に取った途端、ケロ子もそれを放り投げる。


「ケロ子殿まで」


何すんだ。

何すんだ。

私の大事な聖槍に。

といった表情で槍を拾うハチ子。

大事そうに抱えてる。


これはもしかしてアレか。

所有者以外持てないっていうアレ。


他の人も試してみたがやはり持つと痛みが走った。

ハチ子が持つには何ともない。

ハチ美でもダメだった。

所有者以外持てない。

なかなかファンタジーした槍。


聖槍召喚はスキル。

ランク1。

ランク上がるとどうなるんだろう。


「なによそれ、

 カッコいいじゃない。

 いいわー」


騒いでるのはエリカだ。

今日は『野獣の森』探索に加わっていない。

森から村の周辺を見回っていたらしい。

ショウマ達が集まってるのを見て加わって来た。


エリカの反応にハチ子は気を良くしている。

今は槍を投擲している。

近くの木に向かって投げ槍である。

ズバンッ!

槍が木に刺さる。


へー。

ハチ子が槍を投げるところは見たコト無いや。

でも槍を投げたら武器が無くなる。

トドメを刺すとき以外使えないね。


「ショウマ王、何か出来そうな気がするのです」


「戻れ槍よ!」


おおっ。

離れた木の幹に突き刺さってた槍がハチ子の手に戻ってる。


ハチ子はまた投げて槍を呼び戻すのを繰り返す。

木の幹から飛んでくるのじゃない。

幹に刺さっていた槍が一瞬後、ハチ子の手に現れるのだ。

キタ!キタキタ!ファンタジーキター!

瞬間移動?

テレポーテーション?

アポーツ?

この際いいや。

アリだ。

アリアリ。

槍が戻ってくるコトより物体が瞬間的に移動してる現象自体がスゴクね。

とかそんな理屈もパス。

魔獣を倒したらコインがドロップする世界なのだ。

戦いに使えて、従魔少女がカッコ良いなら文句なし。

興奮するショウマに得意げなハチ子。


だけど、ハチ子がフラフラしてる?


「ハチ子ちゃんっ。

 大丈夫?」


フラつくハチ子をケロ子が支える。


「姉様、どうしたのです?

 体が頑丈なだけが取り柄なのに」


ハチ美が密かに毒を吐いてる。

ハチ子だけ目立ってるのが悔しかったのか。


「魔力切れを起こしてるのかもですよ。聖槍召喚もスキルです。魔力を使うはずですし今やってた槍を呼び戻す技、アレも地味に魔力を使いそうですよ」


みみっくちゃんが言う。

そういうコトか。

どう見てもマトモな物理現象じゃないしそのくらいの代償は無きゃウソだ。

じゃああの槍を投げ、引き戻すのは使い放題とはいかない。

でもハチ子がパワーアップしたのは確かだ。


ちなみに聖槍は1時間くらいで消えていった。

時間切れだろうか。

ハチ子はもう一回召喚してみたがったが魔力が足りない。

『聖槍召喚』と叫ぶコト自体出来ないらしい。


聖戦士・槍についてはだいたい分かった。

まだショウマにはやる事が有るのだ。


次、ユキトの家だ。

マントやら革鎧を端からチェックするのだ。


「『鑑定』だって無限に使えるワケでは無いんですぞ」


文句を言うミチザネに倒れるまで『鑑定』を使わせる。


「革鎧はアタシじゃなくて母さんが作ったんだよ」


ユキトの妹イチゴちゃんとその母親ナデシコ。

二人は革細工が得意らしい。

獣の革は『野獣の森』で多数手に入る。

村人から預かってそこから毛布や敷物を作る。

戦士に頼まれて革の防具を作ったりもする。


革鎧は形状が複雑だ。

袖から肩の作り、胸から胴へもカーブを描くのだ。

簡単には作れない。

着る人間のサイズにも合わせなくてはいけない。

それに比べれば、マントや敷物は単純な造り。

イチゴちゃんでもマントくらいは作れるらしい。

鎧となるとナデシコさんじゃないと無理。

簡単な破れ目を補修するくらいならイチゴちゃんでもイケル。


家には修理を頼まれた防具やら、作ったマントが多数転がっていた。

その借りて来たマントに魔法防御力上昇(小)が混じってたのだ。


ミチザネはすでに倒れてる。


「ムリです。これ以上は本当に気絶します。

 これ以上は魔法もスキルも使えません」


息も絶え絶えといった風情。

ギリギリまで『鑑定』を使わせたのだ。


ハジから調べてだいたい分かって来た。

『火鼠の革』だけ使って作ってあるマント。

これは魔法防御力上昇(小)が付く。

他の革を混ぜちゃダメ。


同じく『猩々の革』だけで作った物。

速度上昇(小)の効果が有る。

『双頭熊の革』は攻撃力上昇(小)。


どれも他の革が混ざってはダメ。

細工の出来にも左右されるらしい。

『火鼠の革』だけで作ってもイチゴちゃんが幼いころ作ったという失敗作は効果が無かった。


「この効果が有るって防具は全部、

 『土蜘蛛の糸』で縫い合わせた物かもしれないです」


イチゴちゃんが言う。

大勢が自分の作った革細工に注目してるのでちょっと照れた風情。

顔が赤らんでる。


なかなかカワイイ子だ。

ユキトもイケてる顔だし、母親のナデシコさんもキレイな顔立ち。

遺伝してるな。


とりあえず、持ってるドロップ品『火鼠の革』『双頭熊の革』をありったけ渡す。

『土蜘蛛の糸』もだ。

防具ドンドン作ってくれない、というワケだ。


「はい。

 聖者サマのお役に立てるなら」


と言ってもそう簡単じゃなさそうだ。

『火鼠の革』は小さい。

元が小さい魔獣だしな。

マントを作るのに20枚くらいは必要。


それにマントばかり有ってもな。

鎧は形状が複雑でイチゴちゃんが作るには難しい。

作る事が出来るナデシコさんは体調が悪くて寝込んでいる。

腕カバー、脚カバーくらいならどうだろう。

夏に女子が着けてる日焼け防止の肘から手まで覆うようなヤツ。

腕を通して丸く縫い合わせればいいだけ。

アレならそんなに難しく無さそう。

鎧下に使えばいいのだ。


イチゴちゃんはトライしてくれると言う。

オッケー。

頼んだよ。



「兄ちゃん。神聖魔法のコト聞いていいか?」


ユキトのセリフだ。

ショウマ達はコノハの家に帰ってる。


「なに? どんなコト?

 内容によるなぁ、みたいな」


秘密の多いショウマは少しビクついてる。


「前、オレを治してくれただろう。

 初めてあった時。

 あの時、今使ってるのと違う魔法を使った気がするんだ」


あいたっ。

そうだ。

ユキトには『治癒の滝』を使ってしまった。

ユキトは足の骨を折ってた。

見ているだけで痛そうだった。

思わず効きそうな魔法を使ってしまったのだ。


ショウマは今日も村で回復魔法を使ってる。

使ってるのは『休息の泉』まで。

海属性魔法のランク2。

『治癒の滝』がおそらくランク3。


実は今日も魔獣が溢れてる。

入り口にケロ子たちが居たので、ほとんどは彼女たちが倒してる。

ケロ子、みみっくちゃん、エリカ、ミチザネ。

それなりの実力者揃い。

でも数が多いと小さい魔獣は逃げていく。

“火鼠”なんかが5匹以上出てくると一匹くらい村まで行ってしまう。

逃げればいいのに村の人は立ち向かっていく。

ケガ人はそう簡単にはいなくならない。


ショウマも人前で注目されるのに少しは慣れた。

フードで顔も隠してるしね。


「聖者サマ、ありがとうございます!」

「おおっ。

 あの方が聖者サマか。

 ありがたや、ありがたや」


でも村の人は慣れるどころか日に日に持ち上げてくるのだ。

すでに拝んでくるような人までいる。

なんだ、コレ。

ショウマ教とか出来ちゃうんじゃないだろうか。

宗教関係、関わりたくないのに。


コノハさんやみみっくちゃんが人々を整理してくれた。


「聖者サマはお疲れなんです。

 ムリさせないであげてください」

「はい、はい。そこの人近寄り過ぎですよ。YESロリータ、NOタッチでお願いしますですよ」


コノハさんまで既に聖者サマ呼ばわり。

みみっくちゃんは何かカンチガイしてるよ。


キバトラや戦士達も来ていた。

どうもキバトラはリーダーなのに戦士達の先陣を切って戦うらしい。

ケガも多い。


「今日もすまねえな。

 助かるぜ」


慣れてくると悪役顔も怖くなくなってくる。


回復が終わって、男子組女子組分かれて家で休んでいるのだ。


「兄ちゃんがあの時使った魔法。

 『治癒の滝』とか言ったヤツ。

 イチゴや母さんに使ってくれないか」


そうだ。

ユキトの妹と母親は石化しかけてるのだ。


「魔力に限界が有るんだろ。

 どういう時なら使えるんだ?

 オレ、ちゃんと礼はするよ。

 何すればいい?

 何でもする」


うわー。

美少年の何でもするキター。

いや、違うのだ。

ショウマはオトコノコに興味は無いのだ。

ユキトが美少年だろうが、関係ない。

ホントウだ。

男には一切興味ないのだ。

男には一切興味ないのだ。

大事な事なので二度言いました。


「分かった。

 考えるから少し待って」



【次回予告】

棒。

細長い円柱など柱形の道具や部品の総称である。棒を用いて闘う武術を棒術と言う。

棒術と言う呼び方は日本武術における呼称であるらしい。中国武術では棍術となるそうだ。杖術と言われたりもする。棒と杖、なんとなく違う気もするが明確な区分は無い。歩行の助けに使っていたらそれは杖だというワケである。

「ショウマさまっ。ケロ子、棒が欲しいですっ」

次回、ショウマ、はじめてのおつかい。 

(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください)

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