第29話  五日目その6


冒険者組合の受付、アヤメは不安な気持ちを抑えつけてる。

冒険者がくるたびにビクビクする。


「おい おれの仲間がやられたぞ

 “闇梟”とかいう魔獣だ」

「そんな話は組合から何もきいてないぜ」

「アヤメが隠してたんじゃないのか」


今にもそう言われるんじゃないかという気がする。

『蝙蝠の牙』を受け取りながら

冒険者に報酬を渡しながら

アヤメはビクビクしている。



カトレアさんが来たから相談しようと思った。

相談の前置きに『毒消し』を貸し出した。

貸し出すアイディアを考えたのはキキョウ主任だ。

さすがである。

アヤメでは思いつかない。


「でも貸し出すのは信頼できる冒険者チームだけよ」


先渡しで『毒消し』を渡すのだ。

持ち逃げされたらかなわない。

乱暴者や犯罪者まがいの人間も結構な割合で冒険者には混じっている。

アヤメはカトレアさんに渡すことにした。

『花鳥風月』なら大丈夫だ。

カトレアさんだけでなく、キョウゲツさんにも渡そう。

そうしたらカトレアさんはやたら張り切って迷宮探索に行ってしまった。

アヤメが相談する間も無かった。


キキョウ主任は遅番、今日は午後からの出社だ。

だからアヤメはビクビクしている。





ひょっとこの面を被った男『迷宮商人』が壁を軽く叩く。

と普通の壁に見えた場所がへこんでいく。

扉の形に。

商人さんの行動を注目しているショウマ一行だ。


「隠し扉ってヤツでさ」

「スゴイですっ」


「へへっ 

 こんな裏街道ばかり詳しくなっちまってね」


ヤクザ者みたいな台詞の商人さんだ。

一行は4階の階段を降りた広間にいる。

通路が幾つも見えており、普通の冒険者なら何処へ進むか迷うところだ。

見えている通路だけでなく、隠し通路まで有ったのである。

ショウマたちは隠し通路を通って進んでいく。

『迷宮商人』の倉庫へだ。

商人は『毒消し』の材料は有ると言うが、もちろん200本分も持ち歩けるものではない。

倉庫に保管している。

商人が倉庫まで来れば『毒消し』を渡すと言うので、ショウマ一行は後をついていってるのだ。



「ケロ子殿 そこは危ない」

「!

 何かなっ ハチ子さん?」


ハチ子の黒髪が反応している。

アホ毛が動いているのだ。

最近アホ毛キャラって減ったよね。

ハチ子が地面を槍で突く。

と、地面の石が割れる。

下は空間が広がっている。

見下ろすと鉄のトゲが上を向いていた。

地下迷宮の罠だ。


「4階は多いんでさ。

 気を付けてください」


「こんな罠が続くの?

 脱出ゲーム?」


道は過酷であった。

隠し通路に入った辺りは良かった。

石畳の通路だ。

ワナは有ったモノのハチ子とハチ美が看破して見せた。

ワナの中をどういう神経をしてるのか。

面を被った商人はスイスイ進んでいく。


「商人さん,スゴイね」


「へへへ。

 実はアッシは鼠人間なんでさ。

 こういう通路にはカンが働く。

 しかし顔がどうも、亜人じゃないお客さんから見ると醜くてイケネー。

 てな訳でこの面を被ってるんでさ」


ただの変人じゃなかったんだ。

ショウマは感心する。

やばい人だと思って警戒していたショウマである。


そこから先は木で出来た通路になった。

その辺から雲行きが怪しくなった。

階段を上がり、坂を下る。

階段の無い場所を滑って降りる。

植物のツタを握ってロープ替わりに垂直の崖を降りる。

すでにまともな道では無い。


「何これ

 アスレチック?

 こんなのムリ。

 ターザンじゃないんだよ」


ショウマは早々に音を上げた。

今は羽根で飛ぶハチ美に抱え上げてもらって崖を降りていく。


「商人さん

 まだかかるならいいよ。

 通販にして。

 U〇er Eatsに届けてもらえないかな。

 薬は管轄外?」


商人の動きはスゴイ。

スイスイと動いていく。

ショウマたちが飛翔できるハチ子、ハチ美の力を借りて移動している所を苦も無く移動していくのだ。


「いやいや、もうここっすよ。ここ」


崖を降りて狭い通路を出るとそこは広場になっていた。

下は岩肌でもなく、木でもない土の地面だ。

ショウマたちが出てきた通路を振り返ると大きな樹の根であった。

どうやら一行は“大樹”の中の空洞を移動してきたらしい。

そして“大樹の根に辿り着いたのだ。






カトレアたちは3階に辿り着いていた。

2階を休憩も取らずに、一気に通り抜けたのだ。


「どうだ、コノハちゃん。 

 まだ体力は残ってるかい?」


「平気です。

 えへへー。

 2階はずっとタマモに乗ってましたから」


コノハは大分顔色が良くなっている。

“骸骨弓戦士”に襲われてから顔色が悪かった。

自分が死にかけた事を理解したのだろう。

死にかけた経験をして笑っていられるなら冒険者の適性は充分だ。


「3階はいいよな。

 明るいし、稼げるし」

「稼げるのはウチがいてこそだよ。

 アンタらじゃハチには手がとどかないだろ」


「そうなんだよな。

 アリどもを倒してるんじゃ実入りが少ない」

「リーダーのお陰って事にしといてやるぜ」


3階に辿り着いたところで小休憩だ。

コノハもホッとする。

ここは植物が多く空気がいい。


「えへへー。

 普段みなさんは3階を中心に探索してるんですよね?」

「ああ、そうだよ。『花鳥風月』のホームグラウンドだ」


「でも4階にも行ったと伺いましたよ。

 普通に考えたら下層の方が儲けになるのでは?」

「4階はなー」


「あそこに出る“動く石像”と“石巨人”は大分手間なんじゃ。

 石像は魔法がほとんど効かないし、石巨人は剣が通用しない」

「キョウゲツさんと魔術師が揃ってれば倒せはするが、

 やたら時間がかかるのさ」


「俺は4階のワナの方がイヤだな」

「ワナですか?」


「そう。落とし穴、槍ふすま 通路を通ると矢が撃ちこまれるなんてのもある」


「後は『迷宮商人』に会うなんてウワサも有るな」

「商人?」


「ああ。顔を見せない商人が現れて、商品を売りつけてくるんだと」

「やたら高いらしいが、ピンチのところに薬が売ってたら多少高くても買っちまうよな」


「ホントにいるんですか?」

「ネタに決まってるだろ。

 もしも迷宮を4階まで一人で辿り着けるような実力の持ち主なら冒険者になるさ。

 その方が稼ぎがいいぜ」


「オレの聞いたウワサはちょっと違うな」


「『迷宮商人』が顔を見せないってトコは一緒だが、そいつは実は亡霊なんだ。

 薬が有るって言われて冒険者が付いていくと、迷宮の地下深くに案内されて二度と戻れない…」


「何じゃい。

 怪談じゃないか」

「実は亡霊って、オチを先に言ってどーすんだよ。

 最後に言うトコだろ」


「オラオラ、コノハちゃんを脅して楽しんでんじゃねーよ。

 そろそろ出発するぞ」





アヤメはやっと落ち着いた。

キキョウ主任が来たのだ。

“闇梟”の件。

まだ組合の誰にも言ってなかったが、やっと上司に伝えられた。

1階で情報の無い大型魔獣に遭遇。

カトレアさん達でも苦戦する。

タキガミさんが知っていた。

一体遭遇したなら、続けて襲われるかもしれない。



今、冒険者たちへの情報板には新しい依頼が載っている。

『魔獣の情報 求む

 大型の鳥魔獣が1階で目撃された

 情報が有る物は組合へ』


梟である事や、正確な体長は載せていない。

ガセネタと区別するためだ。

大型の梟を見た、体長4~6Mと言われたら信憑性が高い。

他の鳥だったらガセネタだ。


キキョウ主任に相談した結果だ。

これなら注意報じゃないから大事にならない。

冒険者たちも大型の鳥に注意する。


これでいいよね

アヤメに出来る事はやったんだ

でも…もしも冒険者に犠牲者が出たら…

そんな思いは包み隠す。

受付嬢に出来る事は限りが有るのだ。





ショウマは大樹の根を見ながら尋ねる。


「ここってもしかして迷宮の最下層?」

「さて、一番下かどうかはアッシは知りやせん。

 たださっきまでいたのが4階、

 ここから階段で上がれば5階、

 つまりここは6階っすね」

 

「フーン」


商人さんの後を追い、ショウマたちは土の地面から石畳の場所へと入っていく。

迷宮の続きのハズだが、少し様子が違う。

人の生活していたような空間なのだ。

机があり、イスがある。

本の残骸らしき物があるが、既に崩れていて読めない。


「ここって?」


「さてアッシのようなしがない商人には分かりやせん。

 『失われた技術』時代の遺跡なんでしょうね。

 ここは研究室だったんじゃないかと思いやす」

「研究室?」


『迷宮商人』はショウマが期待したモノとはズレた回答をする。

しかしそちらも気になる話だ。

研究室と言われてみれば 棚があり、書庫がある。

机があり、瓶が有る。薬らしい物も有る。


「ええ。

 生物を大型化するそんな研究でさ。

 ちょうど迷宮の魔獣のように」

「なんでそんなコト解るの?」



商人さんの意見はともかく。

ショウマは既に仮説を立てている。


もしも地下迷宮を普通に降りてきたなら。

普通の冒険者が6階に正面から辿り着いたなら。

ここはその奥なのではないだろうか。

イベントの後に着く場所と言ってもいい。

迷宮を正面から最下層に降りて【あるイベント】が有る。

【あるイベント】をクリアしたものがその奥に行くことが出来る。

奥には秘密の場所が有って、更に地上への脱出口がある。

地上への脱出口が“大樹”だ。

ここが秘密の場所だ。

では【あるイベント】とは?


ボス戦


それ以外にない。




【次回予告】

「アレが最後の一匹とは思えない」

ヤツらが再び現れた。

人知を超えた怪物。大自然の報復者。

地下迷宮危うし!

人類絶滅の日が来た!!

「ご主人様 ご主人様 大丈夫です。みみっくちゃん 浮くですよ。浮き輪です。ブイですよ。みみっくちゃんに捕まってください。やっときました。ご主人様をみみっくちゃんが助けるターンですよ」

次回、〇〇〇の逆襲。

 (BGM:伊福部昭(神)でお読みください)

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