第27話  五日目その4


「地下迷宮の3階以降はバックアタアックがあるですよ。後ろからいきなり襲われるですよ。

 前衛に近接戦闘の人、後衛に長距離援護の人と単純にはいかなくなってくるですよ。常に後方も気をつけないといけないですよ」


隊列の左側をチームペガサス、

前衛にケロ子 

中央にみみっくちゃん

後衛にショウマ


右側をハチの姉妹

前衛に槍のハチ子

後衛に弓矢のハチ美

と言った態勢で進む一行。


ケロ子は先日買いそろえた、革鎧+部分的に金属プレート強化というスタイル。

みみっくちゃんは木の鎧にヘルメット。

ショウマは黒のローブに身を包んでいる。

ついでにフードで顔も隠す。

店員さんには顔を隠さない方が良いと言われたが、アレは街中の話だ。

どこかから攻撃が飛んでこないとも限らない。

頭部の防御だし。

顔を隠してるって安心するよね。


ハチ子とハチ美は最初から金属鎧を持っていた。

と言っても胸当てと腰だけ。

他の部分は身体にピッタリした布。

胸当ては女性らしい曲線の有るタイプ。

ハチ子とハチ美のスタイルの良さが良く出ている。

見ないフリをしつつ見ているショウマ。

ほら、こういう時フードって役に立つ。


結果的にみみっくちゃんの注意は役に立たなかった。

魔獣が見えないうちからハチ美の妖怪アンテナ、もとい触覚が反応する。


「前方から来ます。3体」

「後方上空。2体」


全てハチ美が言い当てるのだ。


一行は安心して行進出来ていた。


「どうせみみっくちゃん、役に立たないですよ。いまだに独力で魔獣を倒してないの、みみっくちゃんだけですよ

 後輩が出来たと思ったらなんでコイツラ即戦力ですか。やっぱりご主人様、みみっくちゃんの扱いが雑です…」


「うーん。

 もしかしてハチ子とハチ美 SSRキャラ?

 ケロ子がSRで、

 みみっくちゃんがN」

さすがに口に出さないショウマだ。

口に出していたらみみっくちゃんの怒りは止まらなかっただろう。

なんでみみっくちゃんN(ノーマル)ですか。その流れはR(レア)でしょう。今どきNキャラとかいないゲームの方が多いですよ。

いや、みみっくちゃんRでもないですよ。みみっくちゃんはLR(レジェンド)ですよ。そうに決まってますよ。育てるのが大変だけど他に比類ない能力を持ってる系です…



ハチ子とハチ美に案内され進むショウマ一行。

ハチ子とハチ美が加わってからの戦歴は

“大型働き蟻”×14

“大型兵隊蟻”×3

“殺人蜂”×6

ハチ子とハチ美は既にLV4になっている。




『大樹』と呼ばれる樹木。

それがどの木なのかはすぐに分かった。

遠方からも見えていた。

上空の岩天井を突き破り樹の果ては見えない。

突き出てる枝がすでに通常の大木サイズだ。

『大樹』自体は横幅だけで人の数人、いや数十人分は有る。

その幹に有る階段がショウマの目の前にある。

幹のウロと呼ばれるすき間だ。

そこに人の手が入ったであろう階段が有り下へ続いている。

『大樹』はどうやら下の階にも続いているらしい。

3階の地面から姿を出しているのは樹の中腹部分なのだ。

根っこはさらに下の階層に有るのだろう。


「これなんてユグドラシル?」


つぶやくショウマだ。







従魔師コノハは気分が悪くなりそうだった。

ニオイである。

2階の通路が臭いのだ。

さっきから“歩く骸骨”に襲われている。


1階はあっという間だった。

広間から中央の道を古参のメンバーと進む。

途中“吸血蝙蝠”と闘いになったが、カトレアさんが矢を放ち一瞬で勝負を決した。

カトレアさんはやけに張り切っている。

カトレアさんはLV29だ。

中堅クラスを既に越え指折りの冒険者と言ってもいい人だ。

ここのところコノハと新入り剣士に付き合って、新人向けの難易度の低い迷宮を探索している。

やっと下層に行けるので張り切っているのだろうとコノハは考えている。

湖の小島から2階に降りる。

湖付近では“毒蛙”が出るから気をつけろと言われた。

が、運良く出会わずに済んだ。

2階に降りた途端異臭がした。

肉の腐ったニオイだ。

1階で“歩く骸骨”に遭遇した時もひどかった。

骨の間に腐った肉や血がこびり付いてる骸骨は特にヒドイ。

2階はその悪臭が通路全体に充満しているのだ。


タマモも顔をしかめている。

“妖狐”は鼻が利く。

どの位かは分からないが、人間よりは上だ。

コノハも“妖狐”には劣るが、嗅覚はいい方なのだ。

だから布で顔の下を覆って進んでいる。


「カトレアさん、まだ先は長いんですよね」

「ああ、単調な道がこのまま続くよ。

 出てくるのも骸骨だけだな。 

 なっ、2階はイヤなところだろ」


「本当にイヤなところです。

 ではですね。えへへ。

 恥を忍んでなんですが、オンブしてもらいます…」

「えええっ、

 ウチにかい?」


『花鳥風月』のメンバーは笑い転げた。

コノハが乗っているのだ。

タマモにである。

身長が2M有るタマモに小柄なコノハは問題なく乗る事が出来た。


「馬に乗るのは騎士だけど、迷宮で狐に乗ったのはコノハくらいだろうぜ」

「なかなか似合っとるよ」

「笑わないでください」


カトレアは「あーたまげた」とか言っているし、他のメンバーは笑っている。

恥ずかしいけど仕方ないのだ。

このままニオイを我慢しながら歩き続けたら倒れる。

コノハは自分が体力が無い事くらい分かっている。

倒れたら他のメンバーに迷惑をかける事も分かっている。

笑いのネタにされるくらいは我慢しよう。






ショウマ一行は4階に降り立った。

ハチ子、ハチ美も4階に降りるのは初めてだそうだ。

これで案内役が居なくなってしまった。


木の階段が終わる。

降りた場所は石畳、石壁で出来た広間だ。

中央には石で出来た彫刻。

壁には幾つか通路が有る。

石で出来た通路、2階と似たような雰囲気だ。


「4階の魔獣情報、

 みみっくちゃん持ってる?」


「みみっくちゃんの魔獣情報は迷宮に落ちてた冒険者のノートに載ってたモノですよ。3階までは詳しく記入してあるんですが、4階までで5階は一切載ってないです。

 4階に関しては一種類の魔獣しか書いてないです。“動く石像”。飛行能力が有って頑丈、ついでに魔法も使ってくる強敵らしいですよ。

 さあこれだけ書いてあって、これ以降の記録が無いという事はですよ。このノートを書いていた冒険者はどうなってしまったんでしょうか?

 怪談話っぽくなってきませんか?…」

「動く石像ね、

 動く石像ってあれかな」


「!」

「わわっ」

「ご主人様、脅かそうたってそう簡単にはみみっくちゃん引っかからないですよ。

 キャーご主人様ー、なんて言って抱き着いてくる少女たちーみたいなラッキースケベを期待しても無駄です」


「みみっくちゃんっ、みみっくちゃんっ!

 後ろ! 後ろ!」

「何ですか、ケロ子お姉さま? みみっくちゃん志〇じゃないですよ」


みみっくちゃんが振り返ると彫刻がある。

先ほども有った石で出来た彫刻だ。

でもさっきはもっと離れた場所に有った。

しかも彫刻は宙を飛んでいる。


「わわっ! わわっ! わわっ! “動く石像”!“動く石像”!“動く石像”!

 階段を降りたところを襲ってくるですか? 普通ここ安全圏(セーフティエリア)じゃないですか。あ、よく考えたらそんな約束無いですね…」



『炎の玉』



ショウマはお得意の攻撃魔法を放つ。

その間にみみっくちゃんはケロ子の後ろに隠れる。


「効いてないっ?」

「彫刻だし。

 ダメージ有るんだか、無いんだか」


“動く石像”から石が飛んでくる。

拳大の大きさの丸い石。

“動く石像”の攻撃らしい。

ハチ美が矢を放って石を撃ち落とす。

ハチ子が槍を横凪ぎにして次の石礫も跳ね返した。

拳大の石だ。

当っても死にはしないだろうが、骨くらいは折れるだろう。


ハチ子が石を受け止めている間に、

前衛にケロ子とハチ子

中央にショウマとみみっくちゃん

後衛がハチ美

そういった隊列に自然となっている。


ハチ美は横立ちの姿勢から弓を構える。

長い手が流れるように動く。

弓からは矢が次々と放たれていく。


“動く石像”にキレイに矢は当たった。

だが石像だ。

多少の矢傷は残したが、刺さる事なく矢は下へ落ちていく。


ケロ子が跳ぶ。

回し蹴りだ。


「あいたたっ。

 固いですっ」


今までの魔獣であれば、ダメージを与えたことが見れば分かった。

動物であれば血を流すし、鳴き声を上げる。

が相手は彫刻だ。

ショウマにはダメージが読めない。



『凍てつく氷』



水属性の単騎攻撃魔法。

ショウマの狙いは相手の攻撃を止めるつもりだ。

果たして彫刻は凍り付き、石礫が止んだ。

凍り付いた彫刻は宙から地面に墜ちている。



「倒した? さすが王だ」

「さすが王です」


「う~ん、

 どうかな。

 凍っただけじゃないかな」


ドロップコインが無いし、倒したなら彫刻が消えても良さそうだ。


改めて見ると翼の生えた獅子の彫刻だ。

飛ぶために翼が動いたりはしていない。

彫刻の台座ごと浮かんで飛んでいるのだ。


「超能力かな。

 もしくは未確認飛行物体?

 アメリカ軍に発見されたUFO 実は“動く石像”だった!!

 みたいな」


その彫刻の口が動いた気がする。


「気を付けて!何かしてくる」

「何かしてきます」


ハチ子とハチ美が気配を察知する。

火だった。

口から火を吐き出したのだ。

そういえばみみっくちゃんが魔法を使ってくると言っていた。

火が中に浮かび四方へと飛んでいく。


「ショウマさまっ!今のっ?」

「うん。

 『炎の乱舞』だね」


火の影響だろうか、彫刻を覆っていた氷が溶けだしている。

半分は凍った状態だが、“動く石像”はガタガタと動き出している。


ガタガタッ


「わわっ。待って待って」



『凍てつく氷』



「もう一発」



『凍てつく氷』




「動かなくはなったけど、

 まだ死なないんだ~」

「またご主人様は魔法を連発する。いいですか。普通魔術師ってのは魔力に限界が有るので、魔法はポンポン使わないんです。一回の探索で5回も6回も魔法を使える魔術師なんてそうそういないんです。効果を見定めて、いざという時に使う。それが魔法です。

ご主人様はやっぱり非常識です…」


「どうしよう。 

 ドロップコインが出るまで、

 10発くらいかましてみる?」


ショウマは言う。

みみっくちゃんの言葉をまったく気にしていない。

従魔少女たちはさすがに呆れた目でショウマを見ている。


「え~。

 だってそれしかないじゃない」


まあ確かにそうだ。

しかしその時ショウマに声をかけた人物がいる。


「ダンナ、ダンナ。凄いね。ダンナ。 

 “動く石像”を凍り付かせるなんてタダモノじゃないね」


ローブを着込んだ怪しい人物。

彼が声をかけたのだ。

謎の人物はひょっとこの仮面で顔を隠し『商売繁盛』のハチ巻を巻いていた。




ひょっとこ仮面の男は言った。


「アッシは商売人なんすよ。

 人呼んで『迷宮商人』

 商人さんと気軽に読んでください」


「いやー凄いね。ダンナ。

あの“動く石像”は魔法防御力が高くて、そうそう魔法じゃダメージ与えられないんすよ。

 凍り付いてんのなんか初めて見やしたぜ」


「でも凍ってるだけでしょ。いずれ動き出しやす。

 あの石像は魔法防御は高い。普通の防御力も高い。ちくちくダメージ与えて長時間かけて倒すしかない面倒なヤツなんす。

 そこでいかがでしょ。これ、『石溶かし薬』。こいつを使うと効くよー」


「一発で倒すとは行きやせんが、防御力が一気に落ちる。

 こいつをかけてぶん殴ってやりゃ、あっという間に倒せるって訳さ」


「いや、もちろんダンナなら“動く石像”に負けたりゃしないと思ってますぜ。

 でも疲れっちまうでしょ。ここは4階でさ。時間節約していかなきゃ」


「ってことでどうですか、一本。お安くしときますぜ」


「どこでも商売人っているんだね~」

「いやいや、みみっくちゃんは聞いたことないですよ。だいたいこの人仮面で顔を隠してあからさまに怪しいですよ…」


「商人さん。『石溶かし薬』はおいくらなの?」

「ヘイっ、たったの1000Gでさ」


高い?安い?

日本円で換算すると10万円か

高いっ

ホームセンターでコンクリート溶かす薬売ってるの見たことある気がする。

あれは幾らしたっけ? 1万円前後?。


「もうちょっと安くならない」

「ダンナー、これでもお安くしてるんすよ。

 地下迷宮の4階まで運んできてるんすよ。

 その労力を分かってくださいよ~」


まあそうだよね。

130円のペットボトルドリンクだって、富士山の8合目では同じもので500円取られるのだ。


3階でのドロップコインで考えてみよう。

“大型蟻”は確か銀貨一枚

“殺人蜂”は銀貨五枚

銀貨五枚で500Gだ。

“殺人蜂”を二体倒せば入ってくる金額という事になる。


「分かった。買うよ」



【次回予告】

商人志望の男は迷宮都市にやってきた。以前は帝国領にいた。帝国領は亜人差別のある土地だ。男は鼠の亜人に産まれついた。そこで帝国領を脱出して迷宮都市に来たのだ。多少の蓄えはここまでくる旅費で消えた。

店を出すような元手が無ければツテも無い男だが、大きな商店で雇ってもらえた。

最初は下働きだが当然だ。商人への第一歩だ。

「みみっくちゃん オサイフですか。そうですね。ご主人様はみみっくちゃんをオサイフにするつもりで拾ったんですね」

次回、コノハはものスゴイ勘違いをしている

(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る