第26話  五日目その3


休憩しようとショウマが言い出して、一行は昼食を取っている。

ショウマ、ケロ子、みみっくちゃんにハチ子、ハチ美が加わり総勢5名になった一行だ。


「我らの分まですまないな、ケロ子殿」

「ありがとうございます、ケロ子殿」


「非常用も含めて多めに持ってきてるから大丈夫だよっ。

 いっぱい食べてねっ」


「おっ、今日はサンドイッチじゃなくてクレープ。

 ガレットかな?」

「はいっ、いつもサンドイッチになっちゃうので、今日は趣向を変えてみました」


「美味しいよ、ケロ子」


ケロ子が作ったお弁当はハムやサラダをクレープ生地で巻いたものだ。

最近は屋台でも売ってるよね。

食事クレープ。


「水筒は3つしか持ってきてないですよ。ケロ子お姉さまの分みみっくちゃんに分けてくださいです。

 ほれ。みみっくちゃんの分の水筒はハチ子とハチ美にあげるから分けるですよ」


「気が利くな。みみっくちゃん」

「気が利きますね。みみっくちゃん」


「あれ、なんでみみっくちゃん呼ばわりですか。殿とか先輩はどうしたですか?

 みみっくちゃん先輩ですよ。敬うですよ」


「すまないな。みみっくちゃん先輩。しかしどうもみみっくちゃん先輩というのは語呂が悪い気がして」

「先輩と呼ぶ気がしなくて」


「そうだ、ゲテモノ先輩と呼ぶのはどうだろう? これなら語呂も響きもいいぞ」

「ゲテモノ先輩で語呂も響きもいいと思います」


「もちろん悪い意味ではないぞ。愛称だ。」

「悪い意味ではないです」


「ゲテモノに悪い意味以外どんな意味が有るってんですか。怒りますよ。さすがにみみっくちゃん怒りますよ。

 みみっくちゃん怒るとコワイですよ。ご主人様とケロ子お姉さまの荷物は間違いなく運びますが、ハチ子とハチ美のモノは飲み込んだら全部消化してやるですよ」


楽しい昼食の時間だった。






「じゃあ4階に降りる階段に心当たりが有るんだね」


「はい。王よ」

「おそらく大樹のふもとで見たものかと」


ショウマ一行は出発する事にした。

ハチ美が4階に降りる階段に心当たりが有るというので、目的地はそこだ。


前衛にケロ子

中央にハチ子、ハチ美

後衛ショウマ、みみっくちゃん

安定のケロ子に前衛を務めてもらって、LV1のハチ子、ハチ美を守りつつ進もう。

そういう話になったところでハチ子から異論が上がる。


「気遣いはありがたいが、我らは戦士です。心配はご無用!」

「無用です」


「ハチ美!」

「ハッ、姉様」


ハチ美の髪の毛が上を指している。

金髪の中に黒い髪が左右に一房ずつ混じっていた。

その黒い毛が起き上がり上空を向いて動いている。


「えーと、

 妖怪アンテナ?

 ハチ美は鬼〇郎だったの?」


「うむ。その方向だな」


弓矢を構えるハチ美。

上空に舞い上がるハチ子。

その背中からは透き通る羽根が見えている。

ハチ美の髪が指差す方向、そこには3体連隊の“殺人蜂”がいた。


ハチ美の弓から矢が放たれる。

“殺人蜂”に当りはしないが、避ける“殺人蜂”は隊列を崩している。

ハチ子の槍が隊列から離れた一体を襲う。



『必殺の一撃』



ハチ子の叫び。

通常LV1の冒険者の攻撃で“殺人蜂”が倒れる事は無い。

だが、ハチ子の槍は見事に“殺人蜂”の急所を打ち抜いていた。

そして槍を喰らった“殺人蜂”は地上へ落ちていく。



『一点必中』



ハチ美の手から矢が飛び立つ。

矢は正確に“殺人蜂”の胴を打ち抜いた。

“殺人蜂”にダメージは有る物の、矢の一撃で落ちる事は無い。

しかしその動きは鈍る。

ハチ美の手が流れるように動き、第二、第三の矢が撃ち出される。

動きの鈍った“殺人蜂”に次々と矢が刺さる。

“殺人蜂”はそのまま動かなくなった。



「よし」

獲物を倒した手応えにハチ子は酔いしれる。

しかしすぐ我に返る。

“殺人蜂”は三体いた。

一体をハチ子が落とし、一体はハチ美の矢が倒した。

残り一体は?

ハチ子の頭部から黒い毛が知らせる。

空気の動き。

ハチ子の後方だ。

“殺人蜂”が後ろからハチ子を襲おうとしていた。


マズイ!

これは喰らう

身体の造りが変わったばかりだ

王から貰った身体は素晴らしい

しかしハチ子自身がこの身体で飛翔する事に慣れていない

躱しきれない

“殺人蜂”の攻撃を


ハチ子は躱すことを諦める。

出来るだけダメージを減らすべく、槍で自分の身体をガードしようと動く。

しかし頭部の髪の毛はさらに空気の振動を伝える。

それは下から上空へ跳んでくる物体の動きだ。


ガッ


何が起こったのか。

ハチ子の目の前に迫った“殺人蜂”が消えていた。

替わりに誰かいる。

ハチ子の目の前で空中回転する女性。

革鎧に身を包んだ女戦士。

ケロ子と名乗った先輩だ。

彼女が“殺人蜂”をどうにかしたのだ。

そして空中回転した彼女はまた体勢を整え地上へと降りていく。


ハチ美は見ていた。

“殺人蜂”が姉を後方から襲う。

あれは躱しきれない

援護の矢を射る?

姉と“殺人蜂”の距離が近すぎる

飛翔して援護に向かう?

王とその臣下に空を飛べる者は見たところ姉とハチ美だけだ

王から貰った身体は素晴らしい

がまだ飛翔に慣れていない

飛翔しながら弓矢を扱うのも不安がある


時間にしたら一瞬の思考だ。

その時聞こえた。


「ハァッ」

隣にいた動きやすそうな革鎧を着た戦士。

ケロ子と名乗った女性が跳んでいた。

ハチ美の頭上高く。


蹴りだった。

空中後方宙返り蹴り。

“殺人蜂”は女性の足技を喰らい吹き飛ぶ。

あの衝撃は一撃で仕留めたはずだ。

そのまま空中回転しバランスを整えた女性は優雅に降り立つ。

王の傍へ。



「キタ!キタキタ! サマーソルトキック キター!

 ガ〇ル先輩!」


王が女性を賞賛(?)しているのが見える。


「さすが王の臣下だ。やるな」

「はい。それでこそ先輩殿です」


ハチ子が地上に降りてくる。


「我らも負けてはいられないぞ」

「もちろんです。姉様」



『LVが上がった』

『ハチコは冒険者LVがLV1からLV2になった』 

『ハチミは冒険者LVがLV1からLV2になった』 



コインはショウマが銀貨5枚、ハチ子とハチ美がそれぞれ銀貨5枚手に入れた。

ハチ子とハチ美はショウマにコインを差し出してくる。


チーム編成していないからだ。

現在チーム編成はリーダー・ショウマ、ケロ子、みみっくちゃん。

ケロ子が倒したドロップコインはリーダーのショウマの元へ。

ハチ子とハチ美はそれぞれ倒した昆虫型魔獣のドロップコインを単独で手に入れている。

とすると経験値も同じだ。

ハチ子が倒した魔獣の経験値はハチ子のモノ。

ハチ美も同じく。

ショウマ、ケロ子、みみっくちゃんが倒した魔獣の経験値はチーム3人で分け合う。

ならばショウマ、ケロ子が戦闘してもハチ子、ハチ美のLVアップにならない。


「え~、

 一度帰ってチーム編成する?

 いや~、

 帰ったら今日はもう仕事終わりだよ。

 お風呂入って寝るよ」


一行はこのまま進むことになった。

勤勉な従魔少女達である。






「んじゃ、今日こそは2階に行くぜ」


女冒険者カトレアは張り切っている。

午前中は『花鳥風月』チーム加入を断念した戦士の手続きやガンテツへの報告でつぶれてしまった。

午後からの探索だ。

1階の右回廊も左回廊も一通り巡った。

今日は中央に進み、そのまま湖から階段を下りる。


「だけど『毒消し』が無いぜ」

「俺もだ」


「なにやっとんじゃ、お前ら」

ツッコんだのは斧戦士だ。


「予備くらい持っておくもんじゃ」

「いや~、しつこく売れって商人が言うからよ」

「通常の売値の3倍で買ってくれるって言うんだぜ」


「それルメイ商会だろ。

 おれんとこも来た。

 ミニスカートの女店員が来てよ、売ってくれって。

 あれは断れねーよな」


「男ってのはバカだねぇ。

 3倍の値段で売って、20倍の値段で買うのかい」


カトレアの言われても誰も言い返せない。

男ってどの時代もバカだよね。

斧戦士とカトレアが予備に持っていた『毒消し』一本ずつ有るだけだ。



カトレアは笑って見せる。


「ヒッヒッヒー、

 ところが借りてきたのが有るんだ」


「借りてきた~?

 何処から」


「アヤメちゃんから。

 組合とは仲良くしとくもんだよな」


組合の主任キキョウのアイディアだ。

『毒消し』は手に入れた。

だが50本しか無い。

販売すればすぐ無くなってしまう。

そこで信頼できる冒険者チームのリーダーに貸し出す。

『毒消し』は毎回必ず使うモノでは無い。

毒を受けた時だけだ。

チームで持っていれば全員分必要な訳でも無い。

リーダーが数本持っていれば大丈夫だ。


冒険者としては毒攻撃をいつ受けるか分からないから持っておきたい。

そこで探索に行く時組合から借りる。

迷宮探索から戻ってきたら返す。

使った分は適正価格で払う。

それで販売するよりは冒険者に行き渡る。


アヤメは言ったのだ。


「カトレアさんなら信用できます」


という訳でカトレアは張り切っているのである。


前衛 斧戦士、盾戦士

中央 コノハ、槍戦士

後衛 タマモ、カトレア

で2階まで一気に進む。


魔術師は行きたがっていた。

だが彼はまだ今週休みを取っていない。

良いタイミングだろう。

休みを取らせた。


「2階はアンデッドが多いからね。

 イヤなところだし、実入りも少ない。

 可能なら一気に通り抜けて、3階まで行くよ」


「だから焦り過ぎだって」


他の古参メンバーが言ってもその勢いは止まらない。






「うん。

 “大型蟻”が出てきたらハチ子、ハチ美が倒す。

 “殺人蜂”が出てきたらケロ子と僕が相手する。

 もちろん敵の数が多かったらお互いフォローする。

 これで行こう」


ショウマの決定だ。

文句を言う者はいない。


「あれ、みみっくちゃんの名前が無いですよ。ご主人様、ついにみみっくちゃんの事目に入らなくなりましたか。そうですか…」



出発の支度をしながらハチ子は言う。


「王の決定に異論はないが、しかし飛翔できる我らが“殺人蜂”を相手する方が適任というモノではないのか?」

「適任じゃないでしょうか?」


「ご主人様、多分気を使ってるですよ。みみっくちゃん意味の無い気遣いだと思うですよ。

 朝もご主人様に言ったです。人間も人間同士争うし殺人もするです。“殺人蜂”同士だって戦うですよ…」

「うん、そうだねっ。

 人間同士も戦うね」


みみっくちゃんに同意をしつつもケロ子は言葉を続ける。


「でもね、みみっくちゃん」


「人間同士は争ったら、人間を殺してしまったら、後でとってもイヤな気持ちになるんだよ。

 ショウマさまは私たちにそんな気持ち。

 イヤな気持ちになって欲しくない。

 そう考えてるんだと思うよ」



休憩を終えたショウマが歩き出す。

慌てて走り出すケロ子とみみっくちゃん。

それに遅れないよう付いていくハチ子、ハチ美。

従魔の少女たちは彼に付き従って歩き出す。

彼と一緒に進んでいくのだ。




【次回予告】

地下迷宮4階。

そこは魔獣との戦いを生き抜いた猛者だけが辿り着ける下層。

冒険者を待ち受ける罠の数々。

武器による戦闘能力だけで生き残れはしない。

「アッシは商売人なんすよ。人呼んで『迷宮商人』 商人さんと気軽に読んでください」

次回、ショウマを待つのは栄光の朝か、それとも地獄の闇か。 

(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください)

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