第25話  五日目その2


ブゥーーンウーーンブゥーン

何かの音が聞こえる。

獣の唸り声の様でも有るし、ショウマには機械音のようにも聞こえる。


「なにこれ、

 鈴鹿サーキット?」


そう、確かにレースのモーター音にも聞こえる。

だがそれは上から聞こえていた。

上空を見上げるショウマ。

彼の視界に現れたのは宙を舞う六本の肢、透明な羽、胴体は黒をベースに黄色い毛が生えている。



「みみっくちゃん知ってます。“殺人蜂”です。“殺人蜂”と“皇帝蜂”がいるです」

「ヤバイじゃん。

 あのサイズのハチに刺されたら死んじゃうじゃん。

 ああ、だから“殺人蜂”か」


「ショウマさまっ。

 ケロ子、跳びますっ」

「待って待って」


ジャンプしようとするケロ子を止める。

見ていると“殺人蜂”は通り過ぎていきそうなのだ。


「行っちゃいましたねっ」

「みみっくちゃん達に気付いてなかったんですね」


ブゥーーンウーーン

また同じ羽音がする。

ショウマ達から離れた方角へ飛んでいく“殺人蜂”だ。


「同じ方向へ行きましたっ」

「あっちに巣が有るのかな?」


“殺人蜂”の後をついていくショウマ。

ハチの巣の近くに下層への階段が有るとか、ありがちじゃんと思ってる。


「そういえばみみっくちゃん。

 蟻は“大型働き蟻”と“大型兵隊蟻”がいるんでしょ。

 蜂には無いの?」

「はい。研究家によると蜂の中には兵隊蟻に似たような立場のオス蜂がいるんです。でもこいつ巣を守って戦ったりしないです。エサ集めも巣を守って戦うのも、普通の蜂にまかせて、女王蜂と交尾するだけが仕事というサイテーのオスです。

 どうですか? ご主人様。親近感が湧くんじゃないですか。

 アリに関しても働きアリがエサを集めて兵隊アリが戦う役目と言われてましたが、最近の研究だと兵隊アリもオス蜂と同じく何もしてないで働きアリが全部やってて、兵隊アリと言われていたオスは女王アリと交尾するだけが仕事と言う種類のアリもいるみたいですよ」


 


「ハチさんとアリさんが戦ってますっ」

「昆虫大戦争?」


「魔獣じゃなくても昆虫のアリとハチはナワバリ争いを起こしますね。アリ同士、ハチ同士の争いの方が圧倒的に多いですが、蜂の巣をアリが襲う事もあるようですよ」


“殺人蜂”の向かう先は巣では無かった。

ハチとアリの争いの場であった。

大量の“殺人蜂”と“大型蟻”が戦っている。

ショウマの見たところ、若干アリの方が優勢だ。

一対一なら上空を舞い針で攻撃できるハチの方が有利だろう。

しかしアリの方が圧倒的に数が多い。

一体のハチに3体以上のアリが攻撃しているのだ。

上空から攻撃するハチを後ろから別のアリが組み付き地上に引き下ろしている。

引き下ろされたハチに四方から噛みつくアリたち。

中には身体が大きく、牙が迫り出したアリが混じっている。

あれが“大型兵隊蟻”だろうか。

ハチは次々とやられていく。

もちろんやられてばかりでは無い。

アリも蜂によって首をもぎ取られるモノ、針で撃たれ即座に動けなくなるモノもいる。

動けなくなるハチ、アリが多くなるとやはり最後には数の差がモノを言う。

徐々に飛び回るハチは少なくなっていく。

すでに数えるほどしかいない。

アリの方はまだ軍勢と呼べる数がいるのだ。

ハチたちは地面に落ち、腹を食い破られ羽をもぎ取られた無残な姿だ。



「うーん、残酷。

 ナショナルジオグラフィック?

 時に大自然は残酷だ、みたいな」


「少しハチさんが可哀そうですっ」

「お姉さま。今回は多勢に無勢で“大型蟻”が勝ちましたが、そんな事ばかりでは有りません。蜂が寄ってたかって蟻の巣を潰す事も有るんです」


ショウマ達は目の前で繰り広げられる戦争に気を取られていた。

“大型兵隊蟻”の触覚がショウマたちを指して反応しているのに気付かない。



「アレ?」

「ショウマさまっ、囲まれてます」


いつの間に回り込んだのか。

昆虫大戦争を観察していたショウマ一行の後ろに複数の“大型働き蟻”が近付いてきている。

正面からは“大型兵隊蟻”を中心とした軍隊だ。

もちろんショウマは慌てない。



「こなくていーよ」



『氷の嵐』



『荒れ狂う颱風(たいふう)』



範囲攻撃の連発。

火属性を使わなかったのは辺りが草原だからだ。

植物に燃え広がったら自爆になりかねない。

もう“屍食鬼”の隠れ家で自爆は経験している。

ショウマだってほんの少しは成長する。


『荒れ狂う颱風』は風属性 ランク4の魔法だ。

正面の“大型兵隊蟻”は突風にまかれ吹き飛ばされていく。

一瞬でほとんどを駆逐する。


『氷の嵐』は水属性 ランク2の魔法だ。

後方の“大型働き蟻”は足元が凍り付き動けなくなっている。

まだ倒れてはいないようだ。


「もう一発」



『氷の嵐』



『LVが上がった』

『ケロコは冒険者LVがLV9からLV10になった』

『ミミックチャンは冒険者LVがLV6からLV7になった』 



どうやら駆逐しきったようである。


「なんだか魔法の効果が弱い気がするなぁ。

 階が下がった分、魔獣の体力が上がってるのかな」


そういえばステータスに魔法防御の項目も有った。

昆虫型魔獣は魔法防御が強いのかもしれない。



「ご主人様、魔力の残りは大丈夫ですか? 戦闘のたびに魔法を使ってます。ご主人様の魔力がケタ外れなのは分かってますが、帰り道もあるですよ。途中で魔力切れと言われたら、困るのはみみっくちゃんとお姉さまですよ」

「魔力切れってどうなるの?」


「人によっては気絶したり、動けなくなるって話ですよ。普通の冒険者は自分が何回使ったら気分悪くなるか覚えてるもんなんですよ」


みみっくちゃんのいう事ももっともだ。

2階まで戻れば、相手はアンデッド。

動きが鈍い。

ケロ子の戦闘能力で何とかなるだろう。

3階では複数の敵が同時に襲ってくる。

一体はケロ子が相手をするが、残りはみみっくちゃんとショウマに向かってくるのだ。

さてどうしよう。


「じゃあこうしよう」



『我に従え 虫よ』



ショウマが唱える。

何に向かって?

先ほど昆虫戦争でやられた“殺人蜂”だ。

目の前に死にかけている“殺人蜂”が二体居る。

彼ら、いや彼女たちに向かってショウマは唱えていた。


死にかけていた“殺人蜂”。

頭部に傷を負い、噛み千切られたのだろう肢が欠けている。

腹部から体液を流し、もがいている。


そんな“殺人蜂”が2体 緑の光に包まれる。



「キミ、ハチ子」

「キミ、ハチ美」

「よろしくね」


光が消えた後、そこに立っていたのは二人の美少女だった。



「ええっ」

「ええええええ」

「ええええええええええええええっ」

「ええええええええええええええええええええええええええええっ」




「ショウマさまっ!」

「ご主人様、何してくれやがってんですか~」


「だって、敵が必ず複数出てくるじゃん。

 だから魔法使わなきゃいけないって話だよね。

 だったらこっちも頭数増やせば問題解決じゃない?」


「いやでもっ」

「LV1の味方増やしても、守らなきゃいけないのが増えるだけですよ。

みみっくちゃんに正直に言うですよ。ご主人様は単にハーレム要員増やしてみたかっただけでしょう」


ショウマに詰めよるみみっくちゃん。


ズンッ


そのみみっくちゃんとショウマの間に突き出された物が有る。

槍だ!

槍の持ち主はそのままみみっくちゃんとショウマの間に立ちふさがった。


「待ってくれ。臣下の身で王に逆らうのは見過ごせない」

「王に対して無礼です」


立ちふさがったのは二人の従魔少女。

ハチ子とハチ美であった。



「見たところ先輩とお見受けする。後輩の身で先輩に意見するのも僭越とは思うが、しかし王に対する造反だけは見過ごせない」

「見過ごせません」


「うわ騎士キャラ?

 王って僕の事だよね。

 僕って王なんだ。

 ギ〇ガメシュ?」


「待ってっ、私たち造反なんてしてないよっ。

 みみっくちゃんもケロ子もショウマさまとお話ししてただけだよっ」


「いや、しかし王の意見に逆らうこと自体が無礼というモノではないか」 

「無礼と言うモノです」


ケロ子が物騒な雰囲気に慌てて割ってはいる。

ショウマもケロ子に助け船を出す。


「いや~、

 意見を言うのはオッケー。

 僕が許す」


「そうか、王が許しているのなら是非もない。失礼したな、先輩殿」

「失礼しました」


「いいよっ、いいよっ。

 ワタシ、ケロ子だよっ。

 ハチ子ちゃんっ、ハチ美ちゃんっ。よろしくねっ」

「みみっくちゃん、みみっくちゃんですよ。

 背はこちらの方が低いかもしれませんが、先輩ですよ。ちゃんと敬うですよ」


「ケロ子殿、みみっくちゃん殿、少し待ってくれ。

 申し訳ないが、先に王にキチンと挨拶したい」

「挨拶したいのです」


二人の元昆虫型従魔少女がショウマに向き直る。

二人はショウマの前に膝まづく。


「王よ。先ほどは死にかけた我らを救っていただき感謝する」

「感謝します」


「我らはショウマ王に仕えよう。

 王のために生き、王のために死ぬことを誓う」

「誓います」


二人はどちらも背が高い。

ケロ子より高いだろう。

スラリとした体形で手足が長い。

ハチ子が槍を持ち、ハチ美が弓矢を持っている。

薄い金属鎧を装備し騎士の風情が良く似合っているのだ。

金色の髪から覗く、大きい黒目がショウマを見つめている。


うわーモデル体型美女

多分僕より背が高いし

顔立ちも整ってる

鼻筋高いし、眉がくっきりしていて、目も大きい

モデル風美女ってちょっと気圧されるよね


ショウマはドギマギしている。

二人の大きい瞳がショウマを見つめている。


あれこれ僕が受けるところ?


「分かった。

 ハチ子、ハチ美。

 二人の誓いはこのショウマが受けとめた」


二人につられて時代がかった言い回しになってしまうショウマであった。




【次回予告】

ケロ子の朝は早い。

ショウマとみみっくちゃんが寝てるのを横目にベッドルームを出る。

顔を洗ったら、朝ご飯の支度だ。

今まで材料が少なくて、パンとスープにサラダ位しか作れなかった。

今朝はマカロニにしてみよう。

たっぷりのマカロニを茹でつつ考える。

一つはひき肉と玉ねぎでミートソース風に、もう一つ魚介類とサラダで味付け、二種類作ろう。

ケロ子はショウマの買ったエプロンを身に着けている。

身体のラインが出るタイプのだ。

ショウマは「これで裸エプロン」とかなんとか言っていた。

いくらショウマさまに言われても、裸にエプロンだけはっ…

みみっくちゃんも居るしっ

「非常用も含めて多めに作ってあるから大丈夫だよっ いっぱい食べてねっ」

次回、みみっくちゃんがいなければやっちゃうのかケロ子? 

(ボイスイメージ:田口トモロヲ(神)でお読みください)

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