103. 街灯設置
「アレク先輩、犯人は捕まえたんですか!?」
「あぁ、だから安心しろ」
「いったい」
誰がと聞こうとした時アレクのもとに兵士が一人近づいてきてなにか耳打ちした。
「ユアン、この話はまた今度ゆっくり話して聞かせるよ」
そう言ってウィンクすると、アレクは兵士と共にその場を後にしたのだった。
☆──☆
その後はアレクが言っていた通り、街灯設置の準備は大きな問題や妨害が起きることもなく順調に進んでいった。
そしていよいよ市街地への街灯設置の日が来た。
「お兄様! こっちです」
メアリーと二人で式典が行われる教会前の広場までいくと、打ち合わせをしていたルナがユアンに気がつき手を大きく振りながら駆け寄って来た。そしてそのままユアンの胸に飛び込む。
「おいルナ、もう子供じゃないんだから」
「いえ、ルナはまだ17歳です、でも今年で成人なので、だから今のうちにお兄様に甘えるのです」
そういってグリグリと頭を擦り付けてくる。
「それにお兄様はいつも海外に行ってるし、帰ってきてもルナに会いに来てくれないじゃないですか。この間キール様の結婚式で久しぶりに会えたと思ったら、あの魔物のせいで」
プルプルとこぶしを震わす。
「ルナにはもうクリス君がいるじゃないか」
ユアンが困ったようにそういうと。
「クリスも、毎日毎日教会で他人の悩みばかり聞いていて、私の話など上の空です」
(あー、それ前の人生でもそんなこと言ってたな。ただあの時はルナがクリスにべた惚れだったから、それすら慈悲深い自慢の夫という感じだったが……)
プクッとふくれっ面のルナの頭を撫ぜながら、そんなことを思い出す。
「クリス君は優しいからな、みんなのことをほっとけないんだよ。そんなクリス君を癒すのがルナの役目だろ」
それっぽいことを言ってみる。
「わかってます。だからその私を癒すのはやっぱりまだお兄様の役目です」
ニカリと笑うルナは、この二年でずいぶん女性らしくなったと思ったが、まだまだ甘えん坊はなおってないらしい。
「そしてそのお兄様を癒すのは、メアリーお姉様、任せしましたよ」
一通りユアンに甘えると、サッとユアンの手を取り、それをメアリーにバトンタッチするように渡す。
ユアンの手を取りながら、メアリーは「わかりました」とニコリと微笑んだ。
「ところでいいのか、僕もここに座って」
ルナはクリスの花嫁修業をしつつ、アレクとローズマリーの研究ラボにずっと籍を置いて今日まで街灯設置の手伝いをしてきた。メアリーも光魔法を提供してきた。
しかしユアンは元魔具研の一員として手伝える範囲で手伝ってきたが、今は研究部員ではなかった。
研究ラボの人が座る特等席と同じ並びに用意された席を見ながら訊ねる。
「当たり前じゃないですか、お兄様が一番貢献してるんですから」
ルナの言葉にメアリーも
「確かに学生の時から一番街灯にこだわってましたよね、今も魔法石やラボへの寄付金はユアンが一番だし、いいんじゃないんですか」
そう言って微笑む。
「なら」
座りかけたユアンの目にアンリの手を取りながらゆっくり歩いてくるキールの姿が目に飛びこんできた。
「キール! アンリ先輩お久しぶりです」
「久しぶりユアン君」
少し青白い顔をしたアンリがウッと口元を押さえる。
「大丈夫ですか?」
慌ててユアンが声をかけ、メアリーが椅子に座らせる。
「大丈夫ただのつわりだから」
ユアンとメアリーが顔を合わせる。
そしてまだ全然目立っていないお腹に目をやる。
「おめでとう!」
メアリーがアンリの手を取ると心からそう祝福の言葉を投げた。
「キールもとうとう父親か」
感慨深げに幼馴染の肩に手を置く。
「そうだ、つわりの時にも食べやすい果物があるから、帰る時に持っていけよ」
キールとアンリを見ながらそういう。
メアリーに子供ができないかもという告白をしたが、ユアンはそれでも一縷の望みをかけて色々妊娠について調べていた。そして貿易という仕事柄色々な国の栄養剤や妊婦さんによいといわれるものなど、体に良いとされるものを輸入していた。今ではメアリーの店の傍らに、健康食品コーナーを作っているほどだ。
「ほら、お前らそろそろ静かにしろ」
そこにアスタがやってきてユアンたちにそう言い放つ、それから相も変わらずアンリにだけは優しく座ってゆっくりしているように言う。
「あいかわらずだな、アスタ先輩は」
横でメアリーがフフフと笑っている。
「ほら、もうすぐ式典が始まりますよ」
ユアンはポリポリ頭を掻きながら、メアリーと共に席に着いた。
☆──☆
式典は静かに進んでいった。
レイモンドやローズマリーたちの街灯に対する想いそれに携わった人たちの話などが続いた。
そして少し日が傾きかけたあたりにようやく街灯にかかっていた布が取り外され、その姿を現した。
ユアンの記憶の中の街灯とはまた少し違ったデザインだったが、まぎれもなくそれはユアンがずっと設置を願っていた街灯だった。
これで全ての災いがなくなるわけではない、もしかしたら未来はなにも変わらないかもしれない。それでもその光は、ユアンにとって一筋の道しるべであり、希望であった。
「光魔法”輝き”」
街を代表する魔力のない平民の娘がそう街灯に向かって言葉を投げると街灯の中に備え付けられている魔法石が白い輝きを放った。
まだ夕暮れには早く、周りもそこまで暗くはないが、確かにそれは周りに優しい光をおとしていた。
集まっていた人々から、歓声があがる。
メアリーがユアンにそっとハンカチを差し出した。
「ありがとう。メアリー」
眩しげにその光を見つめながらユアンはそう言った。
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