102. 事件と魔法石
「あぁーもー。誰だ魔法石に魔物なんて詰めて送ってきた奴は!」
すっかり魔物騒ぎのドタバタで、メアリーとの結婚式の日取りをまた決めそびれたことに気がつきユアンは落胆のあまりベッドに倒れ込んだ。
「明日店に行って今度こそ話を進めよう」
次の貿易に出る前にある程度決めておかなければ、次はいつ日が合うか。
☆──☆
「メアリー、僕たちの結婚式についてなんだけど」
「よかった、ユアンちょうど相談したいことがあったの」
朝一で店に顔をだしたユアンは、神妙な面持ちのメアリーを見てそれが結婚式の話ではないことを悟った。
「やっぱりこのまえの襲撃は、次期王太子妃を狙ったというより、魔法石が誰にでも使える危険性を見せるためのものだったんじゃないかと思うの」
魔力のある人間は貴重である。そのため少しでも魔力を持っている人物は国で管理される。
メアリーも少しだが魔力があるので、それも珍しい聖・光属性のため、卒業後他の職に就くことは許されたが、年に一度魔力に変化がないか検査を受けなければならなかった。そしてある一定数の魔力量に達した場合は、危険人物として王宮魔導士のもとに連れていかれるのだ。
しかし魔法石の発展により、魔力を持たないものまで魔法石を使って魔法を使えるようになってしまったら、それこそ管理がいきわたらなくなる。
今回は魔法石の危険性を警告するためのものだったのかもしれない。
確かにそれも言えなくはないが、魔法石に魔力を注ぎ込めるのは魔力持ちだけなので、魔力持ちが道を外れるようなことに加担しなければ今回のような事件も起きないのだが。
ようするに、魔法使いたちは魔法石が市場に出回ることで自分たちの価値が落ちるのではないかと心配しているにすぎないのだ。
だからなんだかんだ問題を起こして、街灯発表を中止しようとしてるのかもしれない。
「でも今回のことはアレク先輩たちに任せたほうがいいと思う」
「そうなんだけど」
メアリーが釈然としない感じで眉を寄せる。
「私たちも魔具研の部員なのに、ただ見ているだけなのがちょっと悔しくて」
瞳を伏せるメアリーの頭をポンポンとやさしく叩く。
「そうだね。今度マリーさんのところに行って話を聞いてみようか」
そういうとメアリーがぱっと顔を輝かせた。
「でもメアリー、この事件の解決も大切だけど、いいかげん僕たちの結婚式の話も進めたいのだけどいいかな」
ユアンの申し出にメアリーは「そうね」といってはにかんだ笑み浮かべた。
☆──☆
「ユアンは、外国からの魔法石の輸入も手掛けてたよな」
メアリーの店で昼食をとっていたユアンの前にアレクは座るとそう切り出だした。
フーブル国内で使う魔法石は国で取れた分だけでも十分なのだが、この先街灯を普及させるには数が少なすぎる、それに大きな魔法石は外国からのもののほうが多いので、ユアンは早いうちから魔法石が取れる国と取引をしているのだ。
もちろんそのための資金は、未来で流行るスイーツの売り上げで儲けた分で買っているのでユアンの会社が赤字になることもない。
でも他の社員からは、せっかくの儲けをあまり利益にならない魔法石につぎ込んでいる変わり者とみられていた。
「はい。でも僕の買った魔法石は街灯設定が決まったらレイモンド王子が買ってくれる約束をしてるので、市場には下ろしませんよ」
「いや、そういう話ではなくて、この魔法石。どこの国の物か分かるか?」
「これは?」
「あぁ、この間のヘビの魔物に使われたものだ。でも国のナンバーがないから、たぶん違法輸入されたものだろう」
国内国外問わず魔法石は使い方次第では危険をともなうため国の管理下に置かれているのだ、しかし何処にでも抜け道はあるものだ。
「そうですね」
太陽にかざしながら魔法石を観察する。
魔法石は国によって微かに含まれる成分の違いからか透明度や大きさが異なる。
「ちょっと魔力注いでもらっていいですか?」
ユアンの申し出にアレクが魔力を入れる。
「テンラ産のものかな」
テンラ国の魔法石は、フーブルの物より少し青みがかっていて、魔力を注ぎ込んだ後も、属性特有の綺麗な色にはならない、そして大きさの割に中に込められる魔力量が少ないので輸入しようとする国はほぼない魔法石であった。
「テンラか、確かにあの国の魔法石なら、普通は売れないから裏で取引されてもおかしくないな」
アレクが頭を掻きながらそんなことを呟く。
「犯人はわかりそうなんですか?」
「まぁ目星はついてるんだが、まだ証拠が足りない。でも今のでまた一つ先に進めそうだ」
アレクはそういうと大きな笑みを浮かべた。
「ところでユアンはしばらくはフーブルにいるのか?」
「はい、次の航海が終わったらしばらくは予定はありませんけど」
「フーン、じゃあ式は? 結婚するんだろ?」
そこでユアンがハァと嘆息した。
「そうですよ、でもそっちが片付かないとこっちも心から祝えない気分なんですよ……」
メアリーをチラチラみながら口ごもる。
「そうかそれは悪いな。でも大丈夫だ、レイモンドとマリー嬢の結婚も、街灯発表も予定通り行う。だからユアンたちも気にせず式の準備を進めてくれ」
「本当ですか」
「あぁ、大丈夫だ」
アレクの頼もしい言葉にユアンが瞳を輝かせる、そうしてアレクの言ったとおり、事件はその後しばらくして解決された。
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