<外伝> 騎士の誓い4

「あれ……キール……ルナ……」


 次にユアンが目覚めた時見たのは、ワンワンと大泣きをするルナと、涙目でずっとユアンの名前を呼び続けているキールの姿だった。


「ユアン!」

「お兄様!」


 ユアンが目覚めたのに気が付いた二人がガバリとユアンに抱き着く。


「良かった二人とも無事だね」

「それはこっちのセリフだ!」

「お兄様が死んでしまったと思いました」


 再びルナが声を上げて泣き出す。キールも堪えようとしたが耐えきれずといった感じでポロポロと涙を流す。


「いや、枝を振って走っただけじゃあ、さすがの僕も死なないよ」


 そういって笑ったが。キールもルナも冗談には聞こえなかった。

 

 それから三人はすっかり日が暮れたころようやく家までたどり着いた。

 家ではいなくなったルナと帰りの遅い子供たちを探しに行くべしと、捜索隊が組まれようとしていた。


 ユアンはルナを連れて行ったことを両親からめちゃくちゃ怒られた。

 キールもルナも本当のことを話したが、最終的に許可したのはユアンだとやはりユアンが怒られた。

 ググリスに遭遇したなどと言ったら、さらに怒られそうな気がして、三人はそのことは黙っていることにした。

 そして、枝を切ったりそれを振り回したりと慣れないことをしたせいで、一番ボロボロになっているユアンを、両親は森で転んでそれで動けなくなって遅くなったんだろうと勝手に決めつけたうえ、情けないとため息までもらした。

 それに反発しようとする二人をユアンは目で制すると、「本当に、すみません」と両親に笑って言ってまた怒られた。

 そしてそのままユアンは慣れないことをした反動か熱と筋肉痛で三日間寝込んでしまった。


 反省させるためにも最低限の看病しかしない両親に変わって、ルナは隙を見てはユアンの部屋に忍び込みユアンの看病をした。

 キールもハーリング家に迷惑をかけたとして、親から三日間の謹慎をくらったが、それが解けるとすぐにユアンのもとに駆け付けた。


「ユアン、大丈夫か?」

「あぁ、もう大丈夫だ」


 ルナにリンゴを食べさせてもらいながらベッドの上でユアンがニコリとそう言って笑った。


 何かあったら俺が助けてやると大見得を切っておいて、結局助けられたのは自分だった。それも一瞬でもルナさえいなければ、走って逃げられるのにとさえ考えてしまった。あの時ユアンが飛び出してこなかったら。もしかしたらルナを突き飛ばして走って逃げていたかもしれない。謹慎中キールはそんなことばかりが考えていた。


 もっと強くならなければ、口だけじゃない本当の強さを身につけなければ。

 そして謹慎していた三日間キールは腕立てや剣の素振り、部屋の中でできる筋力トレーニングを気を失うって眠りに落ちるまでつづけた。

 そうしなければ怖い考えがずっと頭から離れなかったせいもある。


「ユアン、ありがとう。お前は命の恩人だ」

「何急に改まって」


 友達を助けるのは当たり前だろ。とユアンは笑う。


 そう思っていてもそうできる人間がどれくらいいるだろう、まだ幼いキールでさえそんなことは良く知っている。そして自分もそうなったかもしれないということもしっかりと身をもって感じていた。


「俺強くなるよ」


 つい数日前までは怖いもの知らずなやんちゃばかりしていた子供とは思えないほど、真摯な瞳をユアンに向ける。


「口だけじゃない、俺は世界一強い騎士になって今度こそお前たちを守って見せる」

「うん、キールならできるさ」


 リンゴをシャリシャリと噛みながらユアンがにこやかに答える。


「本当だ。俺はお前に『騎士の誓い』を立てる」

「ん?あぁがんばれよ」


 キールの熱意とは裏腹にユアンはリンゴを食べるのに夢中だった。


「だめか?俺じゃあ役不足か」

「そんなわけあるか」


 しかしキールが捨てられた子犬のような目でユアンを見てきたので、思わず口に入れかけたリンゴを置いてそう答えた。


「じゃあ」

「うん。キールなら大丈夫だ」


 『騎士の誓い』とは、一人の主のために生涯の忠誠を立てること。


 しかし『騎士の誓い』など知らないユアンは「世界一強い騎士になる」と言った事への決意表明みたいなニュアンスとして受け止めていた。


「じゃあ、ルナもお兄様に『騎士の誓い』を立てるわ」


 ルナは騎士が何たるかもわかっていなかったが、キールの真似をしてそう言った。


「はいはい、二人とも頑張ってね。そして僕に何かあったら頼みますね」


 ユアンはルナの頭をなぜながら笑って承諾した。

 しかしキールはもちろんのことルナも本能的に言葉の意味を理解し心の中で堅くユアンに忠誠を立てる。


「「この命にかけて」」

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