62. 闇魔法
──放課後、レイモンドおよび魔具研のメンバーとキールも集められ緊急会議を行った。
「つまり、ユアン君はこの噂には闇魔法が使われているというのだね」
「はい、今日お昼にその実験をしたのですが、たぶん生徒たちにはなんらかの闇魔法が使われています」
ユアンたちが声をかけた生徒は二十名以上。そのうち一年生はほぼローズマリーの注意を素直に受け止めた。そして他の学年の生徒は、八割がたがなんらかの敵意をローズマリーに向けたのだ。そしてそれはローズマリーの姿を遮るようにユアンが間に入ると少し弱わるものの敵意は消えず、しかしメアリーが声をかけると、まるで今まで自分がやっていたことが急に恥ずかしくでもなったかのように、慌てて謝罪をしたり、そのまま逃げるように立ち去る生徒がほとんどだった。
「つまり、生徒たちはローズマリーに敵意、またはよくない感情が高まるような魔法がかけられていると」
レイモンドの質問にユアンが頷く。確かにいくら第二王子派を牽制しても、噂の誤解を解いて回っても、またしばらくすると噂が流れだし、そしてそれは徐々にただの噂にしては悪意を持ってローズマリーを見る生徒たちが増えてきているということからも否定できない意見だった。
「メアリーさんは光と聖属性の魔法使いです。彼女の発する言葉には邪悪なものを取り払う力が働いていてもおかしくありません」
そうでなかったらあの生徒たちの変わりようが説明できない。それに彼女の姿を目の前から少し隠すだけでも、明らかに敵意は弱まった。これはなんらかの魔法が関わっているにちがいないとユアンは考えたのだ。
「確かに、聖属性には闇属性の力を弱めたり消し去る力があるし、本人が意識しなくても強い言葉は言霊として威力を発揮するものがある」
メアリーのローズマリーを守りたい気持ち。そして自分たちが間違っていないという自信。それが意味もなく反発してくる生徒に正しく道を示すよう働いたのだろう。
「でも闇魔法が使える生徒なんてほんの一握りだろ、それもこんなに多くの生徒に知られずに……」
アレク達も事の深刻さに気が付き暗い顔をする。
「第二王子派の仕業だろうが、これはもう職員も加担していることも考えないといけないな、多少汚い手を使っても公爵令嬢の立場を貶めたいようだな」
レイモンドの厳しい口調に皆が俯く。
「でもネタがわかってしまえば、対処法は簡単だ」
「どうするのですか」
不安げに瞳を揺らすローズマリーを安心させるようにレイモンドがそっと頭に手を乗せる。
「メアリー嬢にはこれから毎日学園内の放送係を任せる」
「えっ!」
「なるほど」
驚くメアリーとは裏腹にアスタがニヤリと笑った。
生徒会から連絡は学内放送を通じて生徒たちに知らされる。それを使って生徒たちにかけられた闇魔法を解こうというのだ。
「うまくいくのでしょうか?」
いきなり自分の身に圧し掛かった重大な責任にメアリーが心もとなげに瞳を揺らす。
「大丈夫、本来闇魔法の洗脳は長い時間をかけて行うものだが、たぶん、今回生徒たちにかけられているのは、少し深層心理に訴えてその人が日ごろ感じている嫉妬や妬みの感情を強くしただけに過ぎない」
「そうなのですか」
「あぁ、ローズマリーの姿が視界に入らなくなっただけで弱まるような魔法だ、たぶん毎日聖魔力のこもった放送を聞いていれば、自然と解けるだろう」
「どれくらいの期間」
「そうだな、できればダンスパーティーまでは、その日マリーと正式に婚約することを発表するつもりだ」
レイモンドがニコリとローズマリーを見て言う。ローズマリーも頬を染めながら、「殿下に従います」と小さく返した。
「正式と言っても、国が認めるのは学園を卒業してどちらかが成人として認められてからになるが、学園のダンスパーティーは王族と並ぶぐらいの力を持っている魔術学園長も参加する行事だ。そこで仮とはいえ婚約発表をしてしまえば、それを覆すことはよほどのことがない限り第二王子派でもできないだろう」
確かにとユアンは思った。前の人生で公爵家の汚名が挽回されても、ローズマリーの婚約破棄は取り消されなかった。
きっと今回もダンスパーティーで事件は起こる。
だからそれまでに、相手の計画はなんとしてでもつぶしておかなくてはならない。
「私がんばります」
ローズマリーの手を握りしめメアリーが言った。
「ありがとうメアリー」
「後はこの闇魔法を広めている人物をどうにか発見しないとな」
レイモンドがその瞳に冷たい光を宿しながらそう言った。その場にいた全員も同じ気持ちだった。
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