63. 聖女の放送

 次の日から早速、メアリーの学内放送が始まった。特にお知らせがない時でも生徒会が設置した目安箱に送られてきた訴えや悩み相談などなんでも流した。

 生徒会主催なので、レイモンドやローズマリーやほかの生徒会メンバーも参加することもあった。

 もともと生徒会に選ばれるようなメンバーは貴族の中でも地位の高いものや優れた能力を持っているものばかりだったので、いくら身分制度をなしにしているとはいえ、一般の生徒まして平民の生徒たちからはどうしても壁ができがちだったが、その放送を通して、同じ年ごろのものがもつ共通の悩みや考え方が共感を呼び良い反響が広がった。お金に対しての価値観に関しては逆に溝が深まったところもあるが、それでもお互いを理解しようと、討論会なども頻繁に行われそれはダンスパーティーの前日まで続いた。



「ユアンは今回はちゃんとメアリーを誘ったのか?」


 キールの問いかけにユアンが当たり前だと答える。

 学園のダンスパティーは、エスコートをして会場に入ってきたカップルは必ず結ばれるというジンクスがあった。それを見逃すはずがない。

 しかしメアリーはそのまさに心を洗う天使の美声を学園中に放送したせいで、少なからずファンが付いていて、返事をもらうまでユアンはローズマリーの件とは別に落ち着かない日々を過ごす羽目になった。

 それでもメアリーはユアンのエスコートを断ることなく受けてくれたのだ。

 もちろんキールはアンリとしっかり約束をしている。

 アレクはほぼ認めているが、アスタはいまだに結論は卒業してからだすと言っているらしい。まあ、それでも昔のように邪魔しないところを見るとほとんど認めているようなものだ。

 本当に不可能を可能にする男だ。


「ところでダンスパーティーの衣装は制服でいいのか?」


 キールが問いかける。


「いいわけないだろ!」


 特に決まりはないが、そんな恰好で参加している生徒は見たことない。友達も相手もいなくて食べるためだけに参加していた前回の人生のユアンですらちゃんと正装はしていた。


(そういえば、キールは前回は教授と色々あってこういう会には参加していなかったんだ)


 ふとそんなことを思い出し感慨にふける。


「しょうがない、衣装仕立てに行くぞ」

「わざわざ仕立てんのか……」


 いつも訓練はやる気十分なのに、こういうことには本当にこの幼馴染は腰が重い。

 しかし「アンリ先輩も期待しているぞ」というと素直についてきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る