67. メアリーの行方
会場から出たユアンは、その後すぐに隠密部隊の一人と接触して今の状況を確認する。
「メアリーは!」
「学園の外には連れ出された形跡はありません」
フーブル学園には学園全体を包む結界が張られている。だから部外者が侵入したらすぐにわかるのだ、そしてそれは生徒も同じで誰が学園内にいてまた外にでたかは調べればすぐにわかるようになっていた。
「各学部塔も同じような結界があるので、塔内にはいないようです」
塔の中にもいないのならばメアリーはこの寒空の下どこかの外にいるのだろうか。
ユアンがブルリと身震いをする。しかしそれはない気がした。いくら学園内には緑が多いとはいえ、一人の人間を木陰に隠すのは難しいそれにこの寒さだ。一緒にいる見張りもつらいだろう。
ならばこの学園に数多に存在する部室ならどうだろう。それならばひとつひとつ結界は張られていないし、今日はクラブ活動をしているほとんどの学生がダンスパーティーに参加しているはずなので、部屋は空いているだろう。
「今、我々も魔術大会の時に判明した第二王子派の連中が所属していた部活動を中心に探しています」
隠密部隊は三人。そのうち二人はすでに東と西に散っている。
「わたしは、南を探すのでハーリング様は北をお願いします」
ユアンに説明を終えた隠密がそう言った。
「あと、もしベーカー様を見つけたら一人で助けにはいかず。この石を割ってください」
それは壊すことで本人に魔力が帰っていくのを利用した、魔法使いたちの連絡方法の一つであった。
「それと、これを」
隠密がこぶしほどの袋を二つ差し出す。
「この中には今まで魔法研究倶楽部で使ってきた魔力が込められた魔法石が入っています」
念のために渡しておくだけで、決して一人で無茶をしないようにと釘を刺す。
「ありがとう」
そうして二人は別れた。
北西には騎士学部塔、北は一年生塔、北東には行政学部塔がある。魔具研が魔法学部とアンリの通う行政学部の間にあるように、部室はだいたいその近くの学部の生徒に関連したものが多い。
基本騎士学部の生徒は訓練が忙しいので部活に入る者はいない、あってもトレーニングルームぐらいだ。なので、ユアンはまず一年生塔から行政学部塔の間に点在する部室を調べた。
しかしほとんどの生徒がダンスパーティーに出席しているので明かりがついている部室はほとんどない。それでも電気を消して息をひそめている可能性もあるので、近くまで近づいて気配を探る。
薄暗い部室から人の話し声がする。ユアンが慎重に近づき聞き耳を立てる。
「先輩、ずっと好きでした」
「俺もだ」
「…………」
どうやら違うらしい。
次は明かりのついている部室に気配を消して近づく。
「くそー!俺のエスコート誰も受けてくれないってどういうことだ!」
「身分がいけないのか!それとも女はみんな顔なのか!」
ちょっと心が痛い。どうやらここも違うようだ。
「こんなことで見つけられるのか」
焦りと不安がユアンを襲う。
隠密部隊からもらった第二王子派の所属している部室は一通り見て回ったがメアリーは見つからなかった。
「くそ!メアリーどこにいるんだ」
その時ふと地図の上に違和感を覚えた。魔法学部塔と行政学部塔の奥にひっそりと位置するはずの場所魔法道具研究倶楽部の部室。そこにチャックがないのはわかるが、部室があるという地図記号さえ書かれていなかったのだ。
「もともとは庭師の用具入れ兼休憩所だった場所を、先輩達が改築して部室として作り替えたって言っていたな」
そんなことを思い出す。
「だいたいメアリーはどうやってさらわれたんだ」
ローズマリーと正門で分かれ、ダンスパーティー会場はちょうど剣術大会などが行われたコロシアムと一年生塔の間。コロシアムは学園の真ん中に位置するのでほぼ門からは一直線である。それまでの間に同じように会場に向かう生徒たちがいたはず、隠密が使っていたような認識阻害魔法が使えたとしても、いきなり目の前で人が消えたりしたら怪しまれるだろう。
「もしかしたら……」
ユアンが走り出す。
『魔法道具研究倶楽部の部室で待っているそうですよ』
そうささやかれたら。きっとメアリーのことだ。疑うことなく部室に向かったに違いない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます