04. 寮に入ろうと思います

「家から通うのではなく、学校の寮に入ろうと思っているのですが」


 ユアンの突然の申しでに、今まで和気あいあいと食事をしていた家族の手が止まる。


 フーブル学園入学を一週間前に控え、お祝いも兼ねて7つ上の兄も宮廷勤めから帰ってきており、1つ下の妹と両親5人久々の家族水入らずの食卓であった。


「どうしたの、いきなり」


 母親が突然のことに大きな体と同じぐらい大きく目を見開く。


「学園までは毎日は馬車で通うと言う話ではなかったのか」


 洗礼式前までは、絶対家から馬車で通うと言い張っていたので、そう言われても仕方ない。


「今さら寮なんて……だいたい、もう部屋がないだろ」

「それは大丈夫、キールと相部屋にしてもらったから」


 2年生で騎士学部を選択した生徒は必ず寮に入らなければならない、そのためすでに騎士学部希望の生徒は、入学時から寮に入る生徒がほとんどである。


 そして貴族たちのほとんどが1人部屋なのに対し、それと同じ大きさの部屋に平民たちは2人、3人一緒に生活している。

 だから、キールが入るはずの部屋にユアンが転がり込んでも広さ的にはそんなに問題はないのだ。大体貴族の中には召使いを一緒に住まわせている子もざらである。


「キールとキールの両親はもう承諾済みだから」


 まだ事態が飲み込めない両親にユアンはさらりと付け加える。


「でもどうしていきなり」

「何か不満でもあるの?」

「不満なんてないですよ、ただ僕は一度、家からでて自分の力だけでやっていくのも、経験の1つだと思っただけです」


 それっぽいことを言いながら、目の前に並べられた豪華な食事にゴクリとつばを飲み込む。

 学校の行き帰りも馬車に乗りそして家では豪華な食事。家族は皆大食漢。父や母はもちろんのこと兄や妹も言うまでもないその体型。


(これからダイエットしようと思っている僕に、これを我慢しろと、そんなの拷問でしかない)


 目の前の豪華な料理を見るだけで我慢しなくちゃならないなら、家を離れ寮に入ってしまった方が良いに決まっている。

 それにキールと一緒なら毎日欠かさずトレーニングはすることになるだろうし。寮は学園に隣接してるので、歩いて通うのも運動になるだろう。


「なんて素晴らしい考えなの」

「いつの間にこんなに成長していたんだ」


 そんなユアンの思惑など知らない両親は、ユアンをほめたたえるとなぜだか勝手に感動して寮生活のことを許可してくれた。

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